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 混沌神の顔が歪み、血を吐きながら世界樹へと走り出す。


「ククッ__アビスセイヴァー!」


 漆黒の剣を出現させ、渾身の力で銀色のバリアを斬り付ける。

 しかし、混沌神の攻撃は弾かれた。

 尚も攻撃を続けるが、バリアは壊せず、代わりにサティが苦しそうに呻きだした。


「くっ…あっ…」

「サティ!大丈夫か!」

「サティ!」

「…だい…じょう…ぶ。動いちゃ駄目…だよ」


 サティは今、世界樹と同化している状態。

 葉先まで護っているので、動きたくても動けない。

 ここで秘術を解除したら、世界樹にダメージが行き、最悪リーリアが死ぬ。


「でも!でもサティが!」

「サティ!秘術を解除して!」

「この樹は…秋ちゃんが帰って来る場所だから…無くなったら…困るの」


 中々壊せない結界に、焦りの表情を浮かべる混沌神がアビスセイヴァーに力を溜める。

「忌々しい結界め!_混絶邪王剣!」


 ガキィン!__

 世界樹を狙う混沌神の一撃は、硬い槍に阻まれる。

 紅羽が前に飛び出ていた。

「__くっ!強い…」

「ククッ_釣れた」

「紅羽!出ちゃ駄目!」


 混沌神が飛び出た紅羽に剣を向け、力を解放する。


「__させない…魔硫酸砲!」

 毒酒が混沌神と紅羽の間に入り、混沌神を攻撃。

 キリエの身体が限界に来ている以上、混沌神は魔硫酸砲に当たると致命的。

 毒酒と距離を取り、ガタガタと震える足を抑えながら息が荒くなっていく。


「はぁ…はぁ…くっ…ここまで追い詰められるとは…仕方無い」


 混沌神が懐から緑色の宝石を取り出し、胸に当てる。


「__っ!それはシルヴィの!駄目!駄目だよ!」

「…ククッ…抵抗するな。…フュージョン」

「_あぁぁぁ!__禁毒作製・蠱毒の魔薬!」


 ゴオォォォ!__

 毒酒が止めようと、劇薬で混沌神を呑み込む。


「_禁毒作製・王魔の水!」

 更になんでも溶かす劇薬を流し込み…

「_毒操作・濃縮!」

 毒の濃度を上げていく。


 しかし…


 バシャンッ!__

 毒が弾け飛び、二本の足でしっかりと立つ混沌神の姿。

 黒いオーラの他に、緑色のオーラが混ざっている。


「ククッ…最初からこうしていれば良かった。__神碧(しんぺき)の風」


 ドオオォォ!__

「_くはっ…そん…な」

 神気を纏う緑色の矢が毒酒を貫いた。

 世界樹まで吹き飛ばされ、世界樹に激突。


「…キリ…エ…ごめん…ね…」


 毒酒はそのまま意識を失う。

 今闘える者は、アイ、紅羽、サティ、溟海、天空だが、溟海と天空は呪いにより満足に動けない状態だった。


「さて、次は赤いお前だ。__混絶邪神剣!」

「我は負けない!__炎帝竜爪衝!」


 混沌の漆黒の剣と、紅羽の炎がぶつかる。

 だが、力の差は歴然。

 まだ幼体の状態の紅羽

 凄まじい衝撃波と共に、炎が散りゆく。


「_あがぁ!」

「__紅羽!」

「__アイ!来るな!我は…分体だから…大丈夫」


 紅羽が攻撃を仕掛けるが、混沌神にはまるで効かない。

 混沌神は神格を持ったシルヴィの核を吸収し、力を増していた。


「ふんっ、本体では無いのか。_冥王剣・邪奪」


 心底興味を失った表情で混沌神が一撃を放つ。

「_紅羽ちゃん!」


 ザシュッ!__


「…え?」

「_ぐはっ…」


 紅羽に届く一撃は、目の前に割り込んだ溟海を斬った。


「…溟海…さん」

「ぐっ…ごめんね、遅れて」

「なんで…我を…」

「何…言って…いるんだい。娘を…守るのは、当然の…事さ」


 紅羽の頭を撫でる溟海は、紅羽も娘の様に接していた。

 涙を流す紅羽に、優しく笑いかける溟海。


 振り返り、混沌神を見据える溟海は…斬られていても、闘志を失わずに魔力を解放。

 そして、小瓶を取り出し飲み込んだ。


「ほう…英雄の薬か」

「ふふっ、友に貰ってね」


 ゴゴゴゴ!__

 溟海の魔力が段々と上昇していく。

 その力は混沌神を上回る程。


「ククッ、その濃度では時期に死ぬぞ」

「だからなんだい?本当に守りたい者の為なら、命を賭けるものさ」



 ピキピキパキピキ__

 周囲の空間が凍っていく。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ドオオォォ!__


 古代文明時代。

 こちらも、カナン達と破壊神の闘いは激しさを増し、互いに斬り刻まれながらの死闘が繰り広げられていた。


「_奥義壱式・千枚通し!」

『_覇昇天』


 カナンの突き技を破壊神は剣で弾き、返す刃でカナンを両断。

 瞬時にカナンが再生していく中、月読が背後から連続攻撃。

 破壊神は剣を背に攻撃を弾き、片手を下に向ける。


『_破壊の波動』

 ゴゴゴゴ!__


 破壊神を中心に地面が砕け散っていく。

 周囲にいるカナンと月読も砕け、再び再生していく。

 堪らず破壊神から離れた。


「ぐぁっ…はぁ…はぁ…くそ…」

「秋…精霊石ちょうだい」

「あぁ良__っ!」

「…秋?」

「サティちゃんが危ない…」

「……」


 早く元の時代に帰りたいが、破壊神をこのままに出来ない。

 イリアの逃げる準備…元の時代へのタイムリープは完成していたが、イリアの元へ到着するのも一苦労な状態。


