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イリアス・ヴルー・クロスハート。1

ちょっとここで、イリアちゃんのお話を挟みます。

秋が死んだ後をサラッと…多分三話くらいで終わるかと思いますので…


一人称でお送りします。

 

 私の時間は、この時からずっと…止まったままだ。



「__っだめだ!だめだよ!アキ!」


 目の前に広がる、信じがたい光景。

 邪神と闘う、藤島秋の姿。


 どうしてだろう。

 いつもポツンと一人で、夜星を見ていたこの人は…どうして一人で闘っているのだろう。

 どうして、あんなに苦しいのに笑っているんだろう。


 どうして、誰も秋を助けない。勇者も、聖騎士も、魔法士も……私も…


 あの時、この手が届いたのならば…彼の隣に居る事が出来たのだろうか。


 今となっては、叶わない夢。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 秋が魔法を発動し、邪神と共に光の中へ消えていった。


 それを、茫然と眺める…私を含めた仲間達…いや、勇者一向。


 晴れ渡る空。澄んだ空気。

 さっきまで邪神が居たなんて、嘘だと思う様に大きな虹が掛かっていた。


「__はっ!アキは!?」


 秋が闘っていた場所まで走る。


 激しい戦闘の跡…超位級の魔法が行使された場所は、大きなクレーターが出来ていた…何も無い場所。


 パサッパサッ__

 私の目の前に、数冊の本が落ちた。

 これは…秋が持っていた本。

 パラパラと捲ってみるけど、読めない。

 語訳が書かれている場所がある。

 …これは、秋の故郷の言葉…これを訳せば、秋が何処に行ったか解るかもしれない。


 酷く頭が冷静なのは…あまりに突然な事に…一本の糸に縋る様な事しか、出来なかったから。



「秋ちゃーん!秋ちゃーん!どこー!……秋ぢゃーーん!……あき…ちゃん…どこぉ…」


 サティが泣きながら秋を呼んでいる。

 彼女も、秋が好きだった。

 落ちこぼれと呼ばれていた秋だけど…お飾りと呼ばれていたサティには優しくて、私はそんな二人をいつも見ていた。


 サティがいつも秋の話をしてくれて、秋がどんなに優しい人か教えてくれた。

 サティが…『イリちゃんも秋ちゃんの事好きになって欲しいの!』…その言葉が始まりだったのかもしれない。



 一度、秋が転移で何処かへ消えてしまった時は大変だった。

 だから今回も……


「…秋ちゃんが…私を…置いて行った…また…置いて…行った……秋ちゃんが居ない…なら…生きていても…無駄…」

「サティ…秋は戻って来るよ。絶対に戻って来るから、死んだら駄目だよ」

「…イリちゃん…ほんと?」

「うん。絶対…迎えに来てくれるから」



 ポトポトと、秋が空間魔法で仕舞っていた物が落ちていく中。


 私は、初めて親友に嘘を言った。


 絶対なんて、保証は無いのに。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「悲しんでいる所悪いが、秋が持っていた物を回収しなければいけない。手伝ってくれ」


 秋が転移から帰って来た時に、一緒に居たシルバーさん。

 ファナに付き纏う気持ち悪い人。

 だけど、この人が言う事は確実だと思う…多分、秋と同じくらい強いから。


「回収するのは装備品と書物。それ以外はくれてやれ」


 くれてやれって…この七色に光る液体…まさかエリクサー?これをくれてやれって?

