過去へ。2
カナンは時間の波を越えて行く。
一年、十年、百年、千年…
(なんか船酔いで空飛んでる様な…変な感覚だな…)
≪秋、大丈夫?≫
(大丈夫だよ。月読は影響無いか?)
≪大丈夫≫
二千年、三千年、四千年…もう少しという所で先に行けない。
(ん?なんか先に行けないな)
≪イリアが居るから?≫
(多分な…無理矢理行くぞー)
≪私の魔力も使って良いよ≫
魔力を込めて、壁の様なものを突破。
次第に浮遊感は無くなり、下に見える光へと吸い込まれる。
「__出たぁ!おー!あれが古代文明!」
遥か上空に出てきたカナンの目に飛び込んで来たのは、高層ビルが建ち並ぶ近代的な都市。
その中心に金色の城が見えた。
「あそこに居るのか?」
≪秋、真下だよ。急いだ方が良い≫
「下?__了解」
月読の声を受けて、下を見ると戦闘中だが…終局に見えた。
カナンは急いで紫色の魔方陣を展開。
空から落下しながら、魔法を発動した。
「__タイム・アクセラレーション!」
……
……時間がゆっくりと流れる中、カナンは地上へと降り立つ。
「__っ!あっぶね!」
カナンが驚くのも無理は無い。
首に剣が添えられ…今まさに、首を跳ねられる瞬間だった。
少年の頭をつかみ後ろに投げる。
傷付いたイリアの状態を見る。
両腕を斬り落とされ、胸を貫かれていたが、まだ死んではいない。
少しの安堵。それと共に、イリアを痛め付けていた少年に怒りが湧いた。
後ろを振り返り、少年の元へ。
属性石等の宝石を身体に埋め込まれた身体に、顔を顰めた。
「こいつは、実験体…俺がされていた実験の元がこいつか…」
前世でグリーダに属性石を埋め込まれた事を思い出す。
古代の技術なら、こんなにも埋め込めるのかと思うが方法なんて知りたくも無い。
この少年はその被害者なのかも知れないが、同情はしない。
「イリアを殺そうとしやがって__アダマント・パイルバンカー」
少年の上に巨大な杭が出現。
爆発音と共に杭が射出。
ドゴオォン!__
少年を地面に撃ち込む。
「連打連打連打連打」
ドドドドド!__
杭が連続で撃ち込まれ、地中深くに埋まっていく。
地中に埋まった少年を引摺り出し、ポイッと捨てた。
そして、イリアの元へ行き白色の魔方陣を展開。
……
……時間の流れが元に戻る。
「__パーフェクトヒール」
死にかけていたイリアに回復魔法を掛ける。
両腕は元に戻り、胸の傷は消え、身体に刻まれた傷痕も消えていく。顔にある大きな傷痕も消えて行った。
全ての傷が消え、目は閉じているが、カナンの記憶通りのイリアに戻った。
イリアを確認した後は、少年の様子を見る。
まだ動く様子は無い。生きてはいる様子だが…
「えっ、私は、生きて…」
「はぁ…間に合った。…相変わらず、自分を回復すんのは苦手なんだな」
「あの、誰…なの?」
照れ隠しなのか、イリアの方を見ずに話すカナンは、珍しく緊張している様子。
月読の笑い声が聞こえた気がした。
「姿は変わったけど…まぁ、その、なんだ、…あー…言おうと思ってた事忘れちまった」
カナンは拳を握り、天を仰ぐ。やっと会えた喜びで、頭が真っ白になっていた。
とりあえず、自分の事を伝えなければ話は進まない。
月読に早く言いなーとからかわれながら、カナンは振り返る。
「…まぁ、うん、迎えに…来たぞ。イリア」
「は?え?…迎えに?」
迎えに来ただけでは伝わらない。解っているが、説明が難しい。
覚えていなかったら…拒否されたら…とネガティブな思考に陥り掛ける前に、半ばヤケ糞で名乗り出る事にした。
「…秋だ。藤島秋だよ!覚えてねえか!?」
「は?秋はこんなに格好良く無いよ。おまけに若い美少年なんてあり得ない。嘘だ!」
「嘘じゃねえ!転生したんだよ!ひでえな!」
格好良くないのは、自分が一番知っている。
だから格好付けたのだから。
転生なんて、信じられないのは当然で、カナンは魔法を発動する。
「……秋なの?」
「そうだよ。久しぶりだな…ってまだ疑ってんな。しゃあない__メモリートランスファー」
混乱しているイリアに秋の記憶を見せる。
次第に、イリアの目に涙が溜まっていくのが解り、やっと信じて貰えたと安堵のため息を付いた。
「あきぃ…」
「ったく、こんなところで何してんだよ。__うおっ!」
イリアが感極まって抱き付く。
久しぶりの再会なら仕方ない。
死んでいたと思っていた人物なら尚更。
「あきぃ…あきぃ…」
「あー、うん。頑張ったな。偉いぞ」
カナンの両手が宙を泳いでから、そっと抱き締める。
するとゆっくりとイリアが離れ、カナンの目を見詰める。
桃色の髪に、キリッとした紫色の瞳。
あの頃と変わらない少しあどけない美しい顔立ち。
カナンは吸い込まれそうな感覚になっていると、イリアが微笑み口を開いた。
「あき、結婚して」
「__へ?」
「愛してる」
「え?ちょ__」
イリアがそのまま顔を前に動かし、カナンの唇に重ねる。
