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鋼鉄。3

 

 エラルドを探して、鋼鉄は街を巡る。


 もちろん、巨大なゴーレム型の魔物…受け入れて貰えるような街は一つもなく、武装した人間達の襲撃を受ける。


「なんだ…こいつは…」「攻撃が効かない! 全力を!」「逃げろおぉぉ!」


 人間達の総攻撃は、鋼鉄に傷一つ付ける事は出来ずに終わる。

 そして、街に入り込んだ鋼鉄は他には目もくれずに神殿を目指す。


『……イナイ』


 この街の神殿には、エラルドは居なかった。

 居ないと解れば、この街に用は無い。

 人間達の攻撃を無視しながら、次の街へ。


『……イナイ……ドコニイル……』


 また次の街へ。次の街へ。



 そして、最後にたどり着いた街……大教会と呼ばれる神殿の総本山。

 強固な守りに後回しにしていた。慈悲が封印された場所として絶対種から情報が回っていたからだが…


『……ジヒ……キコエルカ?』


『……なんだ、笑いに来たのか? 鋼鉄』


 大教会の裏にある山に向かって話し掛けると、山が反応した。

 まだ封印されたばかりで、山が動いている。

 頂点の双子山…耳の部分がピクピクと動き、巨大な口の部分が動いて喋り出す。


『アイタイモノガイル』

『人間か? やめておけ…彼処に行けば奴が居る』


『……ヤツ?』

『聖女と名乗る人間……奴は、別格だ。お前じゃあ直ぐに死ぬぞ』


『……ソレデモ、アイタイカラ……イッテクル』

『忠告はしたからな。俺は、少し眠るとしよう』


 慈悲との会話を終え、鋼鉄は単身大教会へと乗り込む。

 目的は…人間の裏切りなんてどうでも良くなっていた。


 鋼鉄はただ、エラルドに会いたかった。



「来たぞ! 悪魔のゴーレムだ!」「討ち滅ぼせ!」「神敵には死を!」


 大教会の前にやって来た鋼鉄を、人間達の攻撃が襲い掛かる。

 鋼鉄は、反撃をせずに人間達一人一人の顔を確認していく。


『イナイ』

 だがエラルドの姿は無く更に奥へと足を進めようとする。


『ナイフ・ホーミング』


 __ザシュ__ザシュ。

「ぐあぁ!」「くっ…強い」


 人間達の足を狙い、動きを封じていく。

 殺す事はしない。

 エラルドが守っている者を殺す訳にはいかなかったから。


 無力化してはいくが、際限無く現れる人間達。

 中々進めずにいると、奥の方から走って来る人が目に入った。


「ジグ! 何をしているの!」

『エラルド…』


 エラルドにようやく会えた。

 だが、エラルドの目には怒りが宿り鋼鉄を睨み付けている。


 鋼鉄には解らなかった。

 鋼鉄は、エラルドに会いに来ただけだったのだから。


「沢山の街を襲っているって聞いて……ジグはそんな事をしないと思っていた……ねぇ…どうして! どうしてこんな事をしたの!」

『アイニ…キタ。ドコニイルカワカラナカッタ』


「会いに……なんで会いに来たのよ……私達は…」


 敵同士。

 エラルドは、その言葉を言えなかった。

 ざわざわと、周囲の人間が困惑する中……奥からゆっくりと歩く者が現れる。

 鋼鉄が異様な気配に警戒し、エラルドは道を開けてやって来た者に跪いた。


「まだ回復していないのに次から次へと……これは、どういう事かしら? エラルド」

「はっ、はい! それは……」


「あなたが連れて来たの?」

「ちっ、違います! ですが……幼い頃に、命を助けて貰いました……」


「ふーん。命をねぇ……まぁ良いわ。エラルド、こいつを引き留めておいて」

「えっ、あっ、はい」


 ピンク色の髪を耳に掛けながら、冷たい視線を鋼鉄に向ける女性。慈悲が言っていた聖女と名乗る人間…初代聖女オリヴィア・ドーメル・クロスハート。


 エラルドが鋼鉄の前に行き、涙を浮かべながら剣を向ける。

 本当なら、剣を向けたくは無かったがエラルドにはこうするしか無かった。


「ジグ…逃げて」

『エラルド…カエロウ…アノモリヘ』


「…私…は大丈夫だから…」


「ねぇゴーレム、エラルドと帰りたいのね? じゃあ、両手を地面に付けてくれないかしら? 転移で帰してあげる。戦争中だけれど、あと一年は続きそうだし……エラルドも一週間の休暇をあげるわ」

