月読の部屋へ。2
「…グリーダの問題はもう手遅れな気がするから、帰って来たら聞いてみよう」
「うん…いざとなったら裏の世界に匿うから大丈夫」
「次元パトロールは裏の世界には来ないのか?」
「来ない。裏の世界に来ても、直ぐに殺されて裏の住人の栄養になるだけだから」
次元パトロールと言っても、最近発足された機関なので力は弱い。実力主義の裏世界に対応出来る者は、ほんの一握りの存在。それ程までに、表の世界との実力差がある。
「そんなに実力差があるんだな。月読は、裏の世界で一番強いのか?」
「いや、私は二番目。一番は『裏世界の王』…破壊神、混沌神、邪神の生みの親。王が居るから裏の世界はなんとかなっている」
「『裏世界の王』か…初めて聞いたな。会った事は?」
「あるよ。二百年前…混沌神カオスと邪神キリエが裏世界から消えて、どうやって抜けた穴を管理をするか困っていたんだ。その時に王はやって来た」
裏の世界は、裏世界の王、破壊神、混沌神、邪神が四分の一ずつ管理していた。
一般的には、破壊、混沌、邪悪の三柱が知られているが、裏世界の王を知っているのは、極一部の存在だけ。
二百年前…混沌神と邪神が秋に倒され、裏世界の半分が管理者不在になり、裏世界の王が管理を引き受けてくれたという。
なので、裏世界の王が四分の三、月読が四分の一管理している事になる。
「それは…優しい、のか?」
「うん…王は優しい…というより、元々は裏世界を一人で統一するつもりだったけど…当時は力が足りずに破壊神、混沌神、邪神を生んで安定を図ったんだ。
そして現在は、その気になれば私が居なくても管理が出来るらしい」
「へぇー、凄いんだな。王は統一したら、どうするんだ?」
「それは、答えてくれなかったな。ただ表の世界には、危害を加えないと言っていたから…心配は要らないと思う」
月読と裏世界の王は、上下関係は無く対等な関係だが、月読にとっては上司に近い存在だという。
「…王は、グリーダより強い?」
「さぁ…闘っても、勝負は付かないと思う。王とグリーダちゃんは、本気で闘うのは嫌いだから」
再びグリーダの話に戻ってしまい、二人からため息が漏れる。
しばらく雑談していた時、月読がそうだ…と本題に入った。
「天異界同盟会議に、秋も出ると聞いたけど…」
「あぁ、キリエが不安そうだったから。付き添いは二名まで来れるんだろ?」
「そうか、それなら安心」
「何か問題あったのか?」
「いや、問題というより…今回の議長は闘う事が好きで、新参者のキリエが標的になりそうだったから…」
「つまり、俺が闘えと…」
「うん…その時は宜しく」
会議自体は、話を聞いていれば問題無いらしい。
古神ラーフェリシタルが死んだ事は、既に天異界同盟で知れ渡っており、今回は顔合わせの意味合いが強い。
闘いは負けても大丈夫との事なので、秋は少し安心していた。
「後は、混沌神のダークマターだけど…秋が持っていて欲しい」
「良いのか? 封印しなくても」
「今…秋が持っているから、混沌神は大人しいんだ。何か異常があれば、教えてくれれば良い」
「分かった」
月読が持っていた邪神のダークマターは、裏世界の王に渡してある。
混沌神のダークマターは、秋が持っていた方が安全と判断。
「今度、裏の世界に来る?」
「うん…行ってみたい。裏世界の王にも会ってみたいし…」
「王は気難しいから…直ぐに会えるかは解らないかな」
「そっか。でも裏の世界は楽しみだな。裏の世界には、何があるんだ?」
「裏闘技大会がある」
「ん? 裏闘技大会?」
予想外の答えに、秋が首を傾げる。
約百年に一度、裏の世界では裏闘技大会というものがあり、優勝すれば各部門の神と闘えるという下克上大会。
「裏闘技大会…混沌部門の神として出て欲しいなぁー」
「……つまり、優勝者の相手をしろと…」
破壊神部門は月読、混沌神部門は秋、そして邪神部門は裏世界の王が担当。
全勝すれば、百年は裏世界が安定する。
これは裏世界の王が考えたシステムで、お祭り騒ぎの殺し合いは裏世界最大の娯楽と化している。
「秋なら余裕だ。力の差を見せ付けて殺せば、裏世界の有名人になれる」
「いや、有名人にならなくても大丈夫。だけど、面白そうだからやるよ。表も裏も闘う事は避けられないと思うしなー」
「くふふ。よろしく、旦那様。あっ、指輪を新調して欲しい…指が小さくなったからブカブカなんだ」
「了解」
月読は秋にもたれかかって、安心したように笑う。
「ちなみに…裏闘技大会はいつあるの?」
「…今予選会だから…優勝者が決まったら教える」
「あっ、もう始まってるのね」