 破壊神は変わらず余裕の笑みを浮かべ、両手に持つ剣に力を流している。

 ダメージは溜まっていたが、中々味わえない強者との闘いに心を躍らせていた。


『楽しいのぉ…久方ぶりだ、壊れない者は』

「…俺達みたいな奴は…裏の世界でも居ないのか?」

『ククッ…中々おらぬよ。強くて壊れない者はな』


 闘うのはまた今度…とはいかないだろう。

 このまま逃がしてくれるとは思わない。

 焦る気持ちが先行していく。


「……」

「月読?全力で行くぞ!_っ!」


 破壊神が一瞬で距離を詰め斬り裂いて来る。


 月読がそれに合わせ白と黒の剣で上に弾く。


「ナイス!__空間断裂!」

 バキンッ!__

 カナンが破壊神の胴体を空間ごと斬る。

『__ぐぁっ!』

「__聖冥一閃…」


 二つに分かれた破壊神は無防備な状態。

 月読のとディヴァインセイヴァーアビスセイヴァーが輝く。


「__奈落の輝閃!」

『_ぬおぉぉ!』


 白と黒の斬撃が破壊神を呑み込んだ。

 遥か遠くまで吹き飛ばされる。


 月読が白い魔法陣を展開。


「秋…今の内に…」

「あぁ、追撃…え?」

「__封印禁術」


 月読が封印禁術を発動。

 カナンに纏わりつく白い鎖。

 破壊神にしか気を向けておらず、一瞬にして拘束された。


「なん…で」

「…秋は帰れ」


 月読がカナンを抱えてイリアの元へ行く。

 イリアは拘束されているカナンを見て困惑していた。


「月…読さん?」

「イリア、秋を連れて元の時代に帰って。今、世界樹は危険な状態…」

「でも…」

「私はいいんだ。あいつを倒したら時が過ぎるのを待てば良い」


 たかが五千年だ…そう言い放つ月読は、カナンとイリアに背を向ける

 イリアは月読の気迫に押されて、時間の魔法を発動していく。


「だ、めだ…」

「くふっ、心配いらない。私は咎の力を持っているから…

 だから、今度は…私を迎えに来てくれないか?」


 背を向ける月読の表情は伺い知れず、必ず勝利すると宣言しているが…一人では力の差があるのは明白だった。


「イリア、秋の心を救ってやってくれ」

「…うん」

「…あ…くっ…」

「秋…私の様な作り物を愛してくれてありがとう。わがままを聞いてくれてありがとう。私は、幸せだったぞ」

「そん…なの…」


 別れの言葉じゃないか…そんなカナンの言葉は言えず…


「…タイム…リープ」


 バシュンッ__

 カナンとイリアは元の時代へと戻っていく。



「……そうそう、エターナル・リヴァイヴの詠唱…覚えているか? 私はあの詠唱が好きでな…」


 遠くから、ゆっくりと歩いてくる破壊神を眺めながら、月読は語りかける様に一人言を話す。


「…例えこの身が砕けようとも…己の信念を守る為…愛する者を守る為…何度でも…何度でも立ち上がる…例えこの心が壊れようとも…愛する者を守る為ならば…この身を、心を捧げよう…」


『ふんっ、逃げおったか…』


「そして、我は願おう…愛する者の幸せを…我は歌おう…祝福の歌を…」


 破壊神の身体は、繋がっているが…傷痕は残っている。

 がっかりする様な表情の破壊神に、月読が笑いかける。


「…秋は元の時代に帰った」

『そうか、ならばお前を始末したら、その時代までゆっくり待たせて貰おう』

「くふふっ、その言葉…そっくりそのまま返そう」





 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 時間の波に乗り、元の時代へと帰っていくカナンとイリア。

 封印禁術は既に解除し、カナンも時空魔法を使って進んでいる。

 もう、古代文明時代へ戻る事は出来ない。


「あき…ごめんね…ごめんね…」

「…謝る必要なんて無いさ……は?」

「あき?」

「紅羽が…」


 カナンは魔力を込め、元の時代へと急いだ。





 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 そして、世界樹の根元に戻ったカナンとイリア。


「…な…に」

「…う…そ…」


 その目に映る光景に、絶句していた。


 倒れ付している仲間達。

 世界樹の側には、サティと紫色の女の子が倒れ、視線を前に移すと…天空と溟海が倒れている。

 そして、天空と溟海を守るように立つ藍色の女の子は、両手を広げ…カナンに背を向けていた。


「…アキ…世界樹は…守った…よ」

「ア…イ…」

「…ごめん…ね。負けちゃった」


 振り返るアイが、カナンに笑い掛ける。

 切なく笑うその顔が、少しずつ薄くなっていく。


 カナンが駆け寄り、アイを抱き締めようとするが、その手は空を切った。


「…あ…あ…あぁ…」


「ククッ…ようやく来たか」


 カナンが声のした方向に、ゆっくりと顔を向ける。

 凍り付いた荒れ果てた大地の中…

 黒に染まった髪をかき上げ、愉悦に染まった笑顔を見せる…聖女キリエの姿をした何か。手には赤と青の宝石を持っている。


 カナンはこの混沌のオーラを感じて悟った。


「お前か…お前が…みんなを…」


「良い暇潰しになったぞ。さぁ、始めよう」


「混沌…殺す」





キリエ編を書いたのは、この時の為…って事で、本編のラスボス戦に入ります。



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