キリエと絶望ちゃんと
街へと下りたキリエと絶望ちゃん。
街を歩く銀色の美人と黒色の美少女はかなり目立つ。
「キリエ、じろじろ見られているぞ。やっぱり我は変なんだな」
「それは絶望ちゃんが可愛いだけじゃない?パンツを履いていない以外は完璧だよ?」
キリエが我慢出来ずに、ヒラヒラと揺れるツインテールの先をクルクルしながらにへらと笑う。なんとか服屋を見付けて絶望ちゃんの黒いパンツを発見し購入した。
「ふんっ、こんな布1枚で騒ぎよって…」
「大事なの!可愛い女の子のパンツには夢と希望が詰まっているの!」
絶望ちゃんにとってパンツなんぞには興味は無い。折角股間に風を感じていたのに邪魔されたので少し不満。
しばらく街を歩くが、特にめぼしい物は無く。後ろを付けてくるごろつきを仕留めていくだけだった。
「あっ…」
「む?どうした?」
「来た」
「来た?」
キリエが通りに目を向け、少し待っていると四人組の冒険者パーティーが歩いて来た。剣を持った男、斧を持った男、弓を持った女性のエルフ、女性の魔法使い。
キリエはそのパーティーに近付き声を掛ける。
「ねぇ、ちょっと良い?」
「…あ、ああ。なんだい?」「うおっ、美人だなー」「…」「子供?何の用事かしら?」
「そこのエルフさんに用事があってさ。付き合って貰って良い?」
ピクリとエルフの肩が揺れる。緑の髪に緑の瞳、少し思い詰めた表情でキリエを見詰めていた。
「シル、知り合いか?」「…ええ、そうね。皆は宿に戻ってて」
首を傾げる他の冒険者を見送り、シルと呼ばれたエルフがキリエと絶望に向かい合う。場所を移しましょう…そう言って街の外へ歩き出した。
シルは無言のまま、街の外にある草原で立ち止まる。
「…私を、殺しに来たの?」
「違うよー。と言っても信じないかな?深碧の魔王さん」
「ほう、魔王か。成る程…こやつが天異界への鍵か」
魔王を殺して存在値を下げれば女神が顕現する。そこから天異界への道を辿れば今すぐにでも復讐は完遂出来るので、絶望ちゃんはいつでも魔王を殺せる様にしていた。
「…くっ、この魔力…強い」
「絶望ちゃん、この子を殺しちゃ駄目だよ」
「駄目なのか?目の前に鍵があるのだろう?」
「殺さなくても魔力を解放して貰うだけで、天異界への道を辿れるよ。だから魔力を抑えて」
絶望ちゃんの魔力で魔王が膝を付く。王種と絶対種の差は歴然だった。キリエのお蔭で外に出れたので、言う通りに魔力を静めた。
「私はキリエ。貴女の名前を教えて?」
「…シルヴィ」
「くふふ、殺さないから安心して。ねぇシルヴィちゃん、私達と一緒に来ない?」
「一緒に?何故?」
「私達、女神を殺したいの。協力してくれたら、私達が貴女を守るよ」
「…女神を。殺せるの?」
「ええ、殺せる。もう逃げる必要なんて無いよ。私達は味方」
「…信用出来ない」
少しの葛藤が見えるが、500年逃げ続けた深碧の魔王。人の社会に溶け込む事で隠れていたが、それを壊す恐怖があった。
「うーん…どうしたら信用して貰えるかな?絶望ちゃん」
「我等の記憶を見せるか?」
「そうだねぇ…シルヴィちゃん、私達の記憶を見せるよ」
キリエが魔力をシルヴィに送る。「うっ…」抵抗しても無駄だと解っているシルヴィは魔力を受け入れ、しばらく沈黙していた。
「…絶望ちゃんってトイレ行くの?」
「行く訳無いだろう」
「えっ?でもお尻の穴とかは何に使うの?」
「知らんよ。クソ龍王とやらが編んだ術式だからクソ龍王に聞けい」
どうでも良い会話をしながらシルヴィを待つ。やがて起き上がり、ボーッとキリエと絶望を眺め、諦めた表情で立ち上がった。
「はぁ…分かった。一緒に行けば良いんでしょ?」
「くふふ、歓迎するよ。出発は明日だから、今の内に彼氏と別れを惜しんで来てね」
「彼氏?そんなもん居ないよ。私は女の子が大好きだから男には興味無いの。とりあえずパーティーを抜ける事は伝えに行くわ。宜しく、キリエ、絶望ちゃん」
キリエと握手を交わし、絶望ちゃんのお尻を撫でたシルヴィはヒラヒラと手を振り冒険者の元へ。
復讐者二人に、逃亡者が加わった。




