とりあえず買い物しよう
「よし、とりあえず買い物行くかー」
「切り替え早くね?」
「王都の名産なに?」「他大陸の貿易品。米とかあるぞ」
魔王の目的が解らないので、気分を変えて買い物へ。商店街っぽい方向へ歩いていく。
「勇者達が来るまで待つのか?」
「そうだなー…目的が解らない以上、下手に動けないんだよなー」
やがて店が多い場所にやって来た。店頭に並んでいる品は、人間の街よりも魔力が込められた物が多い印象。
「アキ、これ買って」
「おっ、可愛いリボンだな」
「リナちゃんにプレゼントしたい」
「リナと仲良いよなぁ」
真っ赤なリボンを購入して、小さな箱に入れてから刹那に渡す。刹那は小さく笑ってお礼を言い、収納カバンに仕舞った。
「健次はキャサリンちゃんに何か買うか?」
「…うーん」
「まだ結婚するか悩んでる?」
「まぁ、うん…」
「…もし、地球に帰れたらって思うと踏ん切り付かないか?」
「はははっ…お見通しか」
帰れないと思っても、もしかしたらと思ってしまう。地球の話をすると気分が落ち込むのは刹那も一緒。
カナンには痛いほどに解ってしまう気持ち。
「…なぁ健次、刹那さん…俺が転生者なのは知ってるだろ?」
「…うん」「…あぁ」
「…時空魔法が使えたから色々試したんだ。転移魔方陣を改造したり、次元の扉を開いてみたり、聖女のパンツを生贄にしてみたり、沢山の書物も調べた…」
「「…」」
地球への未練を諦めさせてくれるのか。この世界で生きていく事は出来るが、やはり帰れないと思うと涙が溢れて来る。
「それでも駄目だったけど、まだ方法はあると思うんだ」
「そんなの…アキが…駄目だったなら…無理なんじゃ…ねえか?」
「無理じゃねぇ…俺はお前達が好きだ。だから…なんとかして地球に帰してやる。だから、今だけは好きに生きて良いんだ」
刹那はカナンが強がっているのが解る。サティから聞いた、自分達よりも酷い扱いを受け、自由も得られずに死んでしまった前世の秋。彼は今でも帰りたいのだろうと思ってしまう。
「…私は好きに生きるよ」
「俺も、好きに生きたい…」
「あぁ、後悔だけはすんなよ…楽しもうぜ。異世界を」
くくっと笑い、好き放題に買い物をしていくカナン。
それを眺める健次と刹那は、憧れに似た気持ちで眺めていた。
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上空にて、飛行船に乗る勇者一向は緊張した面持ちで過ごしていた。決戦は近い。不安が先行し、悪い想像ばかりしてしまう。
「もう一度、作戦の確認をしましょう」
「はい。御堂様のチームは魔王討伐です。魔王が居るのは城の上層部。城に入り、大扉を閉じてしまえば外からの敵は入って来ません。そこから上に行けば魔王が居る筈です。独自に入手した城の地図があります。これを参考に動きましょう」
御堂聖弥が何回も作戦を聞きなおしている。確認は大事だが、何回も聞いている者は飽きている状況。
勇者達は魔王討伐組と王都を撹乱する組とに分かれて、魔国を壊滅させる算段。
決行は明日。
「本当に、魔王を倒したら帰れるのかな…」
誰かの呟きが飛行船に聞こえた気がした。




