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復讐なんて…

 粉々に砕けた広場。対峙する茜、オード二人と勇者達。


 誰だ?と困惑している勇者達は中学一年で行方不明になった星茜(ほしあかね)の事は知らない様子。


 対して、硬直していた勇者達は、まるで幽霊を見た様な表情で驚いている。

 約三年前に失踪し、未だに捜索されている、行方不明の女の子。

 三年で成長した顔つきだが、一度見たら中々忘れられない可愛さは変わらない。


「あか…ね…あかねあかねあかねあかね!」

 ずっと探していた…考えない日は無かった…どれだけ泣いたか解らない…

 御堂聖弥は茜に向かって走り出そうと、一歩踏み出そうとしたが、足が上がらない。

「なん、だ!なんだなんだ!茜が目の前にいるのに!」


 わめく聖弥を冷えた視線で見る茜は、

「変わらないね、昔のまま」

 思い出す様に呟くが、懐かしむ感情は無い。



「勇者のみんな、私は星茜。数年前に、この世界に来た日本人。あなた達に、選択して欲しい」


 聖弥を無視して、茜が勇者達に問う。聖弥だけでは無く、他の者も動けず今の状況が理解できない。


「私は今から、御堂聖弥を殺す。理由は…御堂聖弥が邪道に堕ち、魔王と化したから。

 …反対する人、邪魔する人は容赦しない。戦う意志の無い人は手を挙げて。関係無い人は何もしない」


 邪魔をするなら容赦はしない。

 しかし、これは優しさでもある。

 茜の他の者…カナン、アイ、紅羽、サティ、月読が対応したら全員殺されるから。



「なっ!殺す!?」「どういう事!?」「魔王!?」


 混乱するのは当然の事。魔王を倒す真の勇者と呼ばれる者が、魔王と呼ばれ殺すと宣言されている。

 混乱する者の中で、敵意を剥き出しにする者は当然いる。


「茜!お前どういう事よ!」「いきなり出てきて聖弥君を殺す!?ふざけんなよ!」


 鈴木絵里香と田中歩美。

 まぁ予想通りの反応。


「…グラビティプレス」


 ズンッ!_

 重力で絵里香と歩美を押し潰す。

「あ…ぎゃ…」「ぐ…あ…」

 立ち上がる事が出来ず、土下座の様な体制。


「茜…何を…」

「私は本気。因みにこの二人は…あれ?千恵は?ドラゴンにやられた?まぁ良いか」


 淡々と告げる茜。まだ、誰も手を挙げない。この状況に付いていけない者がほとんど。

 聖弥は茫然とこの光景を見ている。


 その中で、一人手を挙げる者が居た。



「俺は、戦う意志は無い」


「義隆君、意外だね。聖弥と親友だったのに」

「…もうあいつは……茜、殺す以外に道は無いのか?」


「無い。魔王と融合したまでなら切り離せた。

 だけど、ダンジョンでドラゴンにやられた勇者達を吸収してしまったから、もう手遅れ」


「そう…か…くそ…」


 聖弥の親友、森田義隆が手を挙げた。邪道に堕ちた親友を見てしまっていた。誰にも相談出来ずに悩んでいた。

 泣きながら空を見上げ、聖弥を見て目を閉じた後…後ろに振り返り歩き出す。


「あ、あの星さん…私も、戦わない。義隆が戦わないから…っていう理由じゃ駄目…かな」


 美空葵が懇願する表情で茜を見る。駄目という理由は無いので、茜が腕を振ると、美空葵の拘束が解けた。

 美空葵が振り返り、森田義隆の元へ走り出す。

 二人は並んで居住区の方へ歩いていった。



「もう居ないって事で良いね」


「まっ、待ってくれ!俺も戦いたくない!」

「貴方、名前は?」

「…須藤良太」

「貴方は駄目」

「なんでだ!」


「理由は自分の胸に聞いてみて」


 勇者の一人が戦いたく無いと懇願するが、断る。理由は勇者リストにバツ印が書いてあるから。

 オードがカナンから受け取っていた勇者リスト。そこには勇者達の名前にバツ印が書いてあり、半分ほど印されている。

 どんな理由で印されているかはなんとなくしか解らないが、これを基準に判断していく。


「名前を聞いていくね」


 居住区へ向かっていった勇者達は7名。残り10名はバツ印が書かれていたので残っている。



「この三人以外、みんなとは初対面だけど、何かをしたって事だね」


 居住区へ行った者の数名、聖弥、絵里香、歩美以外は初対面。だが、その初対面勇者も茜に向ける視線は何故こんな事をするのかという怒りに染まり、相当な文句を言っている。


 それを無視する茜は、


「さて、絵里香、歩美…どっちからが良い?」


 何がとは言わない。何も言わないので…いや、重力で抑えられているので言えないのだが、茜には関係無い。



「絵里香、歩美、千恵…この三人には、私にした事をやり返さなきゃと思っていたんだけど…聖弥が千恵を吸収したみたいだから残念だな」


「あかね?どういう…事だ?」


「解ってるくせに。三人が私を虐めていたの知ってるでしょ?」


「なん…だって?」


「言ったじゃん。聖弥が話し掛けて来るせいで、三人が私を虐めるから、もう二度と話し掛けないでって」


 それを聞いた聖弥の無駄な正義感により、三人が茜への虐めを悪化させたのは想像に難しくは無い。



「だ、だって仲良しだって…」


「ふふっ、仲良し?…本当におめでたいね。私ね、この世界に来る前に解ったんだ。御堂聖弥が虐めの主犯なんだって。

 気付いた時にはもう目の前の景色が変わっていた…もっと早く気付いていれば良かった」


「違う…違う違う違う」


「聖弥が話し掛けて来るから、小さい時からずっと嫌がらせを受けて来た。

 もう話し掛けて来ないでって言っても、私に嫌がらせをする女と一緒に話し掛けて来た。本当に…あなたの事が嫌いだったよ」


「……嘘、だよな?嫌いだなんて」


「楽しかった?私が虐められているのを見て。私の爪が潰されても、潰した女と一緒に話し掛けて来たよね?」


 ブォン_


 混乱している聖弥を無視して、茜は黒い魔方陣を展開する。その心を表す様な真っ黒い魔方陣。



「復讐なんて馬鹿げてる…そう思うのは痛みを知らない奴だ……本当にその通りだね…カナン君。君の痛みには届かないけれど…私も君の様に前に進みたい……グラビティストライク」



 四つの黒い球体が出現。フヨフヨと浮かび、

 押さえ付けられ、土下座状態の絵里香と歩美の両手に貼り付いた。


 ベキッ!_ゴキッ!_


「ぎゃああああ!」

「いぎゃぁああ!」


 重力の力で指先から徐々に潰されていく。

 グラビティストライクはカナンが開発した拷問魔法。

 二人が苦しんでいる様子を見ても、罪悪感が起こらない自分にため息が漏れる。


「あーあ。私も闇堕ちかなぁ…」


「俺も居るよ。茜さん」


「ありがとう。オード君」


 その時、御堂聖弥がやっとオードの存在に気付く。

「なんだ…お前は」

 どす黒い感情が湧き出していた。



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