 少し前に秋が間違えて出した英雄の薬…それを持っていた事は知っていたけど…エリクサーまで持っていたなんて…


 サティと一緒に装備品を回収する。

 秋の服を手に取ったサティは、少し笑顔が戻ったみたい。

 少し安心した。



 兵士達は、エリクサーや金銀財宝の回収に夢中。

 その隙にほとんどの装備品は回収出来た。


「…シルバーさん、あの、アキは…」

「…秋は、そうだな。アレだ。うん、アレだ」


 アレじゃ解らない。

 視線が泳いでいる。

 何を隠している。


 認めないよ。

 秋は何処かに飛ばされたんだ。

 そう信じないと、文句が言えないじゃないか。


 格好つけやがって…あんな事されたら、忘れられないじゃないか。



「…秋ちゃん…私が…弱いからかな…だから…連れて行ってくれなかったのかな……強くなったら…迎えに来てくれるかな…」

「サティ…そうだよ。強くなったら…迎えに来て貰おうよ」

「イリちゃん…頑張ろ」


 エルフは、一途な存在だ。

 心が折れたら、立ち直れない。


「シルバーさん…どうしたら、アキの様に強くなれますか?」

「…強くなりたいのか?…まぁ、頑張ればなれるんじゃないのか?」

「なら、私達を強くして下さい」

「イリアスとサティエルを…か?…ファナちゃんは…」


「おいロリコン野郎ファナの名前を呼ぶなファナが穢れるその目を潰すぞクソロリコン鼻毛野郎」

「さ、サティ…落ち着いて…」

「シルバー…いや、師匠。私に殺されたくなかったら、鍛えて下さい」

「……」


 サティ…精神が不安定になってきている。

 まずい…覚醒の兆候が出ている。


「……じゃあこれからは師匠と呼んでくれ」


 シルバー…いや、師匠は、渋々了解してくれた。

 なんでも、秋から何かあったら頼むと言われていたらしい。


 ファナは、秋の魔法にショックを受けてエルメスに帰ってしまった。魔法使いとして、格の違いを見せ付けられて落ち込んでいた。

 私は誘ったけれど、師匠が居るからと…駄目だった。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 その後は、大教会へ行き魔王討伐の報告。

 そして、ファー王国へと足を運んだ。


 まだ、聖女としての仕事は残っている。

 サティと師匠は修行をしながら、私の行く先々に来てくれた。



 先ずは、確認しなければ…グリーダ姫に。


 ……

 ……

 ……

 ……話にならない。


 グリーダに会ってきたけど、無理だ。

 これ以上、顔を合わせる事は出来ない。



 秋は、隷属されていた。

 だから、嫌々ながら旅に付いてきていたのか…

 私の心がぐちゃぐちゃにかき混ぜられた様な感情に支配される。

 本当に、殺してしまいたい。

 でも、出来ない。

 師匠が、グリーダを絶対に殺すなと言った。

 聖女の洗礼を受けていたから…


 悔しかった。

 だから、この国からグリーダを追い出した。

 無駄な事だとは解っていたけれど、せずにはいられなかった。


 …絶対に、サティには知られない様にしないと。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ある日、サティが夜中に抜け出した。


 探して、探して、やっと見付けたサティは…星空を眺めながら、自分に剣を刺していた。


「__っ!サティ!駄目!__ハイヒール!」

「…イリちゃん。回復しないでよ。秋ちゃんに会いに行くんだから」

「死んだら会えないよ!__っ!サティ…目が…」


 白い光に当てられてよく見える。

 サティの目が青色に染まっていた。

 …覚醒してしまった。


「…ほらっ、このメガネは外しちゃ駄目だよ」

「うん…」


 覚醒したら、いつ死ぬか解らない。

 百年我慢すれば、覚醒したエルフは進化する。

 目的を達成するまで、死ぬ事は無いと伝えられているけれど…

 私は、人間だ。

 百年も生きられない。

 私が死んだら、サティは死ぬ。

 ファナに任せても、きっと無駄。

 ファナは、秋が嫌いだった…

 だから、秋を理由に死のうとするサティを止める事はしない。



 師匠なら解る筈。

 寿命を伸ばす方法。


「それなら、この時空石を取り込むしか無い。エリクサーを飲み続ける方法もあるが、イリアスには適性が足りないから難しい」

「時空石…」


 失敗したらなんて聞かない。

 サティは死なせたくなかった。

 これは、私のエゴなのかもしれないけれど……



 …結果は、成功した。


 そのお蔭で、時空魔法の適性を得た。


 食事も取らなくても大丈夫になった…進化、したのかな?


 サティが覚醒を乗り越えたら、秋を探しに行こうと思う。





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