過去へ。4
サラサラと崩れる様に崩壊していく街並み。
城壁も、家も、高層ビルも、車も…そして城さえも少しずつ崩壊していく。
「人は崩壊しないようにしているから、これで文明だけ壊せれば良いけど…」
「他の国にも届くの?」
「やろうと思えば出来るけど…メインコンピューターにウイルスを入れて、他国のコンピューターも道連れにする方が早いなぁ」
「あっ、『めいんこんぴゅーた』はバリアで守られているから『ますたーきー』が無いと駄目だよ」
イリアがマスターキーを取り出し、カナンに渡す。
カナンはマスターキーをよく観察する。
高度な技術が使われているが、よく解らないのでコピー魔法で複製。後で調べようとストレージに入れておいた。
「じゃあ、メインコンピューターでも拝みに行くかぁ…ん?」
金色の城から、何かが飛び出していくのが見えた。
空を飛ぶ車が王都から逃げ出す様に飛んでいる。
しかし、何者かに撃墜されていた。
「ありゃ、宝石野郎が撃ち落としたのか?」
「多分、女王が乗っていたんじゃないかな? あの少年は女王を嫌っている様に見えたし…」
「仲間割れとは、なんともまぁ…」
実験体に殺られるとは、前世も今世も大変だなぁと思いつつ、まだ崩壊が進んでいない城の地下へと向かう。
「あき、『ういるす』ってなぁに?」
「機械にバグ…まぁ、使えなくする物を植え付けるんだ。この場合は、俺が暇潰しに自作したウイルスをフュージョンさせる…かな」
カナンがストレージから、古代の資料が入っていたタブレットを取り出す。
複製して、中身を連鎖ウイルスソフトに換えてある。
ロケット作成中の息抜きに作っていた代物で、自動的にデータを消していくウイルス。
こんな所で役に立つとは思っていなかったので、昔の自分に感謝しつつ足を進めた。
まだ動く部屋は生きていたので、カードキーを読み込ませてメインコンピューターのあるエリアへ。
様々な機械が並ぶ中、メインコンピューターに到着。
そこには先客が居た。
宝石の少年だ。
「ふ、ふふ。やっと、これで自由になれる。みんな、女王は殺したよ…」
ぶつぶつと一人言を言いながら、メインコンピューターを操作していた。
時折薄く笑い、自分の宝石を撫でながら語りかけている。
「何やってんだ?」
≪秋、邪気が溢れて来ている≫
「__何!じゃあ奴は!」
カナンが素早く移動。宝石の少年を蹴り飛ばす。
だが、宝石の少年は笑みを崩さぬまま、カナンを見据えた。
「ふふ…これで、このクソッたれた世界は終わりだよ。くっくっくっ…はーっはっはっは!」
仰向けに倒れながらも、勝利を勝ち取った様に笑っている。
そして、転移でどこかにへと消えていった。
ゴゴゴゴ!__
「何が起きるの?」
「…古代文明は、ダークマターで生物兵器を作る際…裏の世界の研究をしていた。邪族や、邪神、混沌神、破壊神の事も」
「え?じゃ、じゃあ…」
「恐らく…邪族がやって来る…先ずはデータを__フュージョン」
メインコンピューターを操作してみるが、状況は変わらず…
急いで連鎖ウイルスソフトをメインコンピューターに融合させた。
「…効いたの?」
「ああ、効いたけど…もう、魔方陣が起動した」
「魔方陣?」
「…この大陸に設置された、超巨大魔方陣」
カナンが以前見付けていた、古代の石碑。魔方陣の角となる石碑の中心部分は…地図上ではこの付近。
ゴゴゴゴ!__
「_くそっ!一旦出るぞ!」
「_うん!捕まって!テレポート!」
バシュン!__
王都の外へと転移。
そこには、大きな魔力が渦巻き、空には黒い雲が発生していた。
「やっぱり…一度起動していたのか。でもこの魔方陣を起動する魔力は何処から…もしかして…国民全て…」
震動と共に、大地が淡く光っている。
嫌な予感は当たる様で、巨大な力が発生していた。
「これ…何が出るの…」
「もう、嫌な予感しか無い」
そして、超巨大な魔方陣は発動する。
古代文明の国…ルシフェル国民を犠牲にして。
ゴゴゴゴ!__
真っ黒い光が、中心部分…王都の北に集束していく。
そして、大きな黒い珠が出来上がった。
「うそ…これって…」
「あぁ、この懐かしい雰囲気は…でも…邪神でも…混沌でも無い…」
大きな黒い珠が、形を変えていく。
脚の様な物が生え、次第に腕の様な物が生えてくる。
邪気が溢れ、鮮明な身体に変化していった。
黒いローブから覗く、筋肉質な真っ黒い脚に、大きな蹄。
二対の黒い腕には、それぞれ禍禍しい剣を持っている。
一対の深紅に光る瞳を持つ顔は、黒い仮面の様な物で隠され、胴の中心には赤黒い珠が存在していた。
感じる力は圧倒的で…邪神、混沌神よりも上の存在。
「あっ、ヤバい…一番強い奴だ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
元の時代。
キリエ、毒酒と対峙する…アイ、紅羽、サティ、溟海、龍王、リーリア、矢印。
秋の所在を求めるキリエに、龍王が対応する。
「秋は、過去の世界に居る」
「…過去?」
「戻るのは、明日か明後日だ」
「そう…なら…待たせて……」
キリエの動きが急に止まり、虚空を見詰め出した。
何事かと、首を傾げる一同をよそに…毒酒が回り込んでキリエの前に立ち、唇を噛みしめながらキリエを見据えている。
「キリエ?大丈夫か?」
「だい……ぐっ…あっ…」
ドクンッ__
キリエの身体が仰け反り、脈動していく。
異常を察したアイ達は距離を取り、キリエの様子を伺う。
毒酒はアイ達の方に振り返りながら、世界樹を指差す。
「みんな…世界樹を守って…」
「ど、どういう事だ?」
「もう…これは…キリエじゃない…早くして!」
ドクンッ__ドクンッ__
「……くっ…」
「…キリエ」
「…くっ…くくっ…ククククク…この時を…待っていた…」
キリエから、邪気が噴き出してくる。
世界樹の前に移動した一同は、強い重圧を感じていた。
心臓が鷲掴みにされる様な…今まで感じた事の無い濃密な死のオーラ。
龍王が一人、驚愕に目を見開く。
「…なん…だと」
「師匠…何が起きているの?」
「あれは…混沌神…」
龍王だけは知っていた。
秋と共に倒した混沌神のオーラを。
「ククククク…秋が来るのを待つ間…龍王…先ずはお前を殺そう」
「キリエ…もう…限界だったんだね…」
歪んだ笑顔を見せ、喜びを表現するキリエは…以前の雰囲気は無い。
混沌神は、ずっと待っていた。
キリエに吸収された振りをしてまで、待っていた。
復讐の時を…
対峙する毒酒は、泣きそうな表現でキリエを見据え…
そして、魔力を解放した。
「ククッ…毒酒よ…お前にこいつは殺せぬ」
「…約束…したから…友達と!__禁毒作製!デッドエリクサー!」
「邪魔をするなら…殺す。__星体観測!」
煌めく星達が、舞い上がる。




