誰も…居ない…
真っ白く狭い部屋の中。
「…」
仰向けになっていた身体を起こすが。
ガンッ。「痛っ…」思いのほか狭かった。真っ白い部屋で遠近感が無く、境い目の無い壁を睨む。
「私は…あの時倒れて…」ペタペタと壁を触る。出口は無く、閉じ込められているのが解る。
「…記憶が…ある?……へへへ…やりました」倒れた記憶。それ以前の記憶もある。博打の様な闘いに勝った事に、喜びを噛み締めた。
「でも、ここは?解析……この部屋…超進化の繭?…じゃあ私は進化して…ん?特殊能力…オラクル…」
解析を掛け、真っ白い部屋の名前は解った。でも自分の解析が怖い。どんな存在になったのか。
「解析…魔導主・F・グリーダちゃん……F?…も、もしやフジシマのFですかぁ!教えてくださーい!フジシマなんですかぁ!感謝ですよー!」
……
「無視しないでぇ!…あの、これどうやって出るんですか?壊すかフュージョンすれば良い?はい、了解しました!フュージョン!」
真っ白い部屋…超進化の繭をフュージョンで吸収していく。ゆっくりと消えていく白い壁。
「…出れましたね。ミラー」
大きな姿見を出して、自分の容姿を確認してみる。
服装は変わらず、とんがり帽子に黒い魔女服。変わった所と言えば、髪と目が黒くなったくらい。妖精の様な綺麗な顔は変わらず、「ふーむ」角度を変えて鏡を見る。
「私…イケてますねぇ」
背中に届くくらいの黒い髪を撫でながら、ヌフフと笑い自分の力を確認していく。
「ふふふー…ん?出番が来るまで自主練習してて?あ、はい了解しました。
…あれ?…そういえば…誰も居ないなぁ…おかしいなぁ…ふふふっ、どうして涙が止まらないんだろぅ。おかしいなぁ…」
______
大教会の南方の国、ラジウス王国。
北方は農耕や工芸が盛んな地域、東方は豊富な鉄鋼資源を抱え、西方は海の水産資源や観光業、南方は砂漠が広がり更に南へ行くと荒野が広がり、更に南へ行くと毒沼地獄がある。因みに砂漠の西側はヤード王国という国がある。
中央部は商業の中心。王都ラジウスが存在する。200年と少し前に乱心した国王が進化の秘術を使い、魔王と化した事により国は衰退。現在は大教会と帝国が管理している名ばかりの国。
そのラジウス王国の北方、農耕の盛んな1つの村が賊の襲撃により壊滅していた。
民家は倒壊し、人も倒れ、家畜は逃げ出し、村全体に火が放たれている。
「全然金目の物は無かったわねぇ。次行きましょ」
「そうだなー。楽しめたけど、良い女も居なかったし」
「ひ、人を殺すって、気持ち良かった」
「…」「追っ手が来ない内に行こうぜー。南へ行けば王都なんだろ?」
大教会から脱出した五人の勇者達。鈴木、郷、長田、村山、山崎。彼らは南下しながら村や集落を襲撃していた。目的は金、女、殺人、娯楽。盗賊と変わらない行動を犯す彼らは、奪った地図を眺めながら王都を目指す。
「人を殺してもレベルって上がるんだな」
「もっと強くなれば私達は自由ねー」
「た…助け…て」
「おっ、まだ生き残りが居たか。長田、よろしく」
「わかった」怯える表情で後ずさる男性を_グシャ_「ぎゃぁぁ!」長田が斧で叩き斬る。
「次は王都だから、目立った行動はするなよ」
「分かってるよ」
______
勇者達五人は村を壊滅した後、南下し続け王都に到着。
「えーっと…王都ラジウス。戒めの地?なんか悪い事したのかな?」
「説明あるわよ。観光名所の…勇者アランが魔王を討伐した場所があるんだって」
「あぁ、ここが魔王が生まれた国なんだぁ。200年以上前の話だよな」
王都の宿を取った後、これからどうするかの話し合いが始まった。
「しばらくこの王都に居ようか。ここで金策と、生活の基盤作り」
「あ、あと情報収集もしなきゃ…追っ手が来るかもしれないし」
「俺は冒険者とかやってみたいなー」
「じゃあ決まりね。チーム分けして活動しましょ」
解析の能力を持つ山崎、戦士の長田の二人が組み。
イレースの能力を持つ鈴木、魔法使いの村山の二人が組む。
スティールの能力を持つ郷は、一人で活動。
王都に溶け込んで生活を始める。