カナンは急な出来事にフリーズ。再び頭が真っ白になっていた。
……
「…返事は?」
「…うん」
「…うん、じゃ解らない。結婚しよう以外の言葉は認めないよ」
「……分かった…結婚しよう」
「ふふっ、やったー!早くエンゲージして!今すぐ!ほらほら!早く早く!」
イリアが急かしながら再びカナンに抱き付く。
カナンは本当に良いの?と思いながら魔法を発動した。
「__クロスハート・エンゲージ」
刻まれた魔法ごと契約する。想えば想う程に、愛が強くなる様に。
再び唇を重ね、イリアの顔が赤く染まっていく。
幸せそうに笑うイリアに、カナンも顔を綻ばせた。
「へへっ、嬉しいな」
「…あぁ、俺も、嬉しいよ。でも、ここを片付けてから…また喜ぼうぜ」
「そうだね。他のお嫁さんも紹介して貰わないと…ね?あき?」
「あ、あぁ……まず、一人、紹介するよ…」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
元の時代…世界樹では、ある異変が起きていた。
ざわざわと、世界樹が揺れている。
風が起きている訳では無い。
何かの、前兆の様な。
『……え?』
雑談中、急に黙りこんだリーリア。
何かに驚く様に、世界樹を見上げる。
「どうしたの?リーリア」
『…お母さんが…バリアを解くって…』
「_っ!なんだと!何が起きた!」
『神が…死んだ?』
「「「__はっ?」」」
その場に居る者全員が驚愕する。
神が死んだ。
何故、何が起きたと困惑する。
死ぬとしたら、誰かが神を殺す以外に無い。
では、誰が神を殺したというのか。
「…何が、起きている…」
『バリアを解くと…封印も解ける』
「封印?」
『__創星神の記憶』
リーリアの発言の後…世界樹が輝き、天に向かって銀色の光を放つ。
その直後…
バリンッ!__
ガラスが割れる様な音が、天に響き渡る。
世界中に聞こえる程の音が響き、銀色のオーロラが発生していた。
それを呆然と眺める一同…
「_っ!これ…は…」
「ぐぁ…この…記憶…は」
「__ああぁぁ!」
「__…な…に…こ…れ」
突如、龍王、溟海、アイ、紅羽が頭を抱えだした。
その中でも、アイと紅羽は苦しそうに呻いている。
「__皆、大丈夫?」
『…大丈夫だよ。記憶を取り戻しているだけだから』
「どういう事?」
サティがアイと紅羽の背中を撫でながら、リーリアに説明を求めた。
リーリアは落ち着いた様子でアイと紅羽を眺め、サティに安心してと笑い掛ける。
『お母さんは、外から来た神との戦争の終局…バリアを張るには力が足りなかったから…創星神を代償にしたんだ。
この世界の元々の神をね…そして、この世界の者から創星神の記憶が消え…創星神は力を失い、四つに分かれた』
「…私は、忘れていたのか…一番大事な者を…」
「…そうか…あの時…」
溟海と龍王が過去に失った記憶を取り戻し、アイと紅羽を見る。
アイと紅羽は少し落ち着いた様子だが、まだ苦しそうにしていた。
「…そうか…私は…」
「ああ…我は…」
「私達は…元々…」
「一つの存在…」
アイと紅羽が頭を抑えながら、一つ一つ言葉を紡ぐ。
確認する様に、お互いを見詰めながら…
ふと、アイが溟海に視線を移す。
何かを言いたげに、口を開けては閉じを繰り返していた。
「アイちゃん?どうしたんだい?」
「…あの、えっと、お、おとう…さん」
「__っ!シ、シーラ…記憶が…」
「…うん、繋がった…全部…」
封印が解け…アイと紅羽は過去、魔王として生きていた記憶が全て繋がり、膨大な量の記憶が一気に流れ込んで来ていた。
勇者に討たれる記憶。
聖女の自爆にやられる記憶。
アイはその中に、溟海と一緒に過ごした記憶があった。
懐かしくて、暖かい記憶。
「お父さん…ごめんね…あの時、戦えなかった」
「謝るのは…私の方だよ…守ってやれなかった…」
恥ずかしそうに笑うアイと、涙を流す溟海。
抱き締め合う姿は、本当の親子の様だった。
その場に居た全員の心が暖かい物で満たされていた…
__その時、世界樹の前に一つの星が落ちる。
__ドオォン!
「__なんだ!…キリ…エ、と可愛い子ちゃん」
『彼女達だよ。神を殺したのは』
「…世界を救ったという事?」
星から降り立ったのは、キリエと毒酒。
キリエはゆっくりと歩き、毒酒は頭を抑えながら後ろに付いている。
アイ達の前に立ったキリエが、龍王を見据える。
その目は研ぎ澄まされた刃の様に鋭く、酷く冷たい眼差し。
「秋は…どこに居るの?」
天異界にて。
「あの、ただ待っているのもアレなんで…お茶でもしませんか?」
『…』
「じゃ、じゃあ…しりとりしましょう。最初は…ゴリラ!」
『…ライン』
「んかじ!」
『…じしん』
「んのざき!」
『…キリン』
「んねさか!」
『…かばん』
「んじぐち!」
『…ちかん』
「んまこし!…あの、そろそろ…ん以外にして貰えませんか?」
『…』




