天異界。9
キリエと破壊神が白い階段を上がっていく。
『神を滅して、それからどうするのだ?』
「まぁ、倒してから考えるよ」
『…そうか』
神に人生を潰されたから潰す。
至極簡単な答え。
神を倒した後は考えていないと言うが…考えるまでもなく…その先は、神を殺した咎を背負うだけなのだか…
白い階段に終わりがやって来た。
広い円形のホール。
奥に階段は見当たらない。ここが終点の様だ。
天井は無い…真っ白い、空に似た何かが続いている。
最奥にはモニターが付いている何かの設備。
中央には、最後の四神と思われる人影があった。
警戒しながら、少しずつ近付いていく。
『来たか…』
「…やっぱり…私の魂を邪神と融合させたクソジジイか」
『左様。我は古神ラーフェリシタル…名乗るのは二回目か』
「天異界創設メンバーの一人…でしょ?散々自慢してきたから覚えているよ」
中央に立つ存在は、白髪の長い白髭の老人。
白いローブに金色の杖を持ち、鋭い眼光でキリエを見据えている。
古神ラーフェリシタル…この世界の天異界を纏める存在。
キリエの魂を抜き取り、邪神と融合させた。
そして二百年前、藤島秋の存在を知った古神はキリエを捨て駒にした。
『世界樹の聖女よ。これを成して何とする?』
「別に、世界をあるべき姿に戻すだけだよ」
『多くの者が困るぞ?』
「それ信者だけでしょ?」
女神教の事を言っているのだが、既に大教会はグリーダが壊滅させている。
総本山が無くなって混乱しているのが現状で、更に女神までいなくなったらどうなるのか予想は出来ない。女神がジジイだった事実は闇に葬られそうだが…
それだけでは無く、実際には様々な事が起こる…
『残念だ…お前が協力してくれたらこの世界も良い方向へ行くのにな…』
「ジジイの格上げに付き合わされる世界が?笑わせる…過去の栄光に縋っている老害は引退しな!」
キリエが両手を天に向け、魔力を放出していく。
「__星体観測!」
白と黒の煌めく星が周囲に展開された。
キリエは星に乗り、空高く飛び上がる。
『無駄な事を…英雄創製』
古神は金色の杖を振ると、剣、槍、斧、弓矢など様々な武器が出現。
それぞれの武器には、神気が宿っている。
「神武器…厄介だね。_流星群!」
煌めく星が流星となり、
古神目掛けて墜落していく。
『砕け』
古神が杖を振る。
武器達が動きだし、流星群を剣が斬り刻み、槍が貫き、鎚が粉砕していく。
その動きは、歴戦の英雄の様に洗練された動き。
その光景に圧倒される。
武器一つ一つに強さを感じる。
まるで、神を守る為に集結した物語の英雄達。
キリエは少し顔が引きつりながらも、巨大な月を出現させる。
「強いな…月よ、時を刻め…新月…繊月…三日月…」
月に神気を混ぜた魔力が溜まっていく。
空に存在する高エネルギー体。
「これならどう?__上弦の月!」
ゴゴゴゴ!__
白と黒に染まった月が墜ちる。
古神が目を細め、金色の杖を月に向け神気を解放していく。
『__やるな、神の矛』
神武器が古神の周囲に集結。
古神が杖を振る。
ドドドド!__
神武器が次々と月に衝突していく。
衝突でボコボコとクレーターを作り続け、
大きく削れる月。
「_くっ…流石!月よ!更に時を刻め!_十…十一…十二…十三!十四!十五!満月!」
ギュィィィ!__
月が再生。
白銀色に輝き、
背景に闇を纏う。
『む…まだ力が上がるか。__神英の矛』
古神の眉がピクリと動き、神気を上げていく。
杖に武器が合わさり一つの矛となる。
「私が神を裁く!__審判の月光!」
『神を裁ける者などいない。__英傑神槍!』
ゴオォォォォ!__
巨大な白銀の満月が古神に墜ち、
古神は金色の神槍で迎え撃つ。
ドオオォォ!__
ガリガリと神槍が月を削っていく。
魔力に差は無い。
あるとすれば、神気に差があった。
「くっ…やっぱり…強い…な…全力なのに…」
『ここまで力を付けた事を褒めてやろう。まだ我には届かない!__英傑神槍解放!』
ゴゴゴゴ!__
金色の神槍が神気を増大させ、肥大する。
回転しながら、月を削る速度が一気に上昇。
バキバキと音を立て、
白銀の満月を貫通。
そこで神槍が停止するが、
『くらえ!__英神槍破!』
神槍から放出された超攻撃的な波動がキリエを襲う。
「…くっ…なに…これ__あぁぁぁぁ!」
防御するが耐えきれず、波動が身体を蝕む。
全身が焼ける様な痛み。
空中からドサッとホールに落下した。
「ぁ…ぐぁ…」
『良くやったと言うべきか』
古神の腕が黒ずんでいる。
審判の月光の余波を受けていた。
再び攻撃が出来れば良いのだが…キリエは倒れ、追撃する余裕は無い。
「こん…なの…痛い…だけ…」
『無理をしても結果は変わらない。ここで終わりだ』
古神がキリエの元に到達。
神気が上昇。
再び波動を撃ち込もうと古神が杖を掲げる。
『英…』「キリエ!_ウィンドバースト!」
