龍王との再会。
魔の森。
ファー王国から遥か東に位置する広大な森の中にある一角。太古から存在する森。
強大な魔物が蔓延る危険地帯として知られ、人が足を踏み入れたら最後…方向感覚が狂い、強大な魔物に殺され、帰って来る者は居ないとされる。
そんな森をのんびりとした雰囲気で歩くカナン一向。
話に聞いていた魔の森とは違う、静かな森。
「真っ直ぐ進んでいるから、昼過ぎには着くかなー」
「秋、森から行かないと駄目なのかい?」
「空からだと、入れないんだよ。だから森を進むしかない。魔物が出ないから楽だと思えば良いさ」
空からだと、世界樹のバリアが濃いので入れない。
だが、世界樹の加護…カナンの星属性とリーリアが居る。そのお蔭で魔物は来ない。
魔物が来ない理由は…ここの魔物は世界樹が管理しているからだが、それを知る人間は居ない。
「そういえば…星属性が強い者は、銀色の髪になるのに秋は茶色だな」
溟海が不思議に思い、カナンに訪ねる。
カナンは、言われてみればそうかと自分の髪を触った。
「前の秋ちゃんは黒髪だったね」
「あぁ…実は銀色になっちゃったから染めていたんだよ。似合わな過ぎてな…」
遠い目のカナン。
素朴な顔にキラキラとした銀色の髪…当時の秋は似合わなすぎて絶望し、龍王は笑い転げていた。
その後、龍王をボコボコにして黒い染色液で髪を染めたのは良い思い出。
雑談しながら、魔の森を進んでいくと段々と星属性の魔力が濃くなってきた。
もう少しで着くという所で、石の中の住人が出てくる。
「世界樹をこの目で見たいから出てきたわよ」
「なんか懐かしい雰囲気だな」
『私はここで生まれたんだよー!』
リーリアと矢印がクルクルと回りながら先頭を飛び、アイと紅羽が手を繋いでリーリアに付いていく。
その後ろをカナン、サティ、溟海は微笑ましく思いながら付いていった。
鬱蒼とした森を進んでいくと、やがてひらけた場所に到着。
「わぁー、大きいわねー」
「デカイなー」
「懐かしいなぁ…」
カナン達の視界一杯にそびえ立つ、巨大な樹。
澄んだ空気の中に立つ神々しいまでの存在感。
幹の太さは直径百メートルはありそうで、青々とした葉が生えているが、枯れている場所も見える。
生命の樹、最初の樹、全能の樹、世界樹などと呼ばれる絶対種。
世界樹の根元には、大きな銀色の龍がこちらを見詰めている。
リーリアと矢印は、先に世界樹の元へと飛んで行った。
それを見届けた後、カナンを先頭に銀龍の元へと歩いていく。
『止まれ、人間がこの地に何の用だ』
「ちょっと昔話をしに来ただけだよ。俺の事忘れたのか?」
『…』
「…」
澄みきった空気の温度が下がっていく。
対峙するカナンと銀龍。
睨み合う様に見詰め合う。
ピリピリと空気が張り詰めていく。
アイ、紅羽、サティ、溟海は一触即発の雰囲気に後方へと下がっていた。
『…』
「…」
『…クソ眼鏡変態』
「…ロリコンクソ野郎」
『銀髪ブサ男』
「銀髪イボキレ痔」
『聖女のパンツを盗んだ野郎』
「ファナエルのパンツを被った野郎」
『…生き延びていたか、ゴキブリストーカー』
「お蔭様でな…鼻毛ドMロリコン」
『…』
「…」
「『…ぶっ殺す』」
カナンが魔力を解放。
銀龍も魔力を解放していく。
張り詰めていた空気は、ビリビリと軋み始め、アイ達は更に後方へ下がる。
カナンが魔方陣を展開し、銀龍に向かって右手を向ける。
銀龍は大きな口を開け、エネルギーを溜めていく。
「ぶっ飛べや、ロリコン…四元波動砲」
ギュィィイ!__
赤、青、緑、黄色に輝いた四色の極太レーザー。
後方にある世界樹に構わずぶっ放つ。
『お前がな、変態…超龍魔法・ギガドラゴンブレス』
ゴオォォォ!__
銀龍の口から銀色のブレスが放たれる。
周囲の自然など無視した破壊的一撃。
波動砲とブレスが衝突。
激しい轟音と共に爆風が発生。
世界樹が爆風に靡いて、枝が激しく揺れていた。
______
「…あれ、何やってんのかしらね」
「馬鹿なのか?」
「くくっ、面白い挨拶だねぇ」
「秋ちゃんと師匠は定期的に罵り合っていたらしいよ」
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激しいエネルギーのぶつかり合いが終わった後、カナンはパタリと倒れ込み、銀龍も人型へ姿が変わり、同じく倒れていた。
「…」
「…」
しばらくして、むくりと起き上がった二人は、無言で再び対峙する。
銀龍の人型。
溟海と同じくらいの年齢に、銀色の長髪。
引き締まった身体を持つ格好良いおじさんの姿。
そして、お互いにフッと笑う。
「…久しいな、秋」
「あぁ、久しぶりだな龍王。キメ顔をするのは良いんだけど、とりあえず服着てくれ」
「服なら着ている」
「花柄のブーメランパンツを服とは言わない。俺だけなら全裸でも良いけど、今回は一人じゃないからな」
カナンが睨み、龍王が渋々バスローブを羽織る
二人は世界樹の根元へと行き、テーブルと椅子を出して座った。
「おーい、みんなー。もう大丈夫だぞー」
アイ達がゆっくり近付いて来る。
また喧嘩が始まって巻き込まれるのが嫌なだけだが、サティがアイと紅羽を守る様に歩いていた。
カナンと龍王の元へと到着。
溟海は軽く挨拶をし、サティは龍王を蔑む様に見ている。
「やぁ龍王」
「溟海か、百年振りか」
「師匠、久しぶり」
「アイでーす」
「紅羽だ」
「……ほう」
龍王の視線は、アイと紅羽に固定されていた。
アイと紅羽は12歳程の少女の姿…
「お、お嬢ちゃん達…おじちゃんの娘にならないか?」
「てめぇ…死にたいようだな」
再び喧嘩が始まった。




