少しの日常を
夜に出発して日をまたぎ、朝日を受けながらファー王国の王都へと戻った一向。
人々は活発になる時間帯なので、必要な物を揃える為に一度お店に顔を出す。月読は溟海の家へと向かって行った。
「いらっしゃいませー。あっ兄ちゃんおかえり…ん?(日本人?)後ろの人は茜さんの友達?」
「リナただいま。ちょっとまた出掛けるから「いやー!」…ごめんリナ。「許さん、泊まってけ」…必要な物を揃えに来たんだよ。後ろの二人は…大教会の関係者だよ」
混乱があるので勇者とは言わない。カタリナは大教会に地球からの転移者達が居る事を知っているので関係者で通じるが、カタリナにとってカナンがまた出掛ける事の方が大事だ。
「どうも…健次です…アキ、妹可愛いな」
「リナちゃん…初めまして、私…刹那っていうの。お友達になって欲しいな」
「あっ、どうもカタリナです。健次さんと刹那さん…あれ?」
店番をしていたカタリナがふーふー!とカナンを睨んでいたが、刹那を見て首を傾げる。刹那も首を傾げて見詰め合っていた。
少し見詰め合ったカタリナが、パートのおばちゃんに受付を任せて出てくる。
「兄ちゃん。私、今日茜さんの家に泊まるの。刹那さんも一緒に連れて行きたい…駄目?」
「んー、別に急ぎじゃないから良いぞ。刹那さん良い?」
「…良いよ」
「じゃあ必要な物を揃えたら案内するよ。健次は家に泊まるか?」
「俺は何でも良いよ。正直大教会から離れられただけで充分だし」
健次も茜の家に行きたそうだったが、全員から拒否される未来しか無いので、お情けでカナンの家に泊まる。
それぞれ必要な物を購入。まだ朝なので、眠気覚ましを飲んだ健次は夕方に待ち合わせし、王都の観光へ出発していった。挙動不審になって衛兵に捕まらない事を祈るカナン。
カタリナが刹那と一緒に居たそうだったので、カナンが店番を代わる。二人は王都を回るそうで、手を繋いで出ていった。
「おばちゃん、今日は俺が店番するから宜しく」
「流石お兄ちゃんだねぇ、リナちゃん嬉しそうだったよ!」
「ははっ、新しい友達が出来たみたいで俺も嬉しいよ」
パートのおばちゃんと雑談をしながら久しぶりの店番。常連のお客とも雑談しながらだが、今日は休日の光の日なので忙しい。
途中で茜が出勤。カナンの顔を見てうわっという顔をするが、カナンにニヤッと笑い返されて少し遠い目で隣に立った。
「カナン君おはよう。リナちゃんは?」
「リナは友達と王都を回りたそうにしていたから、店番代わったんだよ。茜ちゃん、音市刹那と棚橋健次って解る?」
「あー、中学校で音市姉妹は有名だったよ。確か…永遠なる鬼が守る刹那たんと徹夜ゲームの健次だっけな」
「くくっ、何それ…二人共有名人じゃねえか。まぁ、その二人が来ててな。リナが刹那たんと仲良くなったから、茜ちゃん家に泊まりに行くって。宜しく」
「良いよ。刹那たんとはクラスが違ったから交流無かったけど、話はしてみたいと思ってたんだよねー。健次は別にいいや」
聞くと健次とは小学校から一緒だが、いつも寝ていたので仲良くは無かった様だ。茜は中学1年の後半に異世界へ転移したので、そこまでの思い出しか無い。
「なぁ茜ちゃん。無理に言わなくて良いんだけど、絵里香、歩美、千恵が嫌がらせしてたのか?」
「…そうだよ。聖弥が何かと話し掛けて来るのが気に入らなかったみたい。その当時に魔法が使えてたら良かったんだけどね」
中学時代は御堂聖弥の取り巻きに嫌がらせを受けていた。思い出させるのは悪いが、確認はしなければならない。カナンにとって大事な弟子を虐めていた存在は許せないからだ。
「復讐する?今の茜ちゃんなら一撃だよ?」
「今更かなぁと思うんだけどね…仕返しくらいはしないと駄目かな?」
「駄目だと思うよ。だって、地球に居る時に願ったんでしょ?もうこんな生活は嫌だって。逃げたいってさ。いらっしゃいませー」
茜にとって異世界に転移した原因だと思われる存在。許せるかと言われれば許せないのは当然だ。
カナンは言う。復讐は、果たしてこそ前に進めると。
「…ただ痛め付けるだけじゃ、あっちも復讐を誓ったら負の連鎖じゃない?それこそ、心をバキバキに折らないと」
「遥かな高みから見下してやれば良いんじゃねえか?空気の読めない聖弥共々…まぁ復讐者の先輩として、力にはなるぜ」
「グリーダの話を少し聞いたけど、地獄に送って宇宙に飛ばすとか鬼畜の所業だよね…カナン君が力になると、私が鬼畜女になるからまだ保留で」
「くくっ、いつでもご依頼待ってますよ」
なんだかんだで仲の良いカナンと茜は、話題を変えて雑談しながら店番をしていた。
______
その頃、カタリナと刹那は手を繋いで王都を回る。ニコニコとするカタリナに、刹那も笑顔になっていた。
少しそわそわしていたカタリナが、急に刹那を抱き締める。刹那は少し困惑しながら、カタリナの小さい身体を抱き締め返していた。
「大きくなったね…刹那ちゃん。大変だったね。何も知らない所に転移されて。永遠ちゃんも来てるのかな?」
「え…あ…あの…なんで…カタリナちゃん?」
「ふふっ、覚えてる?春だよ…って刹那ちゃん覚えてないかな?」
「…え…嘘…春姉ちゃん?」
我慢出来なくなったカタリナが、刹那に想いを打ち明ける。
音市刹那は更江高校の近くに住んでいた。当然その高校に通う生徒を小さい頃から見ていた刹那は、カタリナの前世…春とは交流があり、姉妹の様によく遊んでいた仲だった。
「私、この世界に生まれ変わったんだ。久しぶりだね。ここは地球とは時間の流れが違うみたいだから、更江高校って聞いても知り合いなんて居ないと思ってた。刹那ちゃんにとっては3年振りくらいかな?ごめんね。会う約束してたのに、車に轢かれて死んじゃった」
「…会いたかった。急に来なくなって…嫌われたのかと思った。…転生っていうのかな?」
「そうだよ。会えて嬉しいな。でも刹那ちゃんの方がお姉ちゃんになっちゃったね」
ふふっ、と笑うカタリナ。刹那は嬉しさがこみ上げ、カタリナをずっと抱き締めていた。
______
その頃健次は。
「怪しい奴、ちょっと詰所まで来てもらおうか」
「え?俺何もしてないけど……あっ!用事思い出した!すみません!」
衛兵に職務質問され、逃走していた。