ボンッ!_
古神の前方の空間が破裂。
後方に飛び上がった。
キリエに追い付いたシルヴィが全力疾走。
手に持つダイヤモンド包丁で古神を斬りつける。
ギンッ!_
古神が杖で受け止めた。
『ふんっ、魔王か』
「やらせない!_風嵐裂波!」
包丁に風を纏わせ連続で斬り付け、空気を破裂させていく。
『邪魔だ』
古神は鬱陶しそうに杖を振り、神気の波動でシルヴィを吹き飛ばした。
「くっ…強い。キリエ!大丈夫!?」
「大丈夫…だよ」
「もう、ボロボロじゃない……」
シルヴィがキリエの元へ。
キリエを起こすが、身体に力が入らない様で、手がだらんと下がっている。
古神の圧倒的な力に、シルヴィが引きつった笑いを浮かべていた。
格が違いすぎる。
敗北の二文字が頭をよぎった。
『…二人になろうと結果は変わらない』
「…変わるわよ。二人なら、絶対に」
「…シルヴィ?」
シルヴィが笑い、キリエの手を握る。
過剰な魔力をキリエに流していた。
シルヴィが闘う分まで、無理矢理流し込む様に。
「駄目…だよ。そんなに魔力を流したら…シルヴィが…」
「私がなんだって?……みんなで勝つんでしょ?」
キリエの身体が急激に回復していく。
シルヴィの神気をも、キリエに流していた。
少しずつ、シルヴィの存在値が下がっていく。
「駄目…駄目だよ…シルヴィ…二人で闘えば」
「…これしか方法は無いのよ。解っているでしょ」
「…シルヴィまでいなくなったら…私…」
「居なくならない。一緒に闘うだけ…だからさ…」
シルヴィの身体が半透明になり、キリエの中に消えていく。
「私を…使って…ね」
シルヴィが消え、キリエの手には、緑色の魔王核が遺されていた。
キリエがシルヴィの核を握る。何処からか…泣かないで、前を見なさいと言われた気がした。
「馬鹿…」
『ふっ、始末する手間が省けたな』
「…友を犠牲にしないといけないなんて…情けない…私は…こんなにも弱いのか…」
『自分に絶望しながら消えるが良い』
古神が神気を解放していく。
ビリビリと空間が軋む中、キリエは天を見上げていた。
「弱い自分は捨てよう…巻き込みたくないから…怖くて…使えなかったなんて…本当に…腹が立つ…」
『__英傑神槍!』
周囲に発生した武器が杖に集結。
金色の槍となり、キリエに矛先を向ける。
「もう…迷わない。__邪気解放…混沌解放」
ズズズズズ!__
地の底から這い出る様な音を立て、キリエからどす黒いオーラが溢れて来る。
邪神の力…混沌神の力が混ざり合い、歪な力になっていく。
歪な力は、キリエの神格を急激に上げていった。
『…この…力は…混沌を吸収したのか!』
「ええ、神を殺す為に…神を喰らったの……ありがとうシルヴィ。あなたのお陰で、混沌の力を解放出来た…一緒に、闘おう」
『自分が…何をしたのか解っているのか…』
金色の神槍を向ける古神は、初めて表情を崩した。
過去の歴史で、邪神と混沌神の魂が融合した事は無い。
何が起こるか解らない、全くの未知な出来事。
だが、キリエは落ち着いている。
シルヴィの力が合わさり、暴走しそうな混沌の力が制御出来るまでになっていた。
「…深淵の瞳」
ビキィ!__
キリエが涙に濡れた金色の瞳を向ける。
『なん…だと…』
古神の身体が硬直。
深淵の瞳で身体の自由を奪えるのは、格下のみ。
「くっ…混沌に…堕ちろ」
キリエが神気を解放。
『ぐあぁぁぁぁ!』
古神が何か見えない物で貫かれ、天を仰ぐ。
そして、白目を剥いたまま、動かなくなった。
呆気ない程の、最期。
「ぐっ……はぁ、はぁ、はぁ」
キリエが力を自分の中に押し込む。
程なくして落ち着き、パタンと仰向けに倒れた。
「勝った…のかな…」
古神が沈黙したが、神に勝利した実感が湧かない。
「シルヴィ…絶望ちゃん…」
神に勝利した喜びよりも、友を失った悲しみの方が、遥かに上だった。
「……毒酒ちゃんが上がって来るのを待つか…な…」
何かを忘れている気がする。
仰向けになり、空を見上げながら考える。
……ここまで、一緒に来た存在が居た。
『礼を言おう。キリエ』
「…なん…の」
ハッとして身体を起こす。
目に付いたのは、古神の元に居た破壊神の姿。
用事があると言って付いて来ていたが、何をするのか。
『私は、こいつに力を取られていたんだよ。フュージョン』
古神に手を添え、融合の魔法を唱える破壊神。
瞬く間に、古神は破壊神に吸収された。
ゴゴゴゴ!__
破壊神から、凄まじい力が溢れだして来る。
古神を吸収する事で、最高位神種…破壊神に力が戻っていった。
『やっと力が戻った…』
「…嘘」
『…やはり、姿は戻らないか』
古神とは比べ物にならない力。
邪神と混沌神の力を解放しても、勝てるかどうか。
「これが…破壊神の力…」
『さて、私は邪悪と混沌の魂を回収しなければならない』
「……」
『先程の礼だ。殺されるか、自害するか、選ばせてやろう』




