これで私も、復讐者。
残酷シーンありですけど…まぁ、言わなくても今更ですねー。
絵里香と歩実の絶叫をBGMに、御堂聖弥がオードを睨み付ける。
どす黒い感情を纏った瞳。憎悪、憎悪、憎悪。負の感情が溢れてくる。
茜しか目に入っていなかった聖弥…オードの存在を知ってしまった。
「何故、お前は茜の隣に居る。何故、そんなに近くに居る。その手を離せ。その場所は、ずっと俺の物だった。お前か。お前のせいか。お前が茜をそそのかしたのか。お前が。お前が。俺の茜を…」
「…何を言っているの? 私の恋人に妄想をぶつけないでよ」
「は? 恋人? こんな奴が? 俺は真の勇者だぞ? 俺の方が何倍も何十倍も良い男に決まっている! 茜! 目を覚ませ! この男に騙されている!」
怒りの形相でわめく聖弥を、オードは黙って見詰めている。
御堂聖弥は茜を長年苦しめた元凶。傷付けた元凶。
ただ殺すだけで良いのだろうかと思ってしまう。
「…茜さん。こいつは、俺に任せて貰って良いかな?」
「…一緒じゃ、駄目なの?」
「これ以上、茜さんの近くに存在しているのが許せないんだ。お願い」
「…埋め合わせはしてよね」
「もちろん」
オードが聖弥の胸ぐらを掴み、広い場所へと投げる。
聖弥が転がり、立ち上がると足が動く。その足で、茜の元に行こうとするがオードが目の前に立ち塞がった。
「そこをどけ!」
「俺を倒せたらな」
「お前なんか!直ぐに殺してやる!」
「やれるものならな」
聖弥が剣を構え、光魔装の準備に入る。
オードは黙って、精霊樹の木刀を持ち光魔装が完成するのを待つ。
「その余裕、後悔する事になるぞ!」
「ああ、そう思うなら早く魔装してくれ……まだ?」
______
オードと聖弥が対峙している光景を眺め、茜は自分のやる事に集中する。
現在痛みに叫んでいる絵里香と歩実。
指先から少しずつグラビティストライクが侵食している。ボキボキと骨を砕きながら、現在手を越えて、肘に行こうとしていた。
「やめてやめてやめてやめて!痛い痛い痛い痛い!」
「私も同じ事言ったんだよ。覚えてる?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「どうして謝るの? もう遅いのに」
これから来る未来は変わらない。待っているのは死。
拷問を受けている二人を見る残された勇者達は、恐怖に震えていた。
どうして、同郷の者に殺されなければならない。突然やって来た死の恐怖に、泣き崩れる者、謝り続ける者、怒り狂う者が茜に生きたいと懇願する。
「そんな事言われてもね。大丈夫だよ、みんなは苦しまない様に殺すから」
ニッコリと笑う茜に、自分達はもう助からないんだ…と諦めの心が芽生え始める。
教会の騎士団が来てくれる事を願っている勇者には悪いが、ここには来ない。
物陰に隠れている二人組が、既に仕留めていた。
茜が黒い魔方陣を展開。
勇者達の足元まで届く大きさの魔方陣に、恐怖が再燃する。
「あなた達に恨みは無いけど、あなた達のせいで悲しみを背負った人、何かを奪われた人が居るのは事実。私は代弁するだけだから……デスペリア・グラビトン」
ズンッ!__
勇者達が超位重力魔法に潰される。絵里香、歩実を残し、勇者達は命を散らした。
茜はため息を付いた後、苦しんでいる絵里香と歩実の前にしゃがむ。
「ねえ、覚えてる? あなた達が私に言った言葉…」
ガクガクと震え、今にも精神が壊れてしまいそうな二人に笑顔を向ける。
「一生幸せを奪ってやるから、感謝しなさいこのクズ。って言ったよね?」
フルフルと首を振り、謝り続ける二人に構わず、黒い魔方陣を展開。
「この時を、ずっと待っていた気がする。私が、直々に命を奪ってやるから、感謝してね。クズ。…シュバルツシルト・ブラックホール」
ドォゥン!__
人の大きさ程の、真っ黒い球体が勇者達の真上に出現。
次々と勇者の死体を呑み込んでいく。
茜は両手を球体に向け、全力で制御しながら、ゆっくりと地面に下ろす。
そして、生きたまま絵里香と歩実がブラックホールに呑まれて行く。その顔は、絶望に染まっていた。
勇者達を呑み込んだブラックホールが消えて行く。
「……ふぅ」
後に残る物は何も無く、人を殺したという空虚な感覚に襲われるが、やりきった感情の方が強かった。
「拷問してブラックホールに放り込むとか…人の事言えないよねぇ」
これで復讐者の仲間入りかぁ…と激しい音が響く場所に目をやる。
オードが聖弥と戦っている。
「私は、自分の為に戦って…オード君は、私の為に戦っている……埋め合わせをするのは私の方か…」
______
「はぁ、はぁ、何なんだ、お前は」
「…もう終わり?」
白い光の魔装を纏う聖弥と、蒼い炎の魔装を纏うオードが対峙している。
仲間を吸収し、レベルが跳ね上がった筈なのに、目の前に立つ蒼い騎士には全く攻撃が通じない。
明らかに手加減されている。
悔しい。悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい。
憎い。憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い。
『くくくっ、楽しそうだな。勇者よ』
「__っ!その声はデュラントム!」
「ん?なんだ?」
『勇者よ。力が、欲しいのだろう?こいつを殺す力を!』
「ああ…力が欲しい…こいつを殺す力を!」
『くくくっ、合言葉は…魔王化だ』
「…解った。絶対に、お前を殺す! __魔王化!」
御堂聖弥の力が増大していく。




