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これは暗部の仕事じゃない…

 

 健次の前に立つ、艶々した灰色の巨体。

 永い眠りから覚めたように、腕を鳴らし自身の動きを確認している。


 掴んでいた盗賊達は既に肉塊と化し、助かる見込みはゼロ。

 残っていた数人の盗賊も踏み潰され、呆気なく命を散らしていた。


「今すぐ逃げろ。こいつはヤバい」

 先ずやる事は、騎士達を安全な場所へ避難させる事だが…


「俺達も戦うぞ! アイツの素材は高く売れそうだ!」

「おう!」


 冒険者達は戦う気満々。

 ここから先は自己責任なので、止める事はしないのだが…


「私達も戦うわよ!」

「いえ、ベルトニア様…逃げましょう」


 ベルトニアが逃げない事に、馬鹿なのか? と心の中でため息を付いた。


「こいつを仕留めて手柄を立てるわよ!」


「力の差が歴然だけど…なんで戦う…俺は止めたからな」


 この周辺は鉄鉱石が産出される地域で、ゴーレム型の魔物も多く騎士と冒険者の感覚が麻痺している部分もある。

 王種よりも強い者の実力を計れる者など数少ない事に加え、手柄を立てたい冒険者やベルトニアが居る。


 彼らにとって、この魔物はゴーレムの親玉程度の認識しかなかった。



 冒険者達は散開し、魔物に魔法攻撃を浴びせる。

 魔物が魔法に意識を向けた瞬間に、大きな斧を持った冒険者が足元に到達。


「足を砕けばこいつは終わりだ! パワークラッシュ!」


 ガツッ__「くっ…硬え!」足を狙った攻撃は直撃したが、傷一つ無く斧が曲がっている。


「狙うならここでしょ! アクアショット!」


 弓を持った冒険者が魔物の赤い玉を狙い、水を纏った矢を放つ。

 カッ__矢は突き刺さる事も無く弾かれた。


『ヨワイ…ヨワスギル』


 魔物が両手を地面に付け、赤い玉が光りだす。

 感じる魔力の桁が明らかに違った。


「あぁ…くそ…全体攻撃か……忍術・疾風走破」


 健次が風を纏い、高速で魔物の懐に潜り込む。

 小刀で赤い玉を斬り付けるが傷一つ出来ない。

 どんどん魔物の魔力が上昇していくのを間近で感じ、焦燥感が募っていく。


「分身達! みんなを遠くへ!」


 分体を操作。冒険者達、騎士達、ベルトニアを捕まえて遠くへ退避。


「ちょっ! 離しなさい!」

「なんだお前達は!」


 暴れられるが、分体はレベル50相当なので簡単には振りほどけない。ベルトニアに蹴られている分体は可哀想に思うが、緊急なので頑張ってもらう。


『…ブレイド・ダッシャー』


 ザザザザ!__地面から大きな剣が無数に突き出る。

 なんとか躱した健次が剣をみると、刺されば一溜りも無い程の鋭利な刃。まるで大きな剣山のよう…

 分体に抱えられた者達が予想を超える規模の魔法に硬直していた。


 そして、突き出た剣が一斉に健次の元へ動き出す。

 全方向から剣が迫る。


「忍術・空駆け」

 健次が空中をタンッタンッと駆けて魔物と剣から距離を取る。

 その瞬間、ガガガガ!__剣のぶつかり合う激しい剣戟の音が響いた。


「…どうしよう…俺って逃げ特化だからなぁ」


 躱す事は出来るが、このままでは日が暮れる。

 両手を地面に付けていた魔物が、今度は両手を空に向けた。


『…トマホーク・レイン』


 地中から大量の斧が飛び出し、空高く上昇。

 一瞬の停滞の後…


「もう…どんな魔法だよ……」


 ドゴンッ__ドゴンッ__

 自由落下で斧の雨が降りだした。

 斧は回転しながら地面に深々と突き刺さり、再び上空へと飛び出していく。

 上から斧の雨…下から飛び出して来る斧。

 無差別に上下しているので、躱す事は簡単なのだがそれで終わるとも思えない。


『…ホーミング・スピア』


 地面から高速で飛び出す槍。


「__うおっ!」


 間一髪避けるが、ギュイッと方向が変わり健次に突き刺さる。

 槍が突き刺さり、ゆっくりと落ちていく様子を魔物は無機質に眺めていた。


『……』


(…あぶねぇ…変り身の術でなんとか誤魔化せたけど……このまま逃げた方が良いよなぁ……)



