魔族殲滅作戦
時刻は深夜。
広い王都の中。肌寒い風が吹き、人々の往来は見えない。
暗い道には照明が付き、石畳を静かに照らしている。
聞こえる音は、深夜に生計を立てる者や酒場で騒ぐ者の生活音。
その中心には月が照らす城。
城というよりは、高い塔の様な外観の城に降り立った人影。
「ここが…魔王の城」
「あの塔の上部に魔王が…」
入り口に立つ、勇者達一向。魔王討伐組。御堂聖弥、天草楓、森田義隆、鈴木絵里香、田中歩美、佐藤千恵、音市永遠、美空葵、沢田和樹、須藤良太。
それに加えて神殿騎士副団長を中心とした部隊。総勢25名。
「先ずは内部に入り、聖女様が正面の大扉に封印を。その後に塔部分に入り、扉に封印をお願い致します」
「…はい」
封印が終わるまで、物音を立てない様に進む。裏口から入り、神殿騎士が夜勤で働いていた魔族を無力化。
「御堂様、無力化出来ました」
「ありがとう。無駄な殺生はしない様に徹底してくれ」
「はい」
勇者達が先に行き、それを見届けた副団長が部下を引き留めた。
「…始末しておけ」
「…はっ」
裏口から魔族を無力化しながら大扉に到着。「聖女様、この扉に封印を」天草楓が大扉に封印を施す。
1分程で封印完了。上への階段を昇る。
「この先に塔への入り口があります」
「はい、でも何故兵士が来ないんですか?何か魔法でも?」
「女神様のお力です」
「そっ、そうですか。それは心強い」
女神の加護で魔族の戦力は削られているという。神も味方する闘い。勇者一向の心を奮い立たせるには充分だ。
「聖弥君、頑張ろうね。一緒に日本に帰ろうね」
「ああ、絶対に倒すぞ」
絵里香、歩美、千恵が聖弥の近くを陣取り行動。それを見る森田義隆は予感がしていた。
(こんなんじゃ多分、誰か死ぬ)
「ここが塔の入り口です」
緊張が走る。
塔に入り、扉の封印を施す楓。
この上に魔王が居る。
もう後戻りは出来ない。
「皆、行くぞ!」
「「「はい!」」」
______
魔国王都の上空。
高度数百メートルの地点。
勇者達が乗っていた飛行船が旋回し、王都を見下ろしていた。
「通信より、魔王討伐部隊が塔に潜入した。これより、魔族殲滅作戦を開始する」
「「「はっ!」」」
魔族殲滅作戦。
古代の遺跡から発掘した魔法兵器。
東西南北の地点に放ち、王都を半壊させる。
後に王都へ降り立ち、生き延びた魔族を根絶やしにしていく作戦。
魔族殲滅組の勇者達は、飛行船にて待機していた。
「凄いな、戦争みたいだ」
「空から爆撃なんてこの世界じゃ無いもんなー」
勇者達は呑気に会話をしながら王都を見下ろす。
「魔法兵器って大砲みたいな奴だよな?」
「そうそう。船底に付いてたデカイ奴」
「ラピ◯タの兵器みたいよね」
ギュイイイイ!数多くの魔石を燃料に魔法兵器が稼働。
周囲の魔力も吸収しながら力を溜めていく。
ギュイイイイ!
「発射1分前!」
飛行船は王都の南部分に停止。
「どんな威力かな?」
「城までは破壊しないらしいけど大丈夫?」
「撃つのはあの広場かな?」
「発射30秒前!」
魔力の吸い込みが終わり、発射体制に入った。
「広場?あー、うっすら見えるな」
「誰か立ってるなー。最初の犠牲者ってか?」
「だな!今更気付いても遅いしな!」
「10秒前!」
「ん?何か光ってる?虹色?」
「5!4!3!2!1!発射!」
ドオオオオ!魔法兵器から膨大な力が溢れだし。
ゴオオオオ!王都へと降り注ぐ巨大なレーザー。
誰もが破壊された王都を想像するであろう。
ゴオオオオ!
そして、誰かの声が聞こえた気がした。
「グランド・クロス・サウザンド」
ザザンッ!
誰もが想像した結果は起きなかった。
四散していく巨大な光。
それを茫然と見詰める飛行船の者。
「…失敗?」
「…違う…斬られた」
シュタッ。誰かが飛行船に飛び乗って来た。
「_っ!だっ、誰だ!」
「…せっかく秋ちゃんをストーキングしてたのに…でも、ここだとハッキリ見える」
「…エルフ?」
飛行船に降り立ったエルフの女性。
黒いメガネを通して見えるはっきりとした目。
その中にある青く澄んだ瞳が心に突き刺さる程に魅力的に映る。
キメ細やかな白い肌が月に照らされ、幻想的で圧倒的に美しい存在が月を見上げていた。
「ふふっ…秋ちゃん、月が綺麗だね」




