感謝を込めて。
ダークマターをストレージに仕舞い、四つの宝石を抱えながら世界樹へと向かう。
「_あきぃ!」
「なんとか、勝ったよ」
「良かった…でも…」
駆け寄ったイリアが四つの宝石を見る。
この状態になってしまうと、戻す方法は知らない。
「おい、世界樹…何とかしろよ。…あ?アホか」
カナンが世界樹を見上げて顔を顰める。
しばらく黙っていたが、世界樹はザワザワと揺れるだけ。
「…んぅ…秋ちゃん?イリちゃん?」
倒れていたサティが目を覚まし、カナンとイリアを見詰める。
ダッと駆け寄り、二人を抱き締めた。
「…良かった。会えたんだね」
「うん。サティも頑張ったね」
「サティちゃんのお蔭で、世界樹は守られたから偉いよ」
サティが首を振る。
アイと紅羽のお蔭…そう言う様に、カナンの持つ宝石を見る。
天空と溟海も何とか命を繋いだ様子だが、身動きが取れない程に疲労していた。
そして、ゆっくりと近付くキリエと毒酒は、申し訳なさそうに視線をさ迷わせていた。
「あの…私のせいで、こんな事になって…」
「…いや、元はと言えば、昔に俺が裏の世界に通じる扉を開いた事が原因だ。キリエが謝る事じゃない。
それに、女神を倒してくれたんだ。むしろこっちは感謝しなきゃいけない」
魔王が女神に使い捨てられる未来は消えた。
未来への不安を絶ち切った。
それだけでも、凄い偉業だった。
キリエが頭を下げる中、毒酒がカナンに魔法玉を差し出して来た。
「…これは?」
「天異界へ行ける魔法玉。グリーダちゃんが…ますたぁを呼んでくれって」
「グリーダが?」
「女神を倒した後…破壊神と闘って…」
キリエと毒酒が説明していく。
ここに来た理由と、天異界の出来事を。
「…分かった。みんな、ちょっと行ってくるから待ってて」
「秋、ありがとう…」
「何言ってんだ。一緒に心中した仲だろ」
「あ…やっぱり…解った?」
イリアとサティに宝石を預け、魔法玉に魔力を流す。
七色の魔法陣が輝き…
バシュンッ!__
キリエ、毒酒と共に天異界へと転移した。
転移した先は、真っ白い大きな部屋。
奥に何かの機械が見えるシンプルな部屋だった。
その奥に居た二つの影。
黒い帽子に黒いローブを着た裸足の黒髪女子グリーダと、金色の剣を背負った真っ白い髪と目を持つ全身白の少女。
『…』
「待っていましたよ。マスター。あっ、こちらは破壊神ちゃんです」
ニシシと笑うグリーダと、白い少女…破壊神は腕を組んでカナンを見据えている。
「…グリーダ、俺を呼んだ理由は?」
「友達を助けて貰いたくて。私じゃ、魂をどうこうするのは難しいんですよ」
「…グリーダ、友達出来たのか…良かったな」
「えへへ、そうなんです。じゃあ早速…キリエさんの魂と邪神の魂を分離しちゃって下さい」
カナンがキリエに、分離魔法…セパレーションを発動させる。
分離するという結果を使い、邪神のダークマターを取り出す事に成功。
「で?これは?」
『…私が貰おう』
「……」
真っ白い少女がカナンに寄越せと手を出す。
しかし、カナンは黙ってダークマターを渡さない。
「これを貰って、どうするんだ?」
『…私が管理する』
「管理?じゃあ破壊神はずっとここに居るのか?」
『…ああ』
「一人で?」
『…ああ』
「じゃあ…渡せないな」
一触即発の雰囲気に、キリエと毒酒は焦る。
何故渡さないのかと。
グリーダはそんな二人を見て、はぁーっとため息を付くが、事の成り行きを見守っている。
『…ならば、力付くで奪うのみ』
「なんでそうなる。闘う気なんて無い。管理は俺も手伝うよ。良い魔法もあるし」
『…何を言っている?』
「そのままの意味だ。一人で背負おうとするなよ。
…月読」
『……』
「願い星ちゃん、私はあなたも助けたい。五千年も引きこもりで、人見知りになっちゃいましたか?」
『…その者はもう居ない』
不機嫌そうにプイッと背を向ける破壊神。
グリーダがカナンに視線を向け、肩を竦めながらアゴでクイックイッと合図をしてくるので、カナンは破壊神に近付き、後ろから抱き締めた。
「居ないって言うなら、なんでエンゲージ切らなかったんだよ。バレバレじゃねえか」
『……』
「…ずっと、見守ってくれていたんだろ。ありがとう」
『…秋』
「俺を、転生させてくれたのは…」
『…ああ』
「…ありがとう」
『…管理は大変だぞ』
「解ってるさ」
