天異界。6
天異界、上層。
コレクターは、毒の世界に苦戦を強いられていた。
打撃や斬撃、魔法攻撃とは違う、毒で蝕む攻撃。
効く筈の無い毒が自分に効いている。
即死する事は無いが、超再生が無ければ何回死んでいたか解らない。
未体験の痛み、苦しみ。
何度解毒しても、新しい毒に蝕まれる。
何度再生しても腐る身体。
何度攻撃しても、毒酒に効果がない。
『何故だ!何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ!__ぐぽっ!』
「……」
『ぐっ……何故攻撃が効かない!何故毒に侵される!何故!こんなにも強い!』
「…それは…あなたが弱いから。__禁毒作製・悪魔の劇薬」
紫色の波がコレクターを襲う。
躱しきれず波を受けると触れた部分から紫色に変色していく。
激痛に声にならない叫びを上げる。
『___はぁ…はぁ…ここまで強く…なっているなど…聞いていない…ぞ…お前はずっと眠りについていた筈だ…』
「そう、寝ていた。これは…友達と一緒に作り上げた力」
禁毒作製……これは禁薬作製を持つグリーダが、毒酒の為に心を込めて作り上げた能力。
毒と薬…グリーダは自分と似た能力なのに気付き…毒酒の毒とグリーダの禁薬を、色々混ぜては毒酒に飲ませを繰り返し、毒酒を魔改造していた。
禁毒にまともな毒は無い。解毒はグリーダしか出来ない。
グリーダのひいき…いや、友情が生んだ凶悪スキル。
『ふっ…でも…僕には不老不死の能力がある。絶対に君は勝てないよ!』
「なら…その能力を後悔すれば良い__禁毒作製・無限の痛み」
ポツポツと黒い雨が降る。
コレクターの魔力防御を貫通。
黒い雨が当たる度に、コレクターが叫び出す。
触れるだけで痛みに特化した毒が蝕んでいく。
一滴で精神がおかしくなる程の激痛。
『_あぁぁぁぁ!痛い痛い痛い痛い!』
「_禁毒作製・蠱毒の壺」
毒酒の力は、独りじゃなければ使えない。
ならば、それに特化すれば…独りなら敵は居ない。
紫色の毒が、壺の形となってコレクターを閉じ込める。
痛みに叫びながら、段々と声が小さくなっていく。
「……不老不死なら、死なないのか…どうしよう…」
閉じ込めたは良いが、力をほとんど使ってしまっている。
時間が経てば、コレクターは壺から出て来る筈。
「……ん?」
カシャンカシャンカシャン__
何かがやって来る。
追っ手だろうか。
「うぉっ…あごっ…おえっ…」
四足歩行のゴーレムが階段からやって来た。
そして、ゴーレムが毒の世界に足を踏み入れる。
ジュッ__ゴーレムの足が溶け、バランスを崩し、上に乗っていた何かが毒の世界にポチャンと沈んだ。
「……」
沈んだ何かは、プカーッと浮き上がって来た。
黒い服に黒い帽子に裸足、見た事がある服装。
毒酒が何かの元へ行き、ヒョイッと摘み上げる。
「…グリーダちゃん?」
「…」
「グリーダちゃん…こんなにボロボロになって…私達の為に来てくれたんだね…嬉しい」
ボロボロというよりは、毒とゲロでドロドロになって白目を剥いているだけなのだが…
毒酒はドロドロのグリーダを抱き締める。
「__はっ!ここ…は…毒酒ちゃん?」
「グリーダちゃん…会いたかった」
「良かった…無事だったんですね。もう、神は倒したんですか?」
「それが……」
現在壺の中に居るコレクターを指差しながら、不老不死の説明をしていく。
「そうですか。じゃあ一緒に倒しましょう。…その前に、この黒い雨は解いて貰えますか? さっきから凄い痛いんですよ」
「あっ、ごめんね」
毒酒が毒の世界を解除する。
残るは紫色の壺だけになり、毒酒とグリーダが壺の前に立つ。
「じゃあコレクターって奴の能力を全部消すんで、毒酒ちゃんはドピュッと毒を当てて下さい」
「うん…解除」
蠱毒の壺が溶ける様に消えていく。
壺が消えると、倒れているコレクターの姿。
「あれ?こいつは…まぁ良いか。スキルブレイク」
パリンッ!ガラスが壊れる音が響く。
その後、毒酒が毒を当てた。
『__ぐあぁぁぁ!』
「うーん…この少年、やっぱり似ていますねぇ…」
「知っているの?」
「オリジナルの記憶の中…古代文明の時代に、こんな少年が居た記憶がありますねぇ」
「…でも、あの戦いを知っていたよ?」
「中層にデータバンクがあるんで、それを見たのかも知れません。まぁ…死んでしまっては解りませんが」
コレクターの沈黙を確認。
「グリーダちゃん…ありがとう」
「良いんですよ。友達じゃないですか」
イエーイとハイタッチ。
「さて、ちょっと着替えて良いですか?」
「うん」
ドロドロの服と下着を脱ぎ捨て、新しい下着と黒いローブを取り出して着替える。
毒酒はその様子を見ていたが、力が抜ける様にフラフラと座り込んだ。
「毒酒ちゃん…大丈夫ですか?」
「うん…頑張り過ぎた。後で行くから…先に行って良いよ」
「駄目ですよ。一緒に行きましょう。…じゃあ、私が抱っこしますね!」
毒酒をお姫様抱っこしながら、グリーダはペタペタと階段を上る。
「グリーダちゃん、優しいね」
「毒酒ちゃんの方が優しいじゃないですか。
神話の戦いも、みんなを巻き込みたくなかったから、たった1人で戦っていたんですよね?
データで見ちゃいましたよー!」
「…恥ずかしい」
階段を上る速度は、お喋りしているので普通に遅い。
「…ふむ」
「…どうしたの?」
「…毒酒ちゃん」
「ん?」
「…チューして良いですか?」
「…うん…良いよ」
立ち止まるな。早く行け。




