願いを。
煌めく星達が舞い上がる中、毒酒とキリエが対峙。
毒酒が禁毒・デッドエリクサーを飲み干す。
身体中に猛毒が回り、毒酒の力を上げていく。
混沌神はそれを興味無さそうに見詰め、毒酒に手を向ける。
「__流星群」
星達が肥大し落下。
ドドドド!__
毒酒に向かって次々と落ちて行くが、毒酒は全て弾き飛ばす。
「__深淵の星群」
星達が黒く染まり、大きく肥大。
黒い尾を引きながら次々と落下。
「…無駄。禁毒作製・魔硫溶解液」
ジュゥゥゥ!__
星が毒酒に当たる寸前、一瞬にして溶けていく。
黒い煙が立ち込め、辺りは闇に包まれる。
「__毒操作・魔硫煙剣」
黒い煙を操作し、凝縮。
身の丈を越える黒い剣となり、混沌神に向かって振り下ろす。
「ククッ、__ディヴァイン・セイヴァー」
混沌神が真っ白い剣を握り、魔硫煙剣を弾き飛ばした。
毒酒は構わず新たな毒を発生させる。
空気に溶け込む透明な毒霧を発生させながら、混沌神を睨み付けた。
「…」
「…この器の使い方はこんな物か、後は我が力に耐えられるかだが…」
混沌神が力を解放していく。
邪気が溢れ、銀色の髪が少しずつ黒く染まり、半分程染まった所で解放を止める。
「…半月」
星が一つ空高く上がり、仮りそめの月となる。
月は次第に黒く染まっていき、聖と邪の半月となった。
「__聖邪の断罪」
「…禁毒魔法・魔硫酸砲」
ゴゴゴゴ!__
混沌神の聖邪の月が墜ち、毒酒がそれを迎え撃つ。
両手を向け、濃密な魔硫酸の砲撃を発射。
ジュゥゥゥ!__
巨大質量の月を溶かしていく。
何発も魔硫酸の砲撃を放ち、月を小さくしていった。
「…毒酒よ、中々やるな。もう少し…力を解放しよう」
「……だめ…キリエの身体が…」
______
世界樹を守る者達は、呆気に取られながらも戦況を見守っていた。
これが女神を倒した者の闘い…一つ一つの攻撃が一撃必殺の様に鋭く重い。
「毒の女の子…凄く強い…」
「毒酒は昔、強すぎる能力を持つが故に…独りになってしまったんだ。
天空が、時々話し掛けていたみたいだけど…ずっと心を閉ざしていてね…」
溟海が寂しそうに毒酒を見る。
毒酒が涙を流すまいと唇を噛み締めながら闘う姿に、胸が締め付けられる想いだった。
心を開いた相手と殺し合う…毒酒にとって、重く辛い試練。
「ぐっ…毒酒ちゃん」
そんな姿を見て、黙っていられる龍王では無い。
「…サティエル。究極エルフの力を解放して、世界樹を守れ。お前にしか出来ない」
「…師匠、私も闘う」
「駄目だ…それだと邪気に当てられて世界樹が枯れる。
元々、世界樹は究極エルフが守っていたんだ。我よりもサティエルが適任…解ったか?
