天異界。2
白い階段を駆け上がっていく。
幅は四人が手を広げて並んでも余裕がある。
どれだけの高さを上っているのかが解らないくらい、同じ景色。
時間の感覚が崩れていく。
何か力場があるのか、空を飛んで行く事は出来なかった。
ひたすらに、階段を上がる。
「ずっと階段ね」
「まだ、ここは下層か中層だと思う。何も来る様子は無いから」
「…プライドが高い奴らは上層から降りては来ないだろうな」
「キリエは…天異界のどこに居たの?」
「確か…上層にある特殊な場所で、この世界とは違う場所を見ていたんだ」
邪悪の神として、破壊の神、混沌の神と共に裏の世界を見ていた。
見る必要も無い世界。
邪悪に染まり、混沌に支配され、日々破壊が繰り返される世界。
強さこそが全て。
弱い者は虐げられ、強い者が笑う。
人間は住めない世界。
四神が表の世界…先程まで居た世界を管理。
破壊、混沌、邪悪の神が裏の世界を管理という構図。
「じゃあ今そこには、破壊の神しか居ないのか?」
「恐らく…後任になりそうな奴が居なかったらだけど」
破壊の神、混沌の神、邪悪の神の三姉妹。
邪悪の神は秋に倒され、魂をさまよわせていた。現在はキリエの身体に戻っている。
混沌の神は秋と龍王に倒され、魂を絶望が持っていた。現在はキリエが魂を吸収している。
二柱が存在しない現在、破壊の神が一柱で裏の世界を見ているという事になる。
「…破壊の神も倒さなきゃいけない?」
「…倒さなくても良いと思うんだけど…実は…破壊の神は、会った事が無いんだ」
「そうなの?一番悪い事してそうだけど」
「ずっと部屋に籠っていた」
「引きこもりか」
「今は一人だから、仕方無く見ていそうね」
途中、何個も横に行ける扉があるが、構わず上へ。
何時間も、何十時間も、何日も、何十日にも感じる時間。
「みんな、神気の壁ってね。絶対防御に見えるけど、実は結構欠点があるんだ」
「へぇー、あれには苦戦したぞ」
「私の毒は…効いたよ」
やがて、空気が変わり始める。
階段が途切れ、大きな円形の踊場の様になっている。
遥か遠くに上へと上がる階段が見えた。
「お出迎え、かな」
中心には、人影が見える。
『…』
「…キリエ、シルヴィ、毒酒…先に行け。我が相手をする」
「絶望ちゃん…」
「奴には因縁があってな」
中心に立つ存在は、真っ直ぐと絶望を見据えている。
他の三人には、全く興味は無さそうだ。
「…分かった」
「先に行ってるからね」
「絶望…また会おう」
キリエ、シルヴィ、毒酒が回り込む様に奥にある階段へ向かって行った。
『……』
「久しぶりだな」
『絶望…』
中心に立つ人型。
真っ白い髪。
純白のローブ。
背中に生える一対の白い翼。
美しい造形の顔…眉間から頬にかけて、真っ黒い傷痕が走っている。
「まだ傷は治っていないのか? 白の大天使ライフよ」
『…ああ、貴様を殺せば治る』
小馬鹿にする表情で、白の大天使ライフに笑い掛ける。
神話の時代、絶望につけられた顔の傷を指差しながら。
「くくっ…あの時の決着を付けようか。邪魔はもう入らない」
『…ああ。決着を付けよう』