 射程の範囲外で身を屈めて様子を見ていると、魔物がいる広場にやってくる者…盗賊を呼び込んだ騎士が現れた。


「……なんだ…こいつは…」

『ニンゲン…』


 ノコノコやって来た騎士は少し呆然としていたが、ハッと我に帰って逃げ出そうとした所で…

 ガスッ__「がっ…はっ…」頭に斧が突き刺さり、直立のまま後ろに倒れ込んだ。


(あーあ。死んだな。自業自得か……)


 一応国の騎士なので助ける事も仕事なのだが、状況による。

 この場合は見捨てるしかない。


(このまま放置したら近くの街が破壊されるか…)


 地中を移動出来るので、街へ行く前に人の気配を追って分体の場所を攻撃しかねない。先ずやるべき事は…


(……出ない)


 先程から秋に通信してみるが出ない。

 何か事件に巻き込まれているのかと思うが、こちらも大変な事態。とても一人で対処出来る事案ではない事は確かだった。


(仕方ない…やるだけやるか…)


 分体を最小限にして魔物の背後に移動。

 地面に手を付き忍気を込める。


「忍術・纏わる大樹」


 魔物の周囲に植物の根が飛び出し、魔物に絡み付く。

 次々と根が絡み付き、捻れた大樹のように聳え立った。


「効くかなー…俺の必殺技」


 空駆けで大樹を見下ろせる場所に到着。

 ボッボッボッ……

 忍気を練り、大樹の周囲に八つの巨大な炎を出現させる。


「火遁・八天焔!」


 根に拘束されている魔物目掛けて八つの炎を収束させる。

 ゴオォォオオ!__

 大樹もろとも炎で焼き付くす。

 絡み合う炎が周囲の温度を上昇させ、近くの木に燃え移る。


「あっ、やべ……水遁・集中豪雨!」


 山火事になる前に雨を降らせ、消火を試みる。

 燃え移った炎な消えたが、中心の炎は燃え続けていた。


 様子を見る為、高い位置から眺めていると大樹が燃え尽き倒壊。

 魔物の姿が見えてきた。


「……効いている…かな」


 身体が熔け、攻撃が効いている。

 追撃しようとした所で魔物の赤い玉が光り、身体が元に戻った。


「再生……うん、やっぱり俺には火力が足りない」


 もうやるだけやった。

 ここまで頑張れば怒られないと判断する。


『ニンゲン…ジャマヲスルナ』


 魔物が両手を健次に向け、赤い玉を光らせる。

 地面からおびただしい量のナイフが出現。


「うわ…」

『…ナイフ・トルネード』


 ナイフが次々と地面から飛び出て渦を巻きながら健次へと向かう。

 空駆けで逃げるがナイフの竜巻は健次を追って方向を変えてきた。


「忍術・雲隠れ!」


 大量の水蒸気が出現。

 魔物を包み視界を鈍らせるとナイフが別方向の地面に衝突。


 その隙に離れた位置に退避。


「あー、使いたくは無かったけども! 俺の最強魔法!」


 健次が収納から魔法玉を取り出し、魔力を込める。


「召喚魔法・刹那たん!」


 紫色の魔法陣が出現。

 魔法陣から腕を組み、真っ直ぐ前を見据える女の子が現れた。

 黒いローブを着て、既に戦闘スタイル。

 相変わらず感情の見えにくい表情で、刹那は健次を一瞥した。


「……」

「音市…助けて」

「…こいつは鋼鉄。絶対種」

「あぁ…道理でこんなに強いのか…」


「まぁ…任せて。なんとかする……私は天才だから」

「自分で言うのね」

「自信が無ければ、この世界ではやっていけない」


 刹那が魔物…鋼鉄の元へ歩いていく。


『……ニンゲン』


「鋼鉄、溟海も毒酒も天空も仲良く暮らしている…あなたも共に暮らす事は出来ない?」


『マタ…マドワスノカ。ニンゲン…シネ』


「そう…なら、私が道を示してあげる」



天異界にて。


作業中のキリエにグリーダが纏わり付いている。


「キリエさんの故郷って何処なんですか?」


「どうしたのいきなり…ちょっと離れてよ。お願いだから匂い嗅がないで」


「願い星ちゃんは嗅がせてくれますよ。キリエさんって転移者ですよね?」


「そうだよ。天異界同盟に入っていない世界。私を育ててくれた人を探す旅に出たら、この世界に迷い込んだんだ」


「へぇー、キリエさんもマスターに負けず劣らず波瀾万丈ですよね。もうすぐ旅に出るんで、もし会ったらルビアに居るって伝えておきますね」


「くふっ、ありがとう。でも、もう生きていないけどね」


「そうとも限らないですよ。キリエさんの匂いから、何処かの女神の匂いがしますから」


「…ほんと? …女神か…本当だったら…会いたいなぁ…」


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