過去へ。3
古代文明時代。
「月読…出てきてくれ」
≪くふっ、了解。…何?出たいの?≫
「ん?どうした?」
カナンは月読を呼ぶ。
何やら月読はぼそぼそと喋っている。
少し待っていると、スッとカナンの中から月読が出て来た。
「イリア、紹介するよ。月読……え?」
紹介しようと月読の方を向く。
すると、月読が微笑みながら何かを抱えていた。
その何かはもぞもぞと動き、カナンに顔を向ける。
茶色い髪に白い肌の可愛い幼女。
どことなく誰かに似ている幼女は、黄色い瞳をカナンに向け…一言。
「…ぱぱ」
「……」
カナンの時が止まる。
イリアの顔が引きつり、月読がくっくと笑っていた。
「あき…子供居たんだ…あれ?でもこの子…」
「…いや、ち、違う…俺の子じゃ…………あれ?もしかして…琥珀の魔王?」
「くふっ、正解。ずっと中に居たのに、呼んでくれないから怒っているぞ」
「いや、なんで?ずっと?いつから?」
「心当たりは無いか?前世で」
カナンが琥珀の魔王と見詰め合いながら、前世の記憶を思い出す。
心当たりは一つ。
アースクエイク・ソウル・グランデを高笑いしながらトイレ魔法…ギガンティック・ウォーター・クローゼットで何処かへ流した記憶。
そこでカナンはハッと気付いた。
トイレ魔法はオリジナル魔法。
オリジナル魔法を使って倒した…アグニに使った崩壊の魔法の様に、吸収効果があった魔法なら…アースクエイク・ソウル・グランデを秋が吸収していたのではないかと。
「…俺と一緒に…転生していたのか」
「そうみたいね。この姿だから、魔王として生まれたのは最近だと思うけど」
「…」
カナンは記憶を呼び起こして行く。
今考えると、合点が行く事を…
転生してから前世より格段に魔力が多かった事。
髪の色が家族の中で、自分だけ茶色だった事。
アイと闘った時…土属性の禁術を普通に使えた事。
最近急に土属性の適性が上がっていた事。
カナンの中で月読がぼそぼそと一人言を言っていた事。
今まで引っ掛かっていたが、琥珀の魔王がカナンの中に居たのなら納得出来る。
「じゃ、じゃあ…あきはこの子に会うのは初めてなの?」
「あぁ…今初めて会った…」
琥珀の魔王がイリアに視線を向ける。
ジーッと見詰め…
「…まま」
「__はぅっ!」
ままの一言に…イリアは胸を抑えて撃沈した。
月読は相変わらず笑っている。余程楽しい様だ。
このままでは混乱が加速する…カナンは一先ず落ち着こうとしていると、宝石の少年が起き上がろうとしていた。
まだ闘う気にはなれないので、アダマント・パイルバンカーで沈めておいた。
「イリア、私は月読。よろしく」
「はい、よろしくお願いします!」
「くふっ、良かったね。秋に会えて」
「はい!」
「沢山、愛して貰うんだよ」
月読と挨拶を交わしたイリアが、抱っこされている琥珀の魔王の手を握る。
「…」
「ね、ねえ、なんで私がママなの?」
「…ぱぱ、ままの事好きだったから」
「…あきぃ」
笑顔で振り返るイリアに、カナンはガリガリと精神が削られていく。
イリアが嬉しそうにしているが、とりあえず話題を変えたい。
「…あの…」「あき、この子の名前は?」
「…いや、まだ無いけど…月読、ある?」
「まだ無いよ」
「琥珀だから…乙珀…どうかな?」
「うん…いづは。…ありがとう、まま」
「あぁ…可愛い…」
「…」
カナンは、イリアが嬉しそうにしているから良いか…と諦め、これからどうするか考える。
恐らく歴史上では、イリアが死んでこの国が無くなると推測。
だとすると…このまま帰って良いものか悩みもの。
歴史が変わってしまうのではないかと思ってしまう。
「イリア、女王に会ったか?」
「うん。『めいんこんぴゅーたのますたーきー』を奪ったんだけど、あの少年が現れて…」
「…そうか。歴史上では、これから天罰が起きる予定なんだ。このまま帰ったら歴史が変わるかも知れない」
「あぁ、私が死ななかったからかな…でもなんでそんな事解るの?」
「この国の女王は、グリーダ・ファー・アデライトの前世だ」
「…へ?」
グリーダの記憶では、これから国が壊れる。
イリアには、グリーダに復讐した事、記憶を読み取った事を伝えていく。
終始驚いた表情をしていたイリアだが、カナンが落ち着いて話している事に安堵を浮かべた。
「それで、だ。俺がこの国を終わらそうと思うんだけど良いかな?」
「もちろん。女王には会わないの?」
「グリーダの記憶に俺は居なかったから、会う必要も無いだろ」
非道な実験を繰り返し、人を踏みつけて成り上がった国の辿る道など解りきった物。
世界を巻き込んだ戦争が起きる前に、壊してしまわなければいけない。
カナンは再び宝石の少年にアダマント・パイルバンカーを当て、王都へと歩き出す。
イリアはカナンと並んで歩き、月読は乙珀と共にカナンの中へ。
「ねぇあき、サティには会った?」
「おー、会ったぞ。あんなに強くなるとは思わなかったよ」
「ふふっ、そっかぁ…私の負けかぁ。サティは凄く頑張ったんだよ。色々大変だったんだから。あっ、ファナはどうなったかな?」
「イリアのお蔭で覚醒を乗り越えられたんだよなぁ。ファナエルはちゃんと治したぞ」
「流石だね」
やがて、王都の前に立った二人は、上空へと飛び上がる。
金色の城の真上に到着。
イリアが見守る中、カナンは七色の立体魔方陣を展開。
「_っ!あき!それって!」
「あぁ、ジ・エンドじゃないから安心してくれ。最近作った魔法なんだ」
更に、銀色の魔方陣を展開。
立体魔方陣に重ねていく。
「__魔法進化!」
__グンッ!
七色の立体魔方陣が巨大化。
徐々に王都の人々が気付いていく。
「凄い…」
「よし、出来た__大崩壊!」
七色の立体魔方陣が光を放ち、激しい音を立てて弾ける。
キラキラと七色の光が王都全体に降り注いだ。
天異界にて。
「…なぞなぞ」
『…』
「…切っても切っても切れない物なーんだ」
『…今』
「…」
『…』
「…あっ、モォーリーを探せでもやりますか」
『…ああ』