何があっても、その場から動かず世界樹を守れ」
「……分かった」
サティは眼鏡を取り、世界樹にもたれかかる。
目を閉じて、魔力を解放した。
「…秘術・生命の脈動」
世界樹と呼応する様に、サティが銀色の光に包まれ、世界樹も銀色の光に包まれる。
強固な銀色のバリアが生成された。
それを確認した龍王は、闘いの中に入って行く。
「毒酒ちゅわん!助太刀いたす!」
「…龍王」
「ククッ、龍王が死にに来るとは、都合が良いな__呪増強」
混沌神の負のオーラが龍王を襲った。
龍王に掛けられた呪いが再燃。
「__ぐぁぁぁぁぁぁぁ!」
龍王がケツを抑えながら、森の中に響き渡る断末魔の叫び。
「…」
「…」
「…シー…アイちゃん、紅羽ちゃん…私が行くから、無理して闘おうとしちゃダメだよ」
「お父さん…」
「溟海さん…」
「大丈夫。娘達を守る為なら、父親は強くなれるものさ」
溟海が微笑みながらアイと紅羽の頭を撫で、闘いの中に入って行く。
「…溟海、来ちゃだめ」
「何言ってるんだい毒酒、一緒に闘おう。ほら、天空も来ている」
「…どく…しゅ…」
「……ありがとう」
毒酒の元に、溟海が、そして天空が空から降りてくる。
混沌神は眉をピクリと動かし、ニヤリと笑った。
「龍王は呪いでその内死ぬ。暇潰しに相手してやろう。__月蝕」
月が深淵に染まり、混沌が渦巻いている。
邪神、混沌神、聖女、邪の魔王の力を持つ存在と…毒酒、溟海、天空、絶対種達の闘いが始まった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
古代文明時代。
二対の剣を下ろし、ゴキンッ!ゴキンッ!と首を鳴らしながら周囲を観察している異形。
大きさは、邪神に比べたら小さい。
30メートルあるかという大きさだが、人にとっては大きい存在。
それよりも、邪気…いや、破壊のオーラが凄まじい。
神種の中でも最高位。
破壊神。
「…あき、どうするの?」
「どうするったって…倒すしか無いだろ…召喚した奴は世界の終わりを望んだんだから」
「…倒せるの?」
「…不完全な召喚の筈なんだ。こんな奴を召喚するのに…国民全てでも足りない。だから、完全な力は出せない筈」
どう攻めるか考えている時に、カナンから月読が出てきた。
少し髪がボサボサしているのは、乙珀と何かしていたのだろうか。
「…秋、私も闘おう。乙珀も出たいと駄々を捏ねていたから……今はお昼寝中だ」
「…そうか、乙珀は闘えないからその方が良いよな。イリアは…」
「あき、私も闘う。もう見ているだけなんて嫌だから」
「あぁ、もちろん頼りにしているよ。神聖属性で援護してくれ」
カナンが白い立体魔方陣を二つ展開。
月読が白銀の立体魔方陣を、イリアも白い立体魔方陣を展開する。
「さぁ、デカイ花火を打ち上げようぜ。__祝福の聖域!」
神聖属性を周囲一帯に行き渡らせる環境魔法。
天使の羽が舞い落ちる様にキラキラと輝き、神聖属性の攻撃を増加させる。
異変を感じた破壊神が、ゴキンッ!と首を鳴らし此方を見据えて来た。
黒い仮面に隠された顔の表情はうかがい知れないが、深紅の瞳は笑っている様にも見えた。
「くふっ、流石秋。次は私__ギガ・ホーリィレイン!」
キィィィイイイ!__
破壊神の頭上から降り注ぐ光の柱が連続して撃ち込まれる。
頭から胴に掛けて光が走り抜けていく。
その間にイリアの魔法が完成。
「私も!__エンジェリック・プルガシオン!」
破壊神の周囲に天使の羽が舞い、浄化の光を放射。
二対の腕を攻撃していく。
「流石銀皇様と聖女様!とどめだ!__輝きの大聖堂!」
破壊神の遥か頭上から、輝く光が降り注ぐ。
視界が真っ白に埋め尽くされ、破壊神を浄化していく。
「……ん?」
「あき、どうしたの?」
「いや、サティちゃんが…力を解放している」
「サティが?…エンゲージで繋がっていれば、時間を越えても解るんだっけ。…もしかして、戦闘中?」
「…多分。これは、早く終わらさないといけないな」
「くふっ、早く終わるかな?」
光が晴れ、浮き出てきた影。
大きさは先ほどよりも半分。
小さくなってはいるが、破壊神のオーラは余り減っていない様に見える。確実にダメージを与えてはいるが、まだまだ足りない印象。
その時、地の底から鳴り響く様な声がした。
『破壊を受け入れろ__絶望の世界』
周囲の大地が消え、真っ黒な、底の見えない奈落が出現した。
カナン達は、空中に居るから影響は少ないが、落ちたらどうなるかと想像すると身震いしてしまう。
「…これ、落ちたらどうなるの?」
「…地獄行きか、裏の世界にご案内…かな」
「裏の世界に行ったら?」
「…そこまでは知らん」
上は天国…下は地獄。
この世の終わり…
そう感じさせる光景だった。