カナンの腕から抜け出した破壊神…月読は、変わらずムスッとした表情で、唇を尖らせている。
そのままの表情で、カナンに金色の剣を差し出した。
「…これは?」
『…創星神の武器。世界樹に渡しておいてくれ』
「分かった…」
月読はカナンの横を通り、キリエと毒酒の元へ。
『キリエ…すまなかったな。私には…あの方法しか無かった』
「ううん。混沌神を甘く見ていた私が悪いから…」
「月読…私も…管理手伝う」
『…毒酒ちゃん』
そして、グリーダの元へやって来た月読は、そのままの勢いでグリーダに抱き付いた。
『…グリーダちゃん。ありがとう』
「良いんだよ、願い星ちゃん。親友でしょ。チューして良い?」
『それは嫌』
「…」
グリーダから離れた月読は、再びカナンの元へ。
先程よりも、表情は柔らかくなっていた。
『秋…あの後、破壊神と無理矢理融合したんだ。それしか、生き残る道が無くて……千年掛けて、覇道から主導権を奪えた』
「凄いよ…本当に凄い。また会えて、嬉しいよ」
『…みんなに会いたい』
「ああ、会いに行こうぜ。…少しだけ、世界樹の所に行けるか?」
『…少しだけなら』
カナンは、天異界へまた来れる様に、紫色の魔法陣を床に刻む。
「じゃあ、みんなで行くか!__転移」
バシュンッ!__
世界樹の元へ、戻って来たカナン達をイリア達が出迎えるが、新たに増えた二人に少し困惑していた。
「…あき?早かったね。そちらの凄く強そうな二人は?」
「ああ、説明は…これが終わってからかな。イリア、サティちゃん、アイ達をここに」
カナンが金色の剣を世界樹の根元に差し込む。
イリアとサティが四つの宝石を金色の剣の側に置いた。
「ほらっ、世界樹…これで良いんだろ」
世界樹が銀色の光を放ち、金色の剣、四つの宝石を包む。
すると、四つの宝石が浮かび上がり、金色の剣に入っていった。
「…なんだ?」
金色の剣が激しい光を放つ。
世界中を照らす様な暖かい光。
光が徐々に人型を成してきた。
金色の目に、金色の髪を靡かせる女性が現れ、カナンを抱き締め何かを呟く。
そして、微笑みながら、溶ける様に光の中へ消えて行った。
「…あぁ」
光が晴れ、女性は消えたがカナンを抱き締める者達が居た。
藍色の髪を持つ女の子、深紅の髪を持つ女の子、翡翠色の髪を持つ女の子、琥珀色の髪を持つ女の子。
皆、小さくはなっているが、見た事のある表情でカナンを見詰める。
「みんな…」
「アキ、信じてたよ」
「アキ、ありがとう」
「ぱぱぁ…」
「はじめましてかな…格好良かったわよ」
アイ、紅羽、乙珀、シルヴィの姿。
カナンの目から、涙が溢れ、キツく四人を抱き締めた。
サティとイリアと月読は抱き締め合いながら何かを話し、キリエと毒酒はシルヴィを見て手を取り合って喜んでいる。溟海と天空はしれっと現れた龍王をジーッと見詰め、グリーダは世界樹と話をしている。
その時、ハラリと花びらが舞い降りる。
見上げればそこには雲一つもない晴れた空と、
銀色の花びらが咲き誇る世界樹の姿があった。
透き通った空に、銀色の花が色をつけていく。
世界樹はもう枯れた部分は無く、力を取り戻した喜びを全開にする様に輝いていた。
「世界樹の花か…すげえな」
「ウフフ、綺麗ね」
「…ハート型の花びら、可愛い」
ポンッと世界樹の花から生まれたピンク色の光が二つ、周りをクルクルと飛び回る。
「アキ、この妖精達…リーリアと矢印じゃない?」
「ははっ、そうかもな。俺の中には居ないみたいだし…ありがとな、世界樹」
最後の願いを叶えてくれた世界樹に、感謝を込める。
カナンは皆に向き合い、ニカッと笑い掛けた。
「悪くねえな、異世界の桜も」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
本編完結です。
ありがとうございました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
どうも、はぎまです。
本編完結まで呼んで頂き、ありがとうございました。
『秋の星空に願いを』。主人公視点では一区切り付いたという事で…一先ず本編完結です。
後日談や他のキャラの話は、書ききれなかったので…人物紹介が終わったらチマチマ書いて行きたいと思いますので、宜しくお願いします。
この先の話は、この作品のシリーズ…『流れの武器屋』のネタバレを含みます。
宜しくお願い致しますorz




