行ってきます!
『あっ、がっ、あぁぁ!』
苦しみながらも、力を増大させていく御堂聖弥。
ビキビキと筋肉がちぎれ、再生し、ちぎれ、再生。
身体が変質していく。
異変に気付いた茜は、オードの元へと駆け付ける。
「オード君、アレどう…なっちゃったの?」
「魔王の力を解放した。もう人から離れたよ」
「じゃあ、アレはただの魔物だね」
人の理から外れ、変質していく身体と魔力。
邪気が溢れ、御堂聖弥の半身が半透明に変化。
デュラントムと同じ身体になっていくが、半透明の半身は光の魔力を含み白く光っている。
聖女が魔王化すれば、神に仇なす咎人となり。
勇者が魔王化すれば…
『はぁ、はぁ、この、力は…ははっ…凄い!凄いぞぉ!はっはっはっはー!』
「なんだ? あの力は…」
「変…だね。そこまで強くは無いんだけど…」
異質な力を感じる。
カナンなら解る様な物だが、今ここには居ない。
実際はカナンでも勇者が魔王化するなんて事例が無いから解らないが…
______
物陰から観戦していた二人組。
グリーダと月読も、異質な力を感じていた。
「グリーダちゃん。アレは何?」
「…私みたいに、聖女が魔王化した存在は神に仇なす存在…『咎人』だよね。
アレは、勇者が魔王化した存在は…世界に仇なす存在…『凶人』」
「凶人…世界ってこの星?」
「そうだよ。この星には凄く硬い核があるんだけど、それを壊せる力を持っている。
まぁ、私達が居るんでそれは叶わないだろうけどねー。
この勇者召喚…女神の目的は、世界樹の破壊かな」
魔の森に存在している世界樹。
これは、星の核と繋がっている。
だから星の核を壊せる者以外に世界樹は壊せない。
凶人を作り出し、世界樹を破壊する事で、この世界と天異界を繋いでいるバリアを消すのが目的だと推測。
バリアを消せば、女神は簡単に天異界から顕現出来るから。
勇者が多かったのは、保険の意味合いなのか、仲間を吸収する事を見越していたのかは解らないが…巻き込まれた勇者達は堪ったものでは無い。
「そろそろ助ける? お兄ちゃん殺されるよ?」
「えっ? 助けるの? 一回殺された方が愛が深まると思わない?」
「アホなの? 誰が生き返らせるの? 私達は出来ないんだよ」
「……えっ…蘇生魔法は使えるよ?」
「人に使っても効果は無いよ。私達は、造られた存在だから」
「……そうだったね」
グリーダと月読はダンジョンによって造られた…命はあって、無い様な存在。
そんな存在が蘇生魔法を使っても、命を引き寄せ、留める事は出来ずに終わる。
「お兄ちゃんには悪いけど、仕留めようか」
「そうだね。修行したのに見せ場無しで終わるとか、どこかの忍者勇者みたいな状況だけど…」
御堂聖弥が高笑いしている間に、二人は動き出した。
______
『俺は強い俺は強い俺は強い俺は強い!殺す殺す殺す殺す殺す!ひゃっはっはっはっー!』
「オード君、アレ…怖い」
「もう、自我も壊れて来た…まだ力が上がっていくぞ」
そこまで強いと感じていなかったが、勇者の力と魔王の力が重なり混ざり合っていくと、どんどん力が上がっていった。
オードの力を超える程の力を感じる。
二人で闘わないといけないくらいに…
「オード君…どうしよう」
「強い…な。 _ん?あれは…月読さんと…誰だ?」
オードと茜が緊張する中、トコトコと歩く月読の姿。
その隣には、ペタペタと歩く女性の姿があった。
二人は御堂聖弥を眺めながら、オードと茜の近くに来た。
「お兄ちゃん、茜、後は私達がやる」
「はいどうもー、リア充さん。グリーダちゃんと申します。こういう場合はどちらかが死んでフラグを回収するものですが、私がそれをさせませんよー。感謝して下さいねー。二人の恩人ですよー。お礼なんていらないですからねー。ほんとに…お礼なんていらないですからねぇぇ!」
「「……」」
「この子はグリーダちゃん。お友達になって欲しいって言ってるだけだから気にしないで」
突然現れた二人に、御堂聖弥が目を細めるがそんな物は関係ないとばかりに力に溺れ、オードだけを睨み付けていた。
「さっさと終わらせましょうかねー。早く天異界に行きたんで。…封印禁術・改!」
純白の魔方陣が現れ、中から白い鎖が飛び出て来る。
御堂聖弥は抵抗出来ずに鎖に捕らえられ、表情が驚愕に染まる。
放せ放せと叫ぶが、グリーダの封印禁術の前には無力。
「流石は邪神を吸収しただけあるね」
「ふふふー!もっと褒めて!そしてグリーダちゃんは可愛くて強いって広めて!」
「アホが浸透しているから手遅れだよ。そういえば…天異界には、キリエ達を助けに行くの?」
「それも無くは無いけど…一番の目的は、完全体になる事だよ。その為には天異界に行かないと」
グリーダは、まだ未完成の存在。
どうやって完全体になるのかは、グリーダにしか解らない。だがキリエ達が天異界を壊してしまうと、完全体への道が遠くなる。
「そっか。グリーダちゃん…気を付けてね」
「願い星ちゃんもね。解っていると思うけど…ここから離れた場所で死んだら駄目だよ」
「…解ってる」
白い鎖に雁字搦めになりながら叫んでいる御堂聖弥に、ペタペタと近付き頭を鷲掴みにする。
そして、グリーダを中心に七色の立体魔方陣が出現。御堂聖弥と共に魔方陣内に入ったグリーダは、月読、オード、茜に手を振る。
「ではでは、行ってきますね!」
軽い口調で笑うグリーダ。
立体魔方陣が空に向かって上昇。
バシュッ__消えて行った。
「…」
「あの、月読さん…どう、なったんですか?」
「アレはグリーダちゃんが消したから安心して」
「あの人は、天異界へ行くって言っていたけど…」
「今、天異界に殴り込みに行っている友達の所に行ったの。
とりあえず、お兄ちゃんと茜は王国に帰る?送っていこうか?」
魔の森に行くには、ファー王国から東に行った方が早い。
だがオードと茜は断り、ゆっくり帰るという。
少し今の状況説明をした月読は、オードと茜に別れを告げる。
飛び立って高速で魔の森に居るカナンの元へと向かった。
天異界へ向かった親友が、アホな事をしない様にと願いながら。
ファー王国にて。
「…棚橋」
「どうした音市?」
「私達はもう…闘う出番が無いらしいよ」
「そうなのか。平和が一番じゃね?」
「棚橋の見せ場…ほぼゼロだったね…ぷくくっ」
「…いや…ほんとにさ…それ気にしてるんだから…傷口をえぐろうとしないで」
「ひどい…教えてあげるっていう優しさなのに……あっこの前、浮気現場写真…ニーゼック公爵家に送っておいたよ」
「鬼だな!」




