大教会で…
時は少し戻り。
キリエ達がダンジョンに入って数日。サクサクと攻略をした彼女達はダンジョンボスを討伐していた。
「黒檻」ガシィ!
ボスの身体が拘束され。
「どくー」ジュウゥ!
毒で弱らせ。
「流星」ドンッ!
さらに潰す。
『グオオォ!』
「これで最後ー鎌鼬!」
スパッスパッスパッ!
シルヴィの攻撃でぶつ切りにされた蟲王種グランドリワーム。
ピクピクと肉が蠢いている。
絶望ちゃんが頭の方へ歩み寄り、魂を抜いていく。
「いただきまーす……ふむぅ…王種は上手いな」
砂が敷かれた大部屋の中心でウンウンと頷き、後ろで待っていた三人に呼び掛ける。
「お待たせ。この奥にコアがあるから行くか」
奥にある砂の壁をぶち抜くと、小さな小部屋。その中心に黄色く光るバレーボール程の球体。
絶望ちゃんがダンジョンコアに触れ、魔力を流し、四等分に分ける。
四等分に分けたコアをそれぞれに分配。
「じゃあ胸に当てて、魔力を通しながら、コアを溶かしゆっくり浸透させる。魔力を流せば溶ける様にしたから」
「はい!先生!」
「多分個体差はあるから期待するなよ」
魔力を通しながら浸透させる。キリエ、シルヴィ、毒酒ちゃんの表情は真剣だ。
「…」「…」「…」「…」
「…」「…」「…おっ」「…あっ」
「…」「…」「我は1サイズ」「私も…1」
「…」「…」「とまぁ、こんな感じだ。四等分だから振り幅が小さいけど」「うん…それでも…大きくなった…ありがとう」
「…」「…」「諦めろ」「諦めは…肝心」
「うわぁぁぁぁ!」
キリエが崩れ落ちる。
「くっくっ、可哀想に」
シルヴィは期待していなかった様で、笑いをこらえていた。
「…」
「私はエルフと融合しちゃったからねぇ。究極エルフにならない限りサイズアップしないのは解ってたよ」
「まぁ…私も…神種の端くれになってるから…仕方ない…か」
ダンジョンコアの側にあった宝箱を開ける。彼女達から見たらガラクタが入っていたので、キリエが収納。
「あーあ…無駄足だったか……でも、楽しかったね」
「そうね。こんなに気持ちが楽な冒険は初めて」
「そうだな。無駄な事が楽しいなんてな」
「誰かと居るの…楽しい」
全員、孤独だった。
キリエはたった独りで邪族と闘い。
絶望ちゃんは独り地下に追いやられ。
シルヴィは独りで逃げ続け。
毒酒ちゃんは毒の身体に誰も近付けなかった。
「…友達?」
「…友達」
「友達…確かにそうねぇ」
「友…か」
正直友達かどうかなんて解らない。まともに友達なんて出来た事は無かったから。
「もし、我らの誰かが倒れても…振り返るなよ」
「ええ、志しは同じ」
「友達だもんね!」
「なんか…嬉しいな」
四人は笑い合い、転移陣で帰還する。
砂漠の上に転移した四人は、王都ラジウスに向かった。
______
王都ラジウス。王都の北側には観光地、魔王の討伐地があり巨大なクレーターが存在していた。
「ここ?」
「うん、ここだね」
クレーターの周囲には縄が張られ、中に入れない様になっている。観光地なので、クレーターを眺めている人々の姿が多数居る。
「ここで、何かするの?」
「別に、何もしないよ。ただ…見たかったんだ」
キリエがボーッとクレーターを眺める。何かを思い出す様に。毒酒ちゃんがキリエの手を繋ぎ、一緒に眺めていた。
「ねぇ絶望ちゃん。感じる?」
「あぁ、女神の加護を持ってるな。あれが勇者か?」
キリエの横で手持ち無沙汰のシルヴィが、いつもの逃亡癖で魔力を探知。
ピリピリと覚えのある魔力。絶望ちゃんも感じた様だ。周囲に視線を向けて警戒している。
「勇者だと思うけど、なんか歪ねー…力に振り回されている様な…仮初な感じ?…それに…」
「殺すか?」
「あー…駄目。殺し方を間違えると爆発する」
「爆弾持ちか…昔は聖女だけだったのに、今は勇者もか…複数居るから、何処かの国でも潰す気だったのか?」
「多分ね。ただ生活しているみたいだし…どうせ女神を殺せば勇者じゃ無くなる」
「ただの人になる訳か…じゃあ放置で良いな」
絶望ちゃんが腕を組み、クレーターに視線を戻す。
「…」
「…ありがとうみんな。もう良いよ」
「…じゃあ、行きましょ」
その場で星に乗り込み、大教会を目指した。
______
大教会の地下。
ダンジョン最深部に到着した月読。
三つの扉の内、最凶の扉を開ける。
「……」
「…なーすびー…なーすびー…わーたしーのなーすびーと…あーなたの◯◯◯◯◯!」
体育座りで、膝に顔を埋める黒髪の女の子が目の前に居た。
何かを呟いている。
「…グリーダちゃん、その歌、脳内ループが激しいからやめて」
「…私は昨日からずっとループしているんだ…願い星ちゃん、私の苦しみをあなたにも…」
「…お帰りなさい」
「…ただいま」
体育座りのグリーダを抱き締める。寂しかったみたいでシクシク泣いていた。
泣いているのはいつもの事なので、泣き止むまで抱き締めておく。
「…グリーダちゃん、陰気でじめじめしてマジ暗いから太陽の光でも浴びよう」
「うん。ありがとう願い星ちゃん…ん?なんか鼻がムズムズする」
やっと泣き止んだグリーダ。
二人で部屋の外に出て、帰還魔方陣からダンジョンの入り口に到着した。
「へっ…へっ…へっぷし!」
ドゴオオォォン!
教会の方から激しい衝突音がした。
「…グリーダちゃん…大教会壊しちゃ駄目だよ」
「い、いや、違う…違うよ…私じゃないよ!私じゃないよーー!」
グリーダがペタペタと走りながらダンジョンから出ていく。
「グリーダちゃん靴履きなよ…行っちゃった。ん?秋、どうしたの?」
「私じゃないもん私じゃないもん…ん?」
ダンジョンから出て、地下を上がり聖堂を通って外に出る。
そこで見た光景は、大教会の前にある広場に星が墜ちていた。
「キリエ、星落ちるなら言ってよ」
「ごめんごめん。急に制御が効かなくなって」
「お尻…痛い」
「目立ってしまったな。…ん?なんだ…あいつは」
広場には野次馬が集まっている。グリーダも野次馬根性でペタペタと広場に近付いたが、遠目に見える同じ黒髪の女の子と目が合った気がした。
「キリエ…逃げるぞ…あいつはヤバい」
「んー?どうしたんですかねぇ…優しいグリーダちゃんが聞いてみましょうか」




