月読の部屋へ。
秋は両親に、前世の事を話した。別の世界で生まれ、この世界に迷い込み、邪神と共に死んだ事。
両親は、妙に納得した様子で秋の話を聞いていた。
「…という訳なんだ。一人立ちする時に言おうと思っていたんだけど…」
「…はぁ…凄い話ね。伝説の魔法使いが、カナンだったのね。なんか色々合点がいくわ」
「そう…だな。カナンと話す時、同世代と話している感覚だったのはそのせいか。ははっ、凄い息子を持ったものだ」
転生するという事は、教会や物語でも概念は存在するので、受け止めるのは早かった。まさか自分の息子が、等とは思わなかった様子。
母は憧れのイリアが娘になって、とても嬉しそうにしている。
父は将来安泰だなー…と呑気に構えていた。
「まぁ、そういう訳だけど…息子なのは変わらないから、いつも通りで良いからね。父さんと母さんの家に生まれて、本当に幸せだから」
恥ずかしそうに笑う秋は、暖かい家族に幸せを感じていた。
忙しい中でも、しっかり面倒を見てくれるなんて簡単に出来る事では無い。尊敬し、誇りに思っている。
「カナンは、これからどうするんだ? 普通に生活する様には見えないけど…」
「その事なんだけど…今、この世界を管理している女神様の手伝いをしようと思って」
「「…へ?」」
女神の手伝い…てっきり宝石商や魔導具職人、魔法関係の事をすると思っていた両親は、呆気に取られる。
少し顔が引きつりながらも、父が詳しい話を聞いていく。
秋も簡単に説明していくが、簡単に説明出来る物では無いので、ゆっくり噛み砕きながら話していく。
予想通りというか…頭を抱える両親の姿がある訳だが…
少し落ち着いた両親に、今度ゆっくりしながら話そうと告げ、店に顔を出す。店は相変わらずお客が多く、レジも軽い並びが出来ている程。
天草楓と、音市永遠が笑顔で接客しているのを横目に眺め、イリアと共に店の中を見ていく。
「これあきが作ったの?」
「これは、デザインだけかな。大量生産は業者に依頼しているから」
「へぇー。…ねぇ、私も指輪欲しいな。みんなの薬指が眩しくて直視出来ないの」
「今作ってるからもう少し待ってて」
「へへっ、ありがと」
一応楓を待ってみる。チラチラ目が合っているのだが、お客がレジに並んでいるので中々話せない。
秋はとりあえず変顔を向けて、楓の集中力を削ぐ作戦に出た。
しかし、釣れたのは永遠の方。笑いを堪えてしゃくれ顔になっているので、楓に永遠を見習えよという目を向けるが、フッと笑われるだけだった。
仕方ないので、店を出る。
アイと紅羽の案内で、買ったという土地に到着。
空き家が10件ある場所で、実家から近く、大通りにも近い。
うーんと少し考え、空き家を収納して土地を整地。更地にしてみた。
「あき、どんな家にするの?」
「うーん…設計図書いてからかな。一軒家が10軒分って結構な広さだから…みんなの希望もあるし…」
とりあえず仮設住宅を出す。
そして、土魔法で塀を作り、土地を囲う。
決まるまでは、仮設住宅に泊まるので、中に入ってノートを取り出し、『新居、ご要望ノート』と書いてテーブルに置いておく。
すると、秋の住人がキャイキャイしながらノートに何かを書き始めた。
「じゃあ月読の所に行って来るよ」
「「「行ってらっしゃーい」」」
秋は天異界へ転移する。
最上階へ転移し、天を仰いでいるキリエに挨拶。
毒酒とシルヴィは床に横たわりダランとしていた。
何か疲れる事でもあったのか?という疑問は残るが、階段を降りて月読ルームに向かう。
しばらく階段を降りて行くと、円形ホールがあり、更に下へ。
途中、横道があったので、教えて貰った通りに横道を真っ直ぐ進む。
やがて、白い壁から黒い壁に変わり、更に進むと扉のあるホールへと到着した。
「『破壊神月読の部屋』…ここか」
コンコン__「入ってくれ」
ノックをして中に入る。中は薄暗い円形の部屋で、壁には沢山の扉があった。
部屋の中心で、椅子に座りモニターを見ている真っ白い少女…月読が秋の方を見て微笑んだ。
「秋、待っていた」
「お待たせ」
月読が立ち上がり、手招きして秋を椅子に座らせる。そして、その膝の上に月読が座り、秋が後ろから月読を抱き締める形になった。
「用事はあるが…今は少し甘えさせて欲しい」
「あぁ、良いぞ」
「…こんな姿になってしまった」
「その姿も可愛いぞ」
「ふっ、可愛いじゃ駄目なんだ」
以前の銀髪の女医さんスタイルから、離れてしまった姿。
白い髪に白い瞳。サイズの会わない白衣が、長いローブにしか見えない。
「…グリーダちゃんが、完全体になって私を元の姿に戻してくれるって言ってくれた」
「グリーダが? 完全体って何?」
「グリーダちゃんと、以前の私はダンジョンで生まれた仮の生命だから、本物になる事を完全体と呼んでいる」
「以前のって事は、月読はもう完全体なのか?」
「あぁ、格上と同化するか、何か条件を満たせば成れるけど…」
月読の場合は、覇道の破壊神と同化し、完全体と成れた。
しかし、グリーダはダンジョン産の、仮の生命を持った邪神と融合したから完全体には成れなかった。
他の格上が居れば話が早いのだが、グリーダは毎日ゆで卵(星神獣エッグ)を食べながら神格上げのスキルを使用。それにより毎日神格が上昇し…残念な事に今、格上が居ない状況。
「じゃあどうすればグリーダは完全体に成れるんだ?」
「…解らない。変な事をしなければ直ぐに成れると思うけど…」
「変な事しかしないだろ」
「…うん。しかも、グリーダちゃんが向かった死の星は…今、次元パトロールが監視している星」
「次元パトロール?」
「最近発足された次元世界の警備部隊…もし…鉢合わせたら…」
「グリーダが捕まる?」
「いや、次元パトロール部隊が抹殺される」
グリーダの強さは、もう天異界同盟の中でトップクラス。
もし鉢合わせると、次元パトロール部隊を虫を払う感じで抹殺してしまう。
「そうなると…どうなるんだ?」
「グリーダちゃん…この世界に居られなくなる」
「…不味いな」
「うん…不味い」
グリーダをこの世界から追い出してしまったら…
「「他の世界に迷惑が掛かる」」
悩みの種は、にょきにょきと芽を出している。
死の星にて。
「可愛いくなった記念に、イカでも焼きましょう。マスターのストレージから拝借して…と」
特殊能力…共有ストレージからイカを取り出して焼いていく。
半分程イカが焼けた時、グリーダの元に白い制服を着た集団がやって来た。
『お前は何者だっ__うわぁぁ!』
『隊長! っ!うわぁぁ!』
『なんだ! この穴わぁぁ!』
グリーダに声が届く前に、制服を着た集団は穴の中に消えて行った。
「ん? 何か聞こえましたね。……あっ、次元落とし穴で遊んでいたの忘れていましたね。回収回収っと」




