帰り道。
帰り道は、船を浮かせて秋とイリアが乗り込み、のんびり進んでいる。
脳内会話は鳴りを潜め、時折笑い声が聞こえる程度に落ち着いた。
「あきって…何歳なの?」
「ん?社会的には12歳かなぁ…今中等部なんだよ」
「へぇ…中等部。あれ?なら学校通わなくて良いの?」
「あぁ、今大教会に留学している事になっているんだ。だから公式にサボっている」
「ふふっ、あきらしいね」
今の暮らしや、活動を報告していく。
ファー王国の商家に生まれた所から、ゆっくりと思い出す様に。イリアは微笑みながら秋の話を聞いている。
一区切り付いた所で、次はイリアの話を聞いていく。
「修行中、サティがよくヘタレを発動して逃げ出してね。三回に一回は死のうとするから大変だったよ」
「あぁ、本当にお疲れ様……サティちゃんが感謝してるって言ってるよ」
「むぅ…いいなー。私も中に入りたい。あき、魔法でなんとかしてよ」
「そんなに万能じゃないよ。あっ、でも月読のエンゲージに俺の特殊能力合わせればいけるか?」
中に入るエンゲージに結果を繋げれば行けるとは思うが、イリアは元人間なので難しい様にも思える。
試行錯誤しないと大変な事になるので、今は保留。
ムスッと紫色の瞳を向けて来るので、秋は気になっていたイリアの瞳をまじまじと見てみる。
紫色の瞳の中に、魔法陣がある。時空魔法を強化する魔法陣にも見える。
「どうしたの?」
「イリアの魔眼を見ていたんだよ。何の魔法陣?」
「あんまり意識していないから、よく解らないや」
「んー、また今度ゆっくり調べて良いか?」
「うん、隅々まで調べて良いよ」
桜の花を思い起こさせる薄いピンク色の髪を後で結び、秋に寄り添い頬笑むイリアは、とても幸せそうに過ごしていた。
時折、秋の住人達が出て来てお腹空いたーと言ってくるので、餌付けしながら会話をしていく。
「王国に着いたら、家族に会って行くか?」
「うん!ビックリするかな?」
「そりゃあな…教科書にも載っている伝説の聖女様だから。イリアに憧れている女性ってかなり多いんだぞ。働く女性の味方だから…母さんもファンだし…」
「ふふっ、楽しみ」
サティの時は驚かれた。帝国の剣聖様だったからだが…イリアの場合はもっと驚くと予想する。もう生きていないと思われている人物だから。
「あっ、家どうするかなー」
「家?」
「うん、俺の家。基本的に実家暮らしだし…溟海さんの家の隣に仮設住宅はあるけど…修行用だから。作るか…」
「みんなが住める家が良いね」
「みんなって言っても俺の中に城があるんだろ?そんなに大きく無くても…」
『アキ、土地はあるわよ』
「アイ、土地って?」
『東区の一等地買い取ってあるから、そこに建てれば?』
「いつの間に…一等地って…いくらしたの?」
『黒金貨五十枚分くらいかしら?ねぇ紅羽?』
『あぁ、そのくらいじゃないか?店の近くだぞ』
黒金貨五十枚は五億円程…どうやら土地はアイと紅羽が買っていたらしい。宝石を売ったお金はアイと紅羽が貯金している。以前アイが住んでいた青い石が貯金箱代わりになっていて、色々溜め込んでいるらしい。
「そういえば、イリアはこれからどうするんだ?俺と出会ったから目的は達成されただろ?」
「そうだね。ゆっくり過ごしても良いんだけど…やりたい事をしていくかな」
「やりたい事か…子供関係か?」
「うん。子供達の夢を応援出来ればなって…まだ潜在的に女性の立場が低いし、親を失った女の子は娼婦になる割合も高いから…」
イリアは聖女の時にしていた活動を再開していく予定。まだ女性の立場が低い地域は多数存在する。王国だけでなく、帝国など手を広げて行きたいと話すが、直ぐには出来ない事なので、地道に頑張るという。
「明日の昼に着くから、それからな。みんなー、出てきてー」
秋の呼び掛けに、談笑しながら住人が出てくる。
サティが紅羽を抱えて、乙珀はイリアの元へ、アイと妖精達は秋の元に行く。秋はアイを抱えて違和感を感じた。少し大きくなっていたから。
「アイ、大きくなったな」
「ウフフ、秋の魔力で前に戻っていっているの。紅羽も大きくなっているわよ? おっぱいが」
この調子なら一週間もあれば、以前の大きさに戻りそう。地面に着地し、仮設住宅を出す。
「今日はここで過ごしててくれ。ちょっと天異界に行ってくる」
「行ってらっしゃーい」
食事やらおやつを出すと、女子会ムードに。
秋は朝に戻ると伝えて天異界へと転移していった。




