イリアス・ヴルー・クロスハート。4
天罰は…人々の祈りと聖女の祈りを交差する事でエネルギーに変える魔法。
人々が祈れば祈る程、聖女が祈れば祈る程…想いが交差し蓄積…聖女が死ぬ時に爆発的なエネルギーを神気の攻撃に変換する…儀式型神位魔法・クロスハート。
敵対する者達…敵意が交差した者達全てにクロスハートが適用する。
私に刻まれた自爆魔法。
これがあるから、ここで死んでもエルヴィーラ女王以下を巻添えに出来る筈。
聖女の仕事を最後までやったのは、この為だ…
「逃げても無駄だよ。僕には転移があるからね」
宝石を埋め込まれた少年と対峙する。
周りに人は居ない…遠くに隷属された人達が見えるから、ここで闘っても大丈夫。
「もう逃げないよ。私には天罰があるから…私を殺したら国は滅ぶよ?」
「くくっ、知らないのかい?神気を防ぐバリアがあるから、この国に天罰は効かない」
「…なら、あなたを倒して直接壊す」
「出来るものならやってみなよ__能力解放」
少年の宝石が輝き出す。
宝石一つ一つに大きな力を感じる…これは、分が悪いかな。
…それでも、私は闘うしかない。
それに、天罰が効かないのは嘘だ。
私は魔力を解放していく。
紫色の魔法陣を発生させ、私の身体を包む。
「__魔装・戦乙女」
身体の中心から発生していく、緩やかな曲線を描き全身を包む鎧。
金剛魔銀の槍が紫色に変化。
そして、紫色に輝く翼を広げる。
最初から、全力で…
「__ディメンション・ホーリィレイ!」
キイィィン!__
少年を空間で閉じ込め、光の攻撃。
「へぇー」
__後ろ!?転移か!
少年が青白い剣を持ち、私に振り下ろして来る。
ガキィン!__
槍で受け止め、ギシギシと槍が軋む。
魔装で強化している槍を軋ませる程の力…
この剣は…見覚えがある。
「…聖剣」
「良く解ったね。その通り、これは魔導科学の結晶…聖滅剣」
「…なるほど、この国で量産された武器なんだ__紫電槍武!」
__バチバチ!
「__むっ」
槍に紫電を纏わせ少年を吹き飛ばす。
「_紫電縛封!」
紫電を纏わせた封印禁術。
空中に固定。
手足を拘束。
そのまま高圧電流を流す。
「くくっ、雷無効」
__雷が効いていない。
能力を発動したのか…厄介な。
少年が拘束されている間に、白い魔方陣を展開。
「__エンジェルフェザー!」
私の翼を白く染める。
魔装に光属性を追加。
空高く飛び上がり、槍に魔力を込める。
「__天空より飛来する一筋の光よ!光の槍となりて我が敵を貫け!__エンジェリックランサー!」
キィィィィ!__
槍が純白に染まり、
上空から少年に向かって槍を放つ。
ゴォォォ!__
光の軌跡が尾を引き、
光速の槍となり少年を貫く。
貫いた槍は地面に衝突。
激しい音と共に大きなクレーターを作った。
…貫いた少年の元へ。
腹に大きな穴が空いている。
「…いやぁ、痛かったなぁ」
__あの状態で平然と…
大きな穴がみるみる塞がっていく。
…再生能力。
__消え
__ザシュッ!
一瞬の事で、解らなかった。
私の両腕が宙を舞っている事に。
「__あぁぁぁ!」
血が流れる瞬間に、激しい激痛。
「__かはっ…」
聖剣が私の胸を貫いていた。
こんなにも、力の差があるのか…
勝負になんてなっていなかった…
「もう終わり?つまんないの」
少年の声がやけに良く聞こえ、聖剣を横凪ぎに振るう瞬間に目を閉じた。
首が飛んで私は死ぬのか…
ごめんね。サティ…嘘ついて。
…頑張ったんだけどなぁ…
やっぱり、私は…
……
……死んだのかな。
まだ、首は繋がっている感覚だけど。
「__パーフェクトヒール」
何か暖かい光が、私を包んでいた。
…回復魔法?
傷が治っていく?
ふと、疑問に思う。何が起きた?
そして、恐る恐る目を開けてみた。
目の前に広がるのは、私に背を向けて立つ少年?の姿。
その向こうには、宝石を埋め込まれた少年がボコボコになって倒れ伏していた。
「えっ、私は、生きて…」
「はぁ…間に合った。…相変わらず、自分を回復すんのは苦手なんだな」
この少年は何を言っている?
前に、会った事があるのかな。
なんだろう…この感じ。
「あの、誰…なの?」
「姿は変わったけど…まぁ、その、なんだ、…あー…言おうと思ってた事忘れちまった」
気の抜けた事を言いながら、拳を握り、天を仰ぐ少年は…どこか懐かしく…
振り返り困った様に笑う姿は、私の古びた歯車を揺り動かしていた。
「…まぁ、うん、迎えに…来たぞ。イリア」
「は?え?…迎えに?」
迎えに?どういう事?
ダメだ、混乱してよく解らない。
誰か、説明して…
「…秋だ。藤島秋だよ!覚えてねえか!?」
「は?秋はこんなに格好良く無いよ。おまけに若い美少年なんてあり得ない。嘘だ!」
「嘘じゃねえ!転生したんだよ!ひでえな!」
転生?秋?なんだ、夢を見ているのか?いや、実はもう私は死んでいるんだ。
だってこんな事、あり得ないじゃないか。
秋が迎えに来るなんて…
……迎えに来てくれるなんて。
「……秋なの?」
「そうだよ。久しぶりだな…ってまだ疑ってんな。しゃあない__メモリートランスファー」
少年が私の手に触れ、魔法を使用した。
……これは、記憶。
……秋の、記憶。
懐かしいな…私も、サティも、師匠も、みんな居る…
あぁ…本当に…秋なんだね。
「あきぃ…」
「ったく、こんなところで何してんだよ。__うおっ!」
秋を力一杯抱き締めた。
目から涙が止まらない。
もう諦めていた。
もう死んでいると聞いていた。
もう会えないと思っていた。
「あきぃ…あきぃ…」
「あー、うん。頑張ったな。偉いぞ」
暖かい。
本当に…頑張ったんだよ。
だから…
「あき、結婚して」
「__へ?」
「愛してる」
「え?ちょ__」
秋の唇を奪ってやった。
あの時好きだと言えなかったから、もう後悔なんてしたくない。
もう、離さないから。
私の時間が、動き出した瞬間だった。
これでイリアちゃんパートは終わります。
流石にほとんど出番無しは可哀想だったんで…はい。
次回からは主人公メインになるかと思いますかね。多分ですが…




