天異界。10
真っ白い少女が、腕を組みキリエを真っ直ぐ見詰めている。
殺されるか自害するか。
どちらも死ぬ事に変わりない。
破壊神はキリエの答えを待つ。
待つ間にも、破壊神の気が変わっていつ殺されるか解らない状況。
キリエの鼓動が速くなる。
どちらも答えは死。
「他に、選択肢は?」
『私が提示出来る問いは、この二つ以外に無い』
「そう…どちらも、出来ないかな」
シルヴィの魔王核をギュッと握る。
友が繋いでくれた命は、簡単に捨てる事は出来なかった。
『…ならば…殺すとしよう』
破壊神が、直ぐ下に落ちていた金色の杖を手に取る。
力を流すと、形状が変化。
一振りの剣となる。
小さな身体には不釣り合いな、身長程もある剣。
ドクドクと破壊神の力に呼応している。
「シルヴィ、闘おう。__邪気解放、混沌解放」
ズズズズズ__
地の底から這うように力が湧き出し、神格が上がっていく。
キリエが魔方陣を展開する。
どす黒い力を纏っている。
破壊神は、止める訳でも無く、それをただ見詰めていた。
「くっ…月よ…深淵の力を纏い…混沌へと堕ち…全てを蹂躙せよ…」
上空に巨大な月が出現。段々とどす黒く染まっていく。
「__死神の月!」
どす黒く染まった月から、ボタボタとどす黒い何かが落ちてくる。
触れた者に死を与える力の集合体。
破壊神を中心にして、死がバラ撒かれた。
『…四神クラスなら、一溜りも無いな』
破壊神は死の力に動じず、金色の剣を天に掲げる。
まばゆい光に当てられ、どす黒い力が逃げ出す様に弾かれる。
剣から金色のオーラが溢れ出した。
『だが、私には効かぬ。__滅殺…』
剣を横に凪ぎ払い、死の力を滅する。
更にどす黒い月の元へ瞬時に移動。
『__覇壊』
破壊神の身体が一瞬ブレ、
バキバキバキバキ!__
どす黒い死の月は破壊されていた。
キリエは呆気なく消えていく月を眺めながら、乾いた笑いを浮かべる。
神格の差はそこまで無い筈だと思っていた。
だが違う。明らかな差がある。
違うのは、技量、練度、経験、気迫、精神力。
「は、はは、強すぎ…」
『…年期が違うのだよ』
力は同等でも、暴走を抑えながら闘うキリエに対して、破壊神は完全に力を使いこなしている。
その差は力をどんなに増やしても埋まらない。
そう感じさせる安定した絶対的力。
「少しは、抵抗出来ると思ったのにな」
『解っていただろうに』
「でも、神聖属性なら…」
キリエが神聖属性の真っ白い魔方陣を展開。
破壊神を見据え、魔力を込めていく。
次第に、魔方陣が変形。
立体的な魔方陣に変化していった。
『神位魔法か…確かに神位魔法なら私に攻撃が通じる』
破壊神も魔方陣を展開。
キリエと同様に魔方陣が変形。
立体魔方陣に変化。
更に、魔方陣が神聖な白色に染まっていく。
「__っ!なんで…神聖…使えるの…」
神聖属性は、邪悪、混沌、破壊とは反対の力。
元聖女のキリエならまだしも、破壊神が持っているとは思わなかった。
『どんな属性も、努力すれば使える』
「…努力」
もし、破壊神がただ引きこもっていた訳ではなく、ひたすらに努力をしていたのなら、この闘いは勝てる見込みが無い。
それでも、キリエは負けたくなかった。
魔方陣に渾身の魔力を込めていく。
「力も…技も届かない…でも、私は退かない!__神位魔法!浄化の大聖堂!」
魔方陣が天高く舞い上がり、浄化の光が発生。
浄化の光が降り注ぐ。
破壊神は上を見上げ、魔法を発動させた。
『…光輝く星の希望』
視界が真っ白に染まる。
「…」
力に溢れ
何も見えない。
浄化の光が呑み込まれていくのだけは解った。
光の中で、近付いてくる破壊神。
「これは…勝てないや」
『…終わりだ』
破壊神が剣を向ける。
全力を尽くしても、届かない。
キリエが諦め、目を閉じて身体の力を抜いた。
「……」
攻撃が来ない。
不思議に思ったキリエが目を開けると、
『……』
剣を向ける破壊神の腕に、鎖が巻き付いていた。
「キリエさん…なーに死のうとしているんですか。駄目じゃないですか」
ペタペタペタペタ__
キリエと破壊神の元へ歩いてくる、毒酒を抱えたグリーダ。
その目には呆れが見える。
「グリー…ダ」
「あなたが生きる事を諦めたら、みんな怒りますよ?」
「キリエ…あなたは死んだら駄目」
「毒酒ちゃん…」
グリーダが毒酒を下ろし、キリエと破壊神の間に入る。
『……』
「……」
しばらく見詰め合うグリーダと破壊神。
破壊神は鎖を外そうとはせず、グリーダを真っ直ぐ見詰めていた。
振り返ったグリーダが、毒酒にガラス玉…魔法玉を渡す。
「毒酒ちゃん…お願いしても良いですか?」
「…分かった」
「え?」
毒酒がキリエに近付き、ヒョイッと抱える。
どういう事かとグリーダを見るが、いつもとは違う真剣な表情だった。
「グリーダ、どういう事…」
「キリエさん…私のマスターを呼んで来てもらっても、良いですかね?」
「グリーダの…」
「今…世界樹に居ます」
グリーダが視線を破壊神へと向ける。
破壊神は黙ったまま、事の行く末を見ていた。
「グリーダ、あなたでも倒せないの?」
「はい、私には殺せません。ですが、抑える事は出来ます。だから、早く行って下さい。マスターに魔法玉を渡すだけで良いですから」
「…わかったよ。早く戻って来るから…絶対死なないでね」
「大丈夫です。私は死にません」
グリーダが七色の魔方陣を床に刻む。
天異界と元の世界を繋ぐ魔方陣。
魔方陣が完成し、キリエを抱えた毒酒が魔方陣の中に入る。
バシュン__
二人は元の世界へと転移していった。
転移を確認したグリーダは、破壊神の鎖を解く。
解放された破壊神は腕を組み、グリーダを睨んだ。
『…私を殺す事など出来る筈だ。見え透いた嘘を…』
「…ええ。嘘です。あなたを殺したら裏の世界が大変になるじゃないですか」
『…』
「私じゃ、魂をどうこう出来ませんから。別に直ぐ殺さなくても大丈夫ですよね?」
ニッコリと笑い掛けるが、破壊神の表情は変わらない。
『だから、待てと?』
「ええ、待ちましょう。必ず来ますから」
『来なかったら?』
「…私が殺します」
真っ直ぐと破壊神を見詰めるグリーダ。
その目には偽りなど無かった。
『……ふんっ…好きにしろ』
「はい、ありがとうございます…」
これで、一段落つきました…
次回は主人公の話に戻ります。




