邪神に挑む
先が見通せない程の広大な部屋。その中心に蠢く100メートルを超す異形の存在。手、足、身体、頭が別の生物の様に質が違う。
漆黒のローブから覗く、無数の蛇が絡まった様な腕、蹄のある剥き出しの黒い筋繊維の足、胴体に肉は無く肋骨の中心に漆黒の核が見え、深淵覗き込む様な恐怖を孕んだ瞳を持つ骸骨の顔。
邪神。伝説の魔法使いが、その命と引き換えに滅した存在。
その足元に立つ。小さな存在。
黒いローブ、黒い鍔の広い帽子から綺麗な金髪の髪が流れ、妖精の様な儚い美しさを持つ女性の姿。手に持つ指揮棒の様な杖が少し震えていた。
「邪神ちゃん。悪いんですが、私のわがままの為に死んで下さい」
≪フンッ。オ前はバカか。星神獣に敗れたダケデ≫
「…バカと天才は紙一重なんですよ?星神獣を知っているという事は、やはり神種は星の情報を読み取れるんですね」
≪…星神獣とは創星神の右腕ダ。天異界の女神がコノ星の…創星神を知る者の記憶を封印シタカラ、この星の者が知らナイのも無理は無い≫
「創星神?」
≪この星の、元々の神ダ≫
「これは良い事聞きました。ますます死ねませんね…じゃあ、よろしくお願いします」
一礼して杖を構えるグリーダ。その眼に迷いは無い。
邪神はその小さな存在を見据え、骸骨の顔を歪ませて笑う。
≪楽しマセテ、貰おウカ≫
______
グリーダが去った後の扉の前。残された一同は難しい顔を浮かべながら、最凶の扉を見る。まだ戦闘は始まっていない事は分かるが、中の様子は分からない。
「私はグリーダちゃんを待つ。多分1日じゃ終わらない。秋はどうする?」
「俺も待つよ。でも健次に終わるまではここに居る事を伝えないといけないから、少し抜けるな」
「分かった」
月読は親友の闘いを見届けたいのだろう。少し悲しそうな表情で扉を見ている。
カナンは急いでダンジョンを出て、制限区域内にある健次の部屋へ。時間が惜しいので窓から入った。
「健次、居るか?」
「おー、アキ。なんか急いでいたみたいだったけど終わったの?」
「いんやこれからだ。ちょっと用事が終わるまではダンジョンの最下層に居るから、なんかあったらこれで連絡してくれ」
「ん?おう、分かった」
健次に通信石を渡し、急いでダンジョンの最下層へ。途中聖弥がカナンを見つけ何か叫んでいたが、それどころでは無いので無視。直ぐにダンジョンの最下層へ到着。
「ただいまっと。始まったのか?」
「もうすぐ始まると思う…グリーダちゃん…」
「月読は一度グリーダと闘ったんだろ?邪神には勝てそうなのか?」
「…分からない。グリーダちゃんは優しいから、私の時は手の内を出さなかった。でも…グリーダちゃんの魔法は、凄く綺麗なの」
「…そうか。無事に、戻って来いよ」
______
グリーダが杖を指揮棒の様に振るう。旋律を奏でる様に、純白の魔方陣が無数に現れた。
「先ずは、このどんよりとした空気を綺麗にしましょうかね。祝福の聖域(マスターの記憶では、ほとんどの攻撃は効果が無い…でも…弱点はある)…私が主導権を握ります!」
魔方陣が重なり、神聖属性が広大な部屋の隅々まで行き渡る。
最凶の部屋の中は、天使の羽が舞い落ちる様にキラキラと輝いていた。
≪神聖属性…オリジナルなら効果はあっタが、ムダだ≫
「無駄かどうかは、やってみないと分かりませんよ!ギガ・ホーリーレイ!」
グリーダが杖を振るう。
ゴオオオ!極太のレーザーが邪神の胴体に直撃。
後ろに突き抜ける程の神聖属性による高エネルギー。
≪ククク。コレが、痛みか≫
邪神の胴体にポッカリと穴が空いた。
しかし邪神の表情に動きは無く。
ギュルギュルッ。そして胴体が再生していく。
「浄化されずに再生…神聖属性なら再生出来ない筈ですよ」
≪ククク。普通なラそうダナ。だが我は持っているんだヨ。ディヴァイン・サンダーレイン≫
ドドドド!聖なる雷が落ちる。「そんなの卑怯ですよ!シールド!」グリーダは雷を受け流す。
グリーダは泣きそうになりながらも、邪神を睨む。
「…まじですか。邪神のくせに…邪神のくせに神聖属性使わないで下さいよぉ!」
弱点無いじゃないですかー!叫ぶグリーダは魔方陣を複数展開。
「でもダメージはありましたよね!ギガ・ホーリーメテオ!」
ゴオオオ!上空から聖なる隕石が墜ちる。
≪ムダだ。ホーリーシールド≫ガガガガ!聖なる隕石は全て聖なるバリアに阻まれた。
「あほぉぉー!!」
グリーダ叫ぶ。「どないすれば良いんや!」感情剥き出しに。
≪だカラ、ムダだと言ったろウ。我に弱点は無イ≫
「ぬっふぅぅ!それなら!」
グリーダは邪神に向かって駆ける。
≪ム?デスペリア・グラビトン≫
ズンッ!「ぐっ」グリーダの足は超重力に押さえ付けられる。
「それぐらいじゃ止まりませんよ!テレポート!」
邪神の後方に転移「ぬふふー!呪術!ウィークポイント・ルーレット!」
杖を邪神に押し当て魔法を発動。グリーダの呪いを無理矢理押し付けた。
≪何を?チョコまかと。ブレイジング・バーストアウト≫
ボオオン!邪神を中心に大爆発。「にぎゃ!」グリーダは吹き飛ばされた。
激しい衝撃にグリーダの身体はピンポン玉の様に跳ね、ゴロゴロと転がる。
「…つつ、痛いですね。でも、やりましたよー!」
ポンポンとローブを払い、ぬふふと笑う。そして邪神に向き合った。
≪何を…したノダ?≫
「それはですねー!邪神ちゃんに弱点を1つ植え付けたんですよ!これでダメージ倍増ですね!」
≪フンッ。たったソレダケか。全テ跳ね除けてやろう≫
不敵に笑う邪神の顔。その顔を歪ませてやりたいグリーダは多数の魔方陣を展開していく。
「私にとっては大事なんですよ!ブレイジング・サン!」
グリーダは走りながら蒼い小太陽を放つ。
ゴオオオ!邪神に直撃。
しかし邪神を少し焦がした程度。
「次は!ブリザード・ストライク!」
ヒョオオオ!凍てつく冷気を叩き付ける。
邪神の身体が所々凍っているが、効果はあまり見られない。
「これ!ガトリング・メテオ!」
ドドドド!隕石群が邪神を貫いていく。
だが直ぐ様再生していく。
「まだまだ!ハイ・プレッシャー!」
ギシギシ!空気の圧力が邪神を押し潰していくが、邪神はビクともしない。
「あれ?ギガ・ホーリーレイ!」
ゴオオオ!極太のレーザーが邪神を貫く。
穴が開くが、先程と変わらない再生スピード。
「……ダークネス・フォース」
暗い闇の力が邪神を包む。
邪神の力が上がった。
「……」
≪……終わりか?≫
「……邪神ちