暗部の仕事。
ファー王国の南東にある山脈にて、とある一団が歩みを進めていた。
一人の若い貴族を中心とし、残りは騎士五人と冒険者四人。総勢十人の一団。
「この辺りにあると聞いていたんだが…」
騎士の一人が辺りを見渡し、地図と照らし合わせながら現在地の確認をしている。他の騎士も同様に確認していたが、目的の場所に間違い無いように思っていた。
目的の場所に到着したが、目的の物は見付からない。その様子を見ていた貴族が、少しイライラした様子で騎士を睨み付けた。
「どういう事? ここに霊薬の材料があるっていうからわざわざ来たのに、無いじゃ済まされないわよ?」
「申し訳ございません。古い書記に記されていただけでしたので…」
騎士を睨み付ける貴族…ファー王国レイモン侯爵家の長女。ベルトニア・レイモン、14歳。青い髪をポニーテールにし、切れ長の青い目を騎士に向けていたが、怒っても仕方無いと解っているので、視線を逸らしてため息を付いた。
かの魔王を討伐した勇者パーティー…聖騎士の家系である彼女は、『バジリスクの涙』という霊薬の材料を探しに王都から遠く離れた山脈までやって来た。
何故彼女が霊薬を探しているかというと…聖騎士の活躍以降、目立った功績も無いまま何代も続いている状況で、半年程前に剣技大会でオードと闘った次男…ベスタの失態により、レイモン家の支持が低下。
何か功績を挙げなければ、次の代で家の降格も有り得る。
そこで目を付けたのが、王城の書庫に載っていた『バジリスクの涙』という重度の石化を回復出来る霊薬の量産化だ。
ファー王国は元々、グレートポーションなど薬品の輸出が盛ん。なので、素材の群生地確保、生態、栽培可能か否かの調査をレイモン家が志願した。
ほとんどの素材は近場に群生地があり、問題は無いが残り二つ…『月夜草』とランクAの魔物『バジリスク』の血液。
ベルトニアはその『月夜草』を探しに来ていた。
「…とりあえず、ここを拠点に探すわよ」
「はっ! 了解しました!」
山脈の中腹。森の中の開けた場所にテントを張り、騎士二名とガイドの冒険者四名は月夜草探しに出掛け、ベルトニアと護衛の騎士三名はテントにて待つ事に。
そして、それを眺める一人の男が居た…
(あー…月夜草…めっちゃ踏んでる…もどかしいな…)
黒髪に、黒装束を着たファー王国暗部所属の棚橋健次。
彼は、素材探しのサポートのサポート…陰からこっそり覗き、危険が起きたら対応するという、忍耐を試される任務に就いていた。
気配を消し影と同化しているので、護衛の騎士も健次の存在を知らない。
「…少し休むわ」
ベルトニアがテントに入り、護衛は見張りをしている。
護衛の騎士三名は全員女性なので、なんとか健次のモチベーションは保たれていた。
(早く終わらないかなぁ……別に俺が採ってくれば早いのに…貴族って面倒くせえなぁ……おっ! 護衛のお姉さんが鎧を脱ぎ始めた!)
そして、ニヤニヤと監視をしている健次の後方には…
(棚橋…覗き? ……アレな事を覗いていたら写真を撮っておこ)
ふっふっふ…と笑う暇人の刹那。
健次は、彼女の存在に気付いていなかった。
(うわっ…棚橋…まじかよ………有罪…)




