魔王が居たけど
魔国。魔族や魔人と呼ばれる者達で形成された国家。
人間とは違い、角があったり、翼が生えていたりと様々。
その王都となれば、道往く人々は魔族で埋め尽くされる。
カナン達は昼過ぎに到着した。
「おー…すげえ。ファー王都とは違う活気だな。魔力も濃いし」
「そりゃ、魔力に長けた種族が多いから魔力が濃いさ。田舎者だと思われるから立ち止まるなよー」
「…エルフは少ない?」
「エルフは隣の友好国エルメスの種族だから、比率は少ないかな。でもエルフにとって、人間の国よりは断然住みやすい国だよ。奴隷も居ないし」
他大陸との貿易で、珍しい物も多い。市場には米等売っているが、勇者の件があるので後回し。
「魔王はあのお城?」
「魔力調べるからちょっと待ってな…うん、あの城に居る」
王都の中心にそびえる塔の様な城。城の上部に強い魔力反応があった。
「じゃあ行くか」
「えっ?行ったら会えるの?」
「会えないから、こっそり見に行く」
「…どきどき」
人気の無い場所まで行き、光学迷彩の魔法で姿を消して飛び立つ。お互いの姿は何となく解るが、はぐれると危険。カナンは健次の腕に紐をくくりつけ、刹那と手を繋ぐ。
「俺…ヒモで繋がれて…それ差別…」
「平等だ」「嘘だ!」「棚橋うるさい」
魔力を隠してゆっくり上昇。先ずはレンズ魔法で遠くから見てみる。
「…あれが魔王?どっち?」
「どうだろう。お楽しみのご様子だけど」
「…エロい」
レンズに映し出された2つの影。裸の身体が絡み合い、お互いを求め合っていた。音声は無いが、こちらに嬌声が聞こえて来そうな激しさは目を見張るものがある。
「とりあえず近付いてみる?あの様子なら気付かれにくいでしょ」
「いや、そうだけどさぁ…」
「…行こう。勉強しなきゃ」
「音市、目的が変わってるぞ」
ゆっくりと城の上部に向かう。一応三人の表情は真剣だ。
徐々に近付き、窓の部分に到着。中を伺ってみた。
「「「…」」」
パンッ!パンッ!パンッ!
「あん!あぁ!あぁん!もっとぉ!もっとぉ!」
「はぁ、はぁ、もっとか。これはどうだ?」
パンパンパンパンパン!
「あぁぁぁん!いくいくいくぅ!」
刹那がカナンの手を引っ張り、離れようと言うので一旦離れる。一応直に見れたので、路地裏に降り立ち光学迷彩の魔法を解除。
カナンは激しいなーという感想でボーッと眺めていたが、健次と刹那には刺激が強かった様だ。健次は前傾姿勢。刹那の顔は真っ赤に染まっている。
「アキ…よく平気な顔してるな」
「…エロかった」
「あんなの別にノーマルプレイだろ。それよりもあれが魔王?」
黒い翼の生えたサキュバスの様な女性と、半身が半透明の男性。
「…あれがノーマル」
「魔力を視た限り、男の方が魔王…でもあれは…違う」
「違う?魔王じゃないのか?」
「あー…なんて説明したら良いかな。あれは一応、一般的には魔王なんだよ。でも俺が求めている魔王じゃないというか」
「…種族が違うの?」
「そうなのかなぁ…俺が求めているのは純粋なる魔法の王。んー…なんだ…あの違和感」
男性の方を詳しく思い出してみる。
身体の半分が半透明で淡く光っていた。そこから感じる力は魔力の他に魔王の力と異様な何かを感じた。
反対側は角等は無く人間の様な身体つき。本能を剥き出しにする様は、睡眠欲と食欲を奪われた廃人の様。
「まるで…_っ!まさか!」
「何か解ったのか?」
「ああ…」
「…魔王じゃないの?」
不完全な身体。魔王の力を感じるが、無理矢理植え付けられた様に半身のみ。まるで時間が無くて作りかけの身体。
「…あれは魔王だよ」
「じゃあ何か違うのか?」
生身の部分は人間。性欲があるのは、人間から魔王になったから。
「あれは人間から魔王になった存在…」
「えっ?人間から成れるの?」
「ああ、人間から魔王に成るのは結構あるんだ…更にあれは…」
微かに感じた異様な力。カナンが辛うじて感じる程なので、他の魔族は気付かないだろう。
「人間をベースに作られた魔王。それを魔国に送り込んだんだ。急いで作った筈なのに、魔族が気付かない程に上手に作られている…ははっ、流石だねぇ」
「魔王なんて作れるの?」
「理論上は作れるんだ。方法はまぁ…今度教えてやるよ」
「じゃ、じゃあ誰が作ったんだ?」
呆れた様に天を仰いで笑うカナンに、健次と刹那は必死に理解しようとしていた。
「神だよ…ったく…何をする気だ」




