願いを。5
虹色の光に入ったカナンは、黒い人型になった混沌神の、更なる分離を試みる。
今度は緑の魔王と混沌神の分離。
その為に混沌神に近付いたが、目も鼻も口も無いのっぺらな顔が、歪んだ笑みを浮かべた気がした。
『ククッ…秋よ…我の魔力を吸収したのか?』
「……」
混沌神が言っているのは、深淵に染まった混沌の月の事だろう。
カナンが収納した混沌神の魔法。
パーフェクション・ストレージで収納された魔法は、カナンの魔力に変換される。だからどうしたという話なのだが、七色の光が収まりつつある中、不穏な空気を感じていた。
『それが解れば充分!__混沌解放!』
「__くっ!悪あがきを!」
内包していた力を瞬時に爆発。
ゴゴゴゴ!__
混沌神の力が増大。
バキン_バキン_
空間に固定されていた身体が解放され、七色の光の中に、黒い柱が上がる。
そして、混沌神が両手を空に向けると…
「__っ!なんだと!」
両手に握られる赤と青の宝石。
既に、混沌の力を流し込み、転移で引き寄せていた。
『ククッ…フュージョン』
「やめろぉぉぉ!」
宝石が混沌神の身体に吸収され…
ドッ!_ドッ!_ドッ!
混沌神の周りに赤、青、緑の柱が上がる。
それを見たカナンは怒りに燃え、紫色の魔法陣を展開。
「__くそぉぉ!タイム・アクセラ…『_遅い』
バリンッ!__
混沌神が指を向け、魔力を放つ。
カナンの魔法が完成する前に、魔法陣が割れた。
『…あと、一つ……見つけた!__呪法・略奪!』
「_っ!ぐっ…あぁぁぁ!」
カナンの身体が仰け反り、身体から黄の魔王…乙珀が出てきた。
もがき苦しみながらも、カナンに手を伸ばしている。
「_ぱぱぁ!」
「_乙珀!」
カナンも手を伸ばすが、乙珀には届かず…
『__フュージョン!』
混沌神へと吸収されて行った。
「うそ…だろ…」
手を伸ばした状態で、茫然と混沌神を見詰める。
乙珀までも吸収され、己の無力さを痛感してしまった。
最後の助けを求める顔が浮かぶ。
後悔と自己嫌悪が一気に押し寄せる中…大気が揺れる。
ゴゴゴゴ!__
目的を達成し…愉悦に染まる黒い顔が、ゆっくりと天を仰ぐ。
『ククッ…クククククククククククク!これが!これが古神が欲した創星の力か!__星よ!我の力となれ!』
混沌神の身体が、金色に染まる。
七色の光を押し退け、金色の光が放たれた。
「なん…だよ…そりゃ…」
黒い人型が、金色に変化。
金色の顔に、金色のローブを纏った姿。
そして、
「…知ら…ねえぞ…」
ゴゴゴゴ!__
大地に刻まれる巨大な魔法陣。
「金色の…魔法陣…」
七色の光を塗り潰し、金色の柱が聳え立つ。
美しく、目を開けていても眩しくはない金色の光。
『ククッ__創星魔法・世界の支配!』
空が金色に輝き、キラキラと金色の光が舞い落ちる。
その規模は、世界中に届く程。
カナンは舞い落ちる金色の光を眺めるが、何が起きるのか解らない。
「なん…だ。この魔法…」
『この魔法は、世界を操る魔法…
世界規模で、各魔王の力が使える…遥か遠くの街を海に沈める事も出来るし…燃やす事も…風で吹き飛ばす事も…土の中に埋める事も出来る』
世界を意のままに出来る。
混沌神の気分一つで街が消え、国が消える事になる。
せいぜい周囲一帯に影響があるカナンの魔法とは、規模が違いすぎる。
「まじ…かよ」
『国を潰すのも悪くは無いが、貴様を殺してからゆっくりとやる事にしよう。あと、面白い能力がある』
混沌神が片手をカナンに向ける。
茫然としていたカナンに、ゾワッと寒気が走る。
急いでシールドを張った瞬間…
『_炎よ』
ゴオォォォォ!__
燃え盛る深紅の業炎。
凝縮された炎の柱がどんどん大きくなっていく。
カナンはシールドを出すが、長くは持たない。
ジリジリと身体が焼けていく。
「_くっ、そ、どこに…こんな力が」
カナンの禁術・クリムゾンフレアよりも何倍も強力な炎。
紅羽でもこんな規模の炎は出せなかった。
ゴオォォォォ!__
『ククッ、驚いたか?この炎は、世界中の炎を集めた物。貴様がどんなに強い人間であろうが、世界中から発生した炎には敵うまい__大地よ』
ゴゴゴゴ!__
立てない程の、世界中から集めた大きな地震が発生。
「くっ…空なら」
カナンが空中に飛び上がり、混沌神を見据える。
混沌神は不敵に笑い声を上げながら、空に手を向ける。
ゴロゴロゴロゴロ!__
真っ黒い雷雲が発生していた。
「…これも…世界中から集めた……こんなの…どうすりゃ良いんだ……フルダイヤモンドシールド」
カナンは顔を引きつらせながら、最大出力でシールドを張る。
『そう…世界中から集めた…雷だ!』
ドゴォォオオ!__
混沌神の声を合図に轟音が鳴り響き、巨大な雷がカナンに落ちる。
「__ぐおぉぉぉ!」
ピキ…パキ…
シールドにヒビが発生してきた。
「__シールド複製!」
ゴオォォォォ!__
耐える。
巨大な自然災害に、たった一人が立ち向かうなぞ無謀も良い所だが…カナンは耐える。
雷が終わり……耐えきった。
「…はぁ…はぁ…」
『ククッ…じゃあ…二回目だ。__雷よ!』
「……あぁ…くそ…強すぎる」
再び、轟音が鳴り響いた。




