表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
261/285

鋼鉄。2

時間が開いてすみません。百合百合の切りの良い所まで書いていましたorz


 

(これが、鋼鉄の記憶……)



「うぇぇぇん! うぇぇぇん!」


 鋼鉄の目の前で、少女が泣いている。

 黒い髪の少女。

 手には真ん中から折れたボロボロの剣を持ち、一人で泣いていた。


『……』


 森の中、迷い込んだ様子。

 何処へ行くのかも解らず、フラフラしている所を鋼鉄が見掛け近寄ってみた。

 近寄ってみたが、泣いているだけで鋼鉄には目もくれない。

 泣き止むまで、待ってみる事にした。


「……ぇぐっ、ぇぐっ……」

『……』

「……」

『……』

「……? ゴーレムさん?」


 少女が鋼鉄に気付き、生気の抜けた目を向けてくる。


『ココデ…ナニヲ…シテイル』

「お家に帰ろうと思ったら…迷っちゃったの」

『……ヒガシノムラカ?』

「うん…多分…」


 鋼鉄は少女に手を差し伸べる。

 少女は首を傾げ、ハッと笑顔になって鋼鉄の手に飛び乗った。

 村まで送り届けるだけ。

 そこに優しさは無く、泣かれるとうるさいという考えから。

 そして誰でも良いから人に渡せば良いと思っていた。


「ねぇ…ゴーレムさんのお名前は、なぁに?」

『ナマエハ、ナイ』


「そうなんだぁ…じゃあ、ジグ! ジグルド!」

『ジグルド? ワタシノナマエカ?』


「うん! 私の名前がエラルドっていうの! だからジグルド!」

『……スキニヨベ』


 エラルドと名乗った少女は、村で母親と共に過ごしていた。

 薬草を摘み、薬を作る母親の手伝いをしているという。

 いつもなら迷う事は無いのだが、安全だと思っていた場所で魔物に襲われ、逃げている内に迷ってしまった。


「それでね! 剣なら同じくらいの男の子にも勝てるんだよ!」


 よく喋る。鋼鉄がエラルドに向ける印象はそれに尽きた。



『…コノサキ二ムラガアル』

「ジグありがとう! 今度遊びに行くね!」

『ヤメテオケ……ソノケンヲミセロ…』


 鋼鉄がエラルドの持っているボロボロの剣を指差す。

 時折、エラルドが悲しそうな表情で剣を眺めていた事を覚えていた。

 エラルドはお礼に欲しいのかな? と、素直に命を救ってくれた鋼鉄に剣を渡す。


『……ソード』

「えっ……」


 地面から金属の塊が飛び出し、ボロボロの剣と合わさる。

 一瞬にして、綺麗な剣へと変化した。

 それをエラルドへと渡す。

 もう迷い込むなと言いながら。


「……ありがとう……ありがとう……この剣…お父さんがくれた剣なんだ……ジグ…ありがとう」


 ポロポロと涙を流すエラルドに、鋼鉄は嬉しくても人間は泣くのだな…と思いながら立ち去った。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 数日後。


「うぇぇぇん! うぇぇぇん!」

『……』


 鋼鉄の前にはエラルド。

 今度は綺麗な剣を大事に抱えながら泣いていた。


「ジグぅぅ! どこおぉぉぉ!」

『……ココダ』

「えっ? ジグ!」


 ゴツッ__

 硬い鋼鉄に頭をぶつけながらも嬉しそうに抱き付き、エラルドは無邪気な笑顔を見せた。

 鋼鉄は、理解出来なかった。

 弱いのにまた死ぬかもしれない森にやって来たから。


『ナニヲ…シニキタ?』

「何をって、ジグに会いに来たんだよ!」


『コノモリハキケンダ』

「でもジグが居れば大丈夫。私を守ってくれるもん!」


『マモル? ニンゲンヲ?』


 人間を守ってどうするというのか。

 寿命の短い生物を守る意味が解らなかった。

 それでも、エラルドは自信あり気に鋼鉄へ笑顔を向ける。

 意味は解らないが、鋼鉄は特にやる事も無かったからエラルドの言う事を聞いてみた。

 長い寿命を誇る絶対種だからこそ、無駄な事をしても痛くも痒くも無いと思っていた。


「ねぇねぇ! ジグの身体にある大きな青い玉ってなぁに?」

『コレハ、カクダ』


「核? 心みたいなもの?」

『ソウダナ』


「ふーん。他の色にはならないの? 赤とか、黄色とか!」

『サアナ…アオカラカワッタコトハナイ』


 ベタベタと核に触ってくるが、鋼鉄は拒絶する事もなく受け入れていた。

 暇さえあれば、鋼鉄に会いに来るエラルド。


 鋼鉄はエラルドと居る事で、心境に変化が訪れる。


「私ね! 夢があるの!」

『ユメ…ナンダ?』

「みんなを守る騎士になりたいの! 本で読んだんだ! 格好良い鎧に赤いマント!」

『…ナレルトイイナ』


 エラルドが来やすいような場所に住み着き、危険な魔物を追い払う。

 母親が作った薬草を運びやすいように、街への道を整備してみたり…

 エラルドの為に行動する事が増えてきた。



 エラルドは、年を重ね成長してからも変わらず鋼鉄に会いに来ていた。

 黒い髪は伸び、女性らしい顔付きになっている。



「ジグ! 今度試験があるの!」

『シケン? ナンノシケンダ?』


「ふふふ、神殿騎士の試験だよ! 今年は女性の枠が多いんだ!」

『キシ? ナレルノカ?』


「受かればね。ジグが作ってくれた剣で、みんなを守れたら…ジグがみんなを守っているのと同じだね!」


 鋼鉄は、エラルド以外の人には会わない。

 本来人が敵わない強さを持ち、恐れられる存在だから。

 鋼鉄はそれが解っているから、人と関わらないようにしていた。

 生き方も、思考も、目的も違う種族だから関わる事は無いと思っていた。


『……マモリタイモノヲマモレ……エラルドハ、ワタシガマモロウ』

「…ジグ、ありがとう。受かったら…あまり会えなくなるけど…時間があったら、直ぐに来るから」



 エラルドは、それ以来姿をみせる事は無かった。


 鋼鉄は待つ。

 エラルドが再びやって来るまで。


『……』



 そして、しばらく経ったある日…世界に変調が訪れる。


 創星神と古神の戦争。


 鋼鉄の元に助力を願う絶対種が訪れる。


『………鉄…闘お』


 共に戦おうと伝えるが…鋼鉄は待っている者が居る…と、動かなかった。



『コウテツ、オマエモタタカッテクレ』


 次は、黒い霞のような絶対種が訪れ、現状を伝えていく。


『ニンゲンガネガエッタ……コノママデハ、ソウセイシンガアブナイ…』

『……ナンダト』


 人間達が、古神に寝返った。


 鋼鉄が真っ先に思い浮かべたものは、エラルドの笑顔。


『……エラルド』


 確かめたい。


 鋼鉄は、創星神の為にでは無くエラルドの為に動き出した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