「ほっ、本当ですか!?」


 オリヴィアが、鋼鉄の元へ歩み寄り淡々と言う。

 慈悲の事もあるから、警戒しているのだがエラルドは嬉しそうに鋼鉄へと抱き付いた。


『ホントウカ?』

「私は聖女よ」

『……ワカッタ』


 鋼鉄が地面に両手を付け、オリヴィアが真っ白い魔法陣を展開する。


「聖女だから、職務を全うしなければねぇ……封印禁術」

「えっ……」


 ジャラジャラと真っ白い鎖が鋼鉄に絡み付き、『グオォオ!』鋼鉄の動きを封じていく。


「オリヴィア様! どういう事ですか!」

「どういう事って、私は自分のやるべき事をするだけよ。皆のもの! 祈りを捧げよ!」


 周りの人間達が跪き、オリヴィアに向かって祈りを捧げる。

 慌てふためくエラルドは、鋼鉄に絡み付いた鎖を外そうとしているがビクともしない。


「ジグ! 逃げて! 取れない!」

『エラルド…ハナレロ……シヌゾ』


「嫌だよ! ジグを見殺しになんて出来ない!」

『……スマナイ……ワタシガキタカラ……』


 真っ白い光が、オリヴィアを包んでいく。

 人々の祈りが、力となっていく。

 鋼鉄は力を振り絞り、エラルドを離れた場所まで突き飛ばす。


「人の想いよ…祈りよ…全てが交差し…悪を滅ぼす力と成れ! 神位魔法・クロスハート!」


 __ドゴォォオ!

 巨大な純白の十字架が鋼鉄に突き刺さった。

 そして、十字架な膨張し破裂。

 膨大なエネルギーの奔流が吹き荒れた。


『グァァァァ!』

「ジグーーーー!」



 光が晴れ、鋼鉄はブスブスと溶け、ボコボコに変形した身体になっていた。


「はぁ…はぁ…しぶといわね。この前使ったばかりだから、祈りが足りなかったかしら」


 オリヴィアは神位魔法・クロスハートを放ち、相当疲弊していた。

 ヨロヨロとエラルドの元へと向かう。


「はぁ…はぁ…エラルド、あなたがとどめを刺しなさい。そうすれば、こいつの仲間だったなんて言わないわ」


「……」


 人間達は武器を構えて警戒している。

 エラルドが鋼鉄と仲が良い裏切り者だという認識を持っているからだが、そんな人間達を無視してエラルドは鋼鉄の元へ行く。

 我慢していた涙は溢れ、ボコボコになった鋼鉄に剣を向ける。


「ジグ…ごめんね……」

『……エラルド…タノシカッタ』


「……バカ」


 エラルドが剣を振り上げたその時、エラルドの後方……オリヴィアが魔力を解放した。

「__っ! オリヴィア様!」

「待つのに飽きたから、撃つわね。ホーリィレイ」


 キュィィイイイ!__

 光の柱が鋼鉄と、


「__ああぁぁぁぁ!」


 エラルドを貫いた。


『エラルド!』


 バキンッ__バキンッ__

 鋼鉄の身体にある球体が、青色から赤に変化。

 封印禁術を引きちぎっていく。

 そして、光の柱に貫かれたエラルドが倒れ込む所で受け止めた。


「……グ」

『エラルド! エラルド!』

「…ねぇ……かえ…ろ…」


 鋼鉄がエラルドを呼ぶが、エラルドは最後まで言葉を言う事無く…息を引き取った。


 大事な人を守れなかった。

 約束を守れなかった。

 鋼鉄は自分を責める。

 そして、エラルドを殺した人間を憎んだ。


「あら、力加減を間違えたかしら? まぁ良いわ。魔物と繋がっていた裏切り者が死んだだけだし」

『……ニンゲン…ニンゲン…コロス』


「うーん…世の中上手くいかないものね。この世界では失敗したくないから、手を抜かないようにしないと。__封印禁術」


『アアァァァ! トマホーク・レイン!』


 ドドドド!__

 地中から大量の斧が飛び出し、人間達を粉砕していく。

 それと同時に、足が白い鎖に絡み付かれる。

 エラルドを抱えながら、鋼鉄は武器を降り注がせ逃走を図る。


『ナイフ・トルネード!』


