キリエと絶望2
とある地下深く。
ピキピキと空間が軋んでいる中、イービル・デスイーターこと絶望は座り込むキリエをじっと眺めていた。
「……」
『…深淵に呑まれたか?』
キリエが吸収している混沌神の魂。混沌のダークマターを取り込んだ後、キリエは数日に渡って座り込み沈黙。
そして。
ドクンッ。
『むっ?何だ?』
ドクンッ。波打つ様に鼓動を発する。キリエの身体が仰け反り、次第に鼓動が早くなっていた。
ドクンッ。ドクンッ。ドクンッ。
ドクンッ。ドクンッ。ドクンッ。
『これは…覚醒?進化?』
ドクンッ…
『……』
「…………お待たせ」
仰け反った状態で呟く言葉に、絶望から安堵の雰囲気が流れた。
身体を起こし、起き上がった姿には少しの変化が見られる。
綺麗な銀髪を靡かせ、フッと笑う表情はいつもの物だが、瞳の色が金色に変化している。銀と金のコントラストが美しく、見る者を魅了する輝き。
「無事…お姉ちゃんの魂を取り込めた…」
『記憶を少し見させて貰ったが、流石は元邪神だな。咎人から何に成ったのだ?』
「くふ、記憶を見るなんてエッチね。まぁ良いけど。咎人から何にって言われても知らないよ?神種を吸収したから咎神じゃない?」
前例の無い存在。新種と呼んでもおかしく無いが、人を超え、神を超えた存在なのは確かだ。
『仮に咎神にしておこうか。ところで…キリエは天異界に行けるのか?』
「んー…正直、場所が解らないんだよねー」
『ではどのようにして女神達を討つ?』
「鍵を見付けるのが早いかな。一応近い場所っぽいから行ってみようか。その前に…」
絶望に向き合い、闇に触れながら「トランスファー」魔法を転写する。
『ふむ、人化の魔法か。すまぬな』
「クソ龍王の魔法だから別に良いよ。その姿だと不便だからね」
絶望が人化の術を行使してみる。徐々に闇が凝縮。人の形を成してきた。
「…どうだ?人になったか?」
「絶望さん…可愛い。言葉遣いと姿が全く合っていないけれど、慣れたら大きくなれると思うよ…絶望ちゃんかな」
黒い髪と目をした10歳くらいの黒いワンピースを着た可愛い女の子に見える。ツインテールの髪を撫で首を傾げ。視点が変わってキョロキョロと辺りを見渡しふーん、とトコトコ歩きながら小さな手をグーパーしていた。
「ふん。行くぞ」
「くふふ、了解。絶望ちゃんの封印を解くね」
「解封」絶望ちゃんに触れると、鎖が弾ける音が響く。見た目は変わらないが、外に出れなくする封印を解除した。
続いて上に続く穴に向かって手を伸ばし、「解封」バキンッ!ガラスが割れる音が響き、穴の封印術式が壊れた。
「最後に、星の守り」絶望ちゃんに魔法を掛ける。女神から探知出来ない様にする魔法。
「よーし!準備は出来たから行こう!星乗り!」
ポンッ!2人が乗れる星を出して乗り込む。穴から地上に向かって一気に上がる。所々にある封印は解除しながら。
「気になったのだが、キリエは秋とかいう者が好きなのか?」
「んー?どこまで記憶見たのよ。秋ぽんの事は、憧れの人かなー。私を元に戻してくれたお礼をしたいんだけど、何をしたら喜ぶかな?」
「別に礼を言えば良いだろうに。それに、キリエの妄想の中で散々していた事をすれば良いんじゃないか?」
「ちょっ!どこまで見たの!駄目!記憶から消して!」
不敵に笑う絶望ちゃん。悪い笑顔をする少女に、やいのやいの言うが中身はおっさんみたいな存在なので効果は無い。
「ところで絶望ちゃん…服装とかは変えれるの?」
「いや、術式の通りにしたらこの姿になっただけだ。もう固定化されて変える事は出来ない。何か変だったか?」
「いや…変じゃ無いんだけどさ…」
やがて最後の封印を解除して、地上に飛び出す。
飛び出た先は山の頂上。麓に街が見えた。
「絶望ちゃん。ここ何処か解る?」
「解る訳無いだろ。我は地下に居たのだぞ?地形も変わっているし」
「まぁ何とかなるか。とりあえず、あの街で…」
「ん?あの街に鍵というのがあるのか?」
「いや、違うよ。変な磁場があるから近くにダンジョンがあると思う。そこに行けば良いんだけどさ。その前に…買い物をしないといけないのよ」
呆れる表情のキリエに首を傾げる絶望ちゃん。
キリエは気になって仕方がなかった。
細かい刺繍の入ったワンピース。髪型はバッチリ左右対称のツインテールで可愛いリボン。薄く化粧までして可愛い靴も履いている。完璧な美少女だが。
「なんでパンツ履いて無いのよ」
「知らんよ」