魔の森へ。
「ねぇサティちゃん」
「なーに?秋ちゃん」
「イリアって世界樹から過去にいってるんだよな?」
「そうだよ。あそこが一番跳びやすいんだって。行きたいの?」
「まぁ、うん。楓ちゃんに掛けられていた魔法みたいな奴を解析したら、聖女の場所を探す手段が見付かったんだ。
応用すれば、時間を隔ててもイリアを見付けられそうでさ」
両手を縛られた状態のカナンが、持論を言っていく。サティはフムフムと頷き、思案顔。
「私もイリちゃんに自慢…いや、会いたいから、行こっか」
「うん…あの、この縄解いて欲しいな。もう紫色超えてるから」
「…秋ちゃん、30分待って。良い感じの跡になるから」
「分かったよ。そういえば他の皆は?」
現在溟海の家の隣にある、加速空間の家に居る。時間加速は使っていないので、時間の流れは外と一緒。
「アイと紅羽と刹那たんとリナちゃんはお城でお茶会。月読はグリグリの様子を見に大教会に行ったよ。他の皆は溟海家」
「そっか、誰か一緒に来るかな?」
「アイ、紅羽、月読、私、リーリア、矢印、溟海さんでファイナルあんさー」
30分後、自由になったので溟海家へ。世界樹へ行くか聞いてみる。
「そうだねぇ、久しぶりに龍王に会いたいし私も行くよ」
「お母さんのところ行くー。矢印も来るって」
溟海とリーリア、矢印は了承したのでアイに通信。
『アキ、どうしたの?』
「近々世界樹の所行くんだけど一緒に来る?」
『んー…行こうかな。紅羽も来るよ。刹那たんはリナちゃんと一緒に居たいから来ないって』
「了解」
アイとの通信を終え、月読に連絡。
『秋、どうしたの?』
「近々世界樹の所に行くんだけど来る?」
『…先行ってて。場所は解るから』
「了解。グリーダの様子どうだ?」
『ぼちぼち…ぼっちだった』
状況は変わらないという事か。ぼっちな状態なのか解らないが、いつも通りの口調。
「そっか、勇者達は?」
『ダンジョンに居たけど、最初の扉で10人くらい死んだみたい』
「うわ…なんで挑戦したんだよ…馬鹿か…」
帰還魔方陣で勇者達が出てきた時に出くわしたらしい。という事は最初の扉を攻略したという事か。しかし無謀な事をする。
『あっ……また連絡する』
何かあった様だが、連絡が途絶えた。
「はぁー…馬鹿だなぁ…」
「どうしたの?」
「勇者達、ダンジョンボスに挑戦したらしいぞ」
「ふーん。よく勝てたね」
「ああ、御堂聖弥がエセ魔王みたいに他の勇者をフュージョンすれば簡単に討伐出来るけどな。
流石にやらないと思うけど、もしやったら討伐対象だなぁ」
御堂聖弥が邪道を進むなら、精霊の依頼に上がる案件になる。そうしたら殺さないといけない。
とりあえず報告するかとサティがしがみついている重い腰を上げ、店まで飛び立った。
「いらっしゃいませー…あっサティさん…とアキ君、こんにちは」
「やぁ楓ちゃん。仕事は慣れたかい?」
「まぁね。レジ打ち簡単だから直ぐ覚えたよ」
「そりゃ良かった。ちょっと報告があるんだけど…茜ちゃん家に夜行くから、皆に言っといてね」
「うん?分かったよ。…ねぇ、アキ君ってなんでいつもサティさんに抱っこされてるの?」
「…行き着いた答えだよ」
勇者組に関しては夜に報告するとして、どう伝えれば良いか悩む。クラスメイトの死なんて重すぎる話題。
考えても仕方ないので、そのまま伝える事にした。
「…そんな」
「…まじか、無謀だろ…」
「…生き返らないの?」
「死体を回収しないとダンジョンに吸収される。月読の話では誰1人死体を持っていなかったから…絶望的だろうな」
集まった健次、刹那、楓、永遠、茜が黙りこむ。誰かが死ぬ覚悟はしていたが、それでも辛いものは辛い。
楓と永遠はクラスメイトの死を聞いて、涙を流している。
泣いている二人を眺めていた健次と刹那は目が合った。
(棚橋、泣かないなんて非情)
(いや、俺…皆に虐められてたし…音市の方が非情だろ)
(私は心が枯れている)
(なにそれ)
アイコンタクトを交わす健次と刹那。その二人を眺めていたカナンと茜は目が合った。
(茜ちゃん、泣かないなんて非情だね)
(いや、ほとんどの人知らないし…カナン君に言われたくない)
(俺は心が壊れている)
(まぁ、そうだけどさぁ…)
『秋、今良い?』
(ん?月読か、どした?)
『御堂聖弥、邪道に堕ちてる。黒』
(あー…了解。ありがとう)
「茜ちゃん」
「な、なに?」
「あいつ、黒だったよ」
「…あの馬鹿」
茜が頭を抱える。御堂聖弥が仲間を吸収して力を得た。もう、人の道から外れている。
このままいけば、害悪の存在。討伐対象。
「精霊達に害が及ぶようなら、俺達の誰かが動く。それは、覚えておいて」
「うん…こんな事を聞いても、涙が出ない私は…冷たいのかな…」
「冷たくなんてねえよ。絶望に堕ちても、それでも、茜ちゃんは自分の力で這い上がっただろ。
泣くって事は同情、共感、親身…それはどれも当てはまらない。泣かないからこそ良い女だって思えるぜ」
「…ほんっと、こういう時は良い男だね。カナン君は」
「兄さんはもっと良い事言うぞー。話聞いて貰えやリア充」
「うわー前言撤回、やっぱ性格悪いわ」
「くくっ、元気出たじゃねえか」
翌日、カナン達は世界樹がある魔の森へ向かう。
出発前に月読に通信。
「月読ー、今大丈夫かー」
『秋、どうしたの?』
「茜ちゃんの事、頼むわ。大教会に向かうかもしれないから」
『くふふ、優しいね。秋』




