天異界。5
天異界、最下層。
「……」
………
「__はっ!」
バッと起き上がるグリーダ。
「現実逃避しちゃいましたね。さて、どうしましょう」
階段を上がりたくない。さっさと行けよと思われそうだが、そこは譲らない。
とりあえず、魔方陣を展開。
「むー…召喚魔法・移動ガーディアン」
魔方陣から四足歩行のゴーレムが現れ、その上に乗り込む。
カシャンカシャンとゴーレムが動き出した。
「おー、速い速い!最初からこうしてれば良かったで…うっ…あっ…うぷっ…」
ゴーレムの高速移動で良い感じに揺れる。
「オロロロロロ……」
一人で良かったと思う…ゲローダちゃんと言われそうな状況。
「……まずは…中層の…管理室…」
______
天異界、上層。
毒酒が環境魔法・毒の世界を発動。
円形の踊場が毒で埋め尽くされ、膝の高さまで到達。
毒酒が制御しているので下に降りる階段には、流れていかない。
コレクターはニヤニヤしながら宙に浮き、青白い剣を取り出していた。
『これは、厳しいねー』
「この場に居る限り…逃れられない」
『でも残念。僕の能力には、超再生があるからね』
「ならそれを…超えれば良い…__毒龍」
毒が螺旋を描きながら形を成していく。
大きな口を開ける龍の姿に変化。
ボタボタと口から毒が垂らしながら轟く咆哮。
回転しながらコレクターに向かっていく。
『_転移』
噛み砕かれる寸前でコレクターが消える。
毒酒の後ろに転移。
剣を振り下ろし、毒酒を斬り裂く。
毒酒は斬り裂かれるが、構わず振り返り毒竜を操作。
コレクターを呑み込むが、寸前で転移したコレクターが毒の上に立った。
コレクターのマントが毒に浸食され、ボロボロになっている。
「……」
『…驚いた。強いね』
「…私は強くない…逃げたから」
『そうだね、君は逃げた。でも君があの戦いに最後まで参加していたら、僕らは負けていたかもね』
思い出す様にウンウンと頷くコレクター。
神話の戦いで、毒酒は戦う事を辞めた。
ほとんどの者は、毒の身体に近付けなく、戦いが起きる前も独りだった。
独りの毒酒にとって、戦いに勝っても負けても変わらないと思うのは当然。
一度だけ、頼まれて戦ったが…結果は圧勝。
だが、毒酒を褒める者はほとんど居らず、毒酒から逃げ出す者ばかり。
何の為に闘っているか解らなかった。
だから、自分の好きな惰眠を貪る事に決める。
「戦いなんて…どうでも良かった」
『ふーん。じゃあなんで今は戦っているんだい?』
「…言う義理は無い。毒龍…致死」
毒龍からガスが噴出。
致死性の毒が円形の踊場全体に行き渡る。
コレクターはマントを脱ぎ捨て、能力を解放していく。
身体には、無数の宝石が埋め込まれていた。
宝石一つ一つに力を感じる。
『効かないよ。僕は沢山の特殊能力をコレクションしている』
「…だから?」
『死角は無いって事さ!絶対防御!』
「…馬鹿なの?」
『__ぐぼっ…』
コレクターが吐血。
身体に毒が入り込んでいた。
突然の事に、コレクター顔が歪み出す。
プライドを汚された怒り、屈辱がみえる。
『…な…に…』
「…私は毒を支配している存在」
『毒は…僕に…効かない…筈だ…』
「…まだ解らない?…この世に存在するほとんどの物質は…毒性がある」
毒酒は、世界を支配出来る力を持っている。
世界中の毒性を高める力。
だが、そんな事はしなかった。
してもしなくても、独りだったから。
今は違う。独りじゃない。
『……ふふっ、どうやら…本気を出さなきゃいけないみたいだね』
「…みんな…頑張るからね」
______
天異界、中層。
少し汚い移動ガーディアンに乗ったグリーダは、階段の途中にある扉に入る。
ガチャ__
「自動ドアじゃないとか、幻滅ですよ…ん?」
中に入ると、広い空間に中層の神種達が目に入る。
武装して、待ち構えていた様だ。
数は五十を超える。
単体でも王種を超える強さ。
普通なら、入りたくない場所だが、グリーダはここに用事があった。
「ちょっと皆さん邪魔なんで…」
グリーダが七色の魔方陣を展開。
神種達が一気に警戒していく。
「…格下即死魔法」
神種達が次々と倒れていく。
一々闘うなんて面倒なので、格下を即死させる魔法を使う。
神種が倒れた事を確認。
ペタペタと歩き、奥にある設備に到着した。
「ほほー、これこれ!……流石神様。古代文明に知識を授けたのは本当だったみたいですねぇ……全部貰っちゃいましょう!」
設備には、様々なデータが入っているので、データごと貰う。歴史や魔法など……
中でも、一番欲しかった情報があった。
「あー……まじですか。困りましたね。駄目ですよマスター…」
はぁー…と一息。
必要な情報は得られたので、ペタペタ歩きながら階段まで戻る。
そこからまた、移動ガーディアンに乗り込み上を目指した。
「……」
階段が途切れ、大きな円形の踊場に到着。
激しい戦闘跡があり、中央に倒れている人影。
グリーダが近付き、ツンツンしてみる。
倒れているものは動かなかった。
「んー…天使さんですかね?頭が黒くなってクパァしているんで…顔は解りませんが…女子ですね」
白の大天使ライフの亡骸が残されていた。
ライフのおっぱいを揉んで女子だと確認する。
「……融合したら、天使なグリーダちゃんになりますかね。それか…マスターのお土産にしても良さそうです!」
少しニヤニヤしながら、大天使ライフの亡骸を収納。
そこで、黒い霞が漂っているのを発見した。
「ふむ……闘ったのは、絶望ちゃんですか。もう上に行ったんですかね?」
黒い霞を掬い上げてみる。
ゆらゆらと動く実体の無い霞。
魔力を流すと、黒い縄の欠片に変化した。
「おっ? 絶望ちゃんが使っていた黒縄かな? ……黒い縄とか…ちょっと興奮しますね」
ニヤニヤしながら、黒い霞を集めて魔力を通し、黒い縄に変えていく。
やがて、グリーダ一人分縛れるくらいの黒縄が完成。
後でゆっくり自分を縛ろうと思い、収納しておく。
「ふふふー。絶望ちゃんの縄で私を縛る背徳感……良いですねぇ…」
グリーダはご機嫌な表情で、移動ガーディアンに乗り込み上を目指す。