「ぎゃあぁぁぁ!」「ぐぎゃぁあ!」


 ふとオリヴィアを見ると、酷く疲れている様子で膝をついている。強い魔法を使用し過ぎた反動が来ているのだろう。

 オリヴィアが行動不能ならば、直ぐに逃げられる。

オリヴィアを攻撃するよりも、エラルドと静かな場所に行きたかった。

 身体を武器に変形させ、高速で大教会を去る。



 それから、しばらく逃げ続け……


 エラルドと初めて出会った森へと帰って来た。



『エラルド…』


 もう動かないエラルドを大きな木の根元に寝かせる。

 鋼鉄も、疲れきったようにその場に座り込んだ。

 足に絡み付いた白い鎖が鋼鉄の身体を浸食しているが、それに構わずエラルドを眺めていた。


『マモレナカッタ……ダイジナ…エラルド』


 人間とは、なんと脆い存在なんだろう。

 あの笑顔も、泣き顔も見せる事は無く…エラルドは動かない。


 もう…封印禁術により動けなかったが…次に復活した時は…この憎悪を晴らさなければいけなかった。


『ニンゲン…コロス…』


 それから、封印禁術が身体を浸食……鋼鉄は封印された。


 鋼鉄にとって、エラルドと過ごした時間は…一瞬の出来事だったが、何よりも大切な思い出となる。


 だからこそ、人間達に対する憎悪が消える事無く…


 封印されてからも人間達を殺す事だけを考えていた。



 ______

 ____

 __



 ゆっくりと流れる時間の中で、刹那は鋼鉄の記憶を読み取った。


「……大切な人を守れなかった気持ちは解らない…解らないけれど、何かしてあげたいと思うのは…傲慢なのかな…」


 流れる涙を拭う事も無く、禁術クイックタイムを解除する。


 ゴオォォォ!__

 巨大な剣となった鋼鉄が、刹那の横を通りすぎた。

 攻撃の余波で、フワリと身体が浮く。

 そのまま無造作に投げ出されるところで、健次が刹那を抱えた。


「音市! 大丈夫か!」


「…大丈夫じゃない」


 健次が刹那の元へ行くが、泣いている刹那にギョッとしていた。

 珍しく弱気な刹那に、健次は不安に襲われる。

 何があったのか解らない。

 解らないが刹那に辛い出来事があった事は事実。



「鋼鉄…あなたはもう…エラルドの声しか…聞こえないんだね…」

『ニンゲン……コロス』


 刹那は健次から離れ、ストレージから取り出したエリクサーを飲み干す。

 健次にサポートを任せ、刹那は鋼鉄に近付き…

「魔力ブースト」

 魔力を解放。


 魔力を感じ取った鋼鉄は再びゴーレムの姿に変形し、警戒しながら刹那を見据える。


「あなたを逃がせば、人を殺す。人を殺せば…エラルドが悲しむ…」


『エラ…ルド』


「私が…エラルドの代わりにあなたを止める!」



 刹那が足元から、魔法陣を四つ展開。赤、青、緑、黄色に輝いている。

 刹那は熱くなって、らしくない自分に苦笑しながら魔法陣を重ねていく。


『オマエハ…ナゼナク…』

「愛を知る人間だからだよ……私の名前は刹那! 音市刹那!」


『……ジグルドダ』


 四色に輝く魔法陣が刹那を包み込み、形を変えていく。

 鋼鉄を見据える刹那が浮き上がった。


「ジグルド…ごめんね。私はガキだから…こんな解決しか思い浮かばない。 __魔装・魔法戦車(マギチャリオット)!」


 ドゴオォォン!__

 重厚な音を響かせ、大地に聳え立つ10メートルを越える全身鎧。

 プシュー!__脚部の無数の穴から噴き出す煙が存在感を増していく。

 健次がドン引きしている中…全身鎧は鈍く鉄色に輝き、赤いマントを羽織る姿は…物語に語られる英雄のようにも見え…エラルドが憧れた騎士の姿にも見えた。



「本当に…ままならない世界だね…ジグルド」







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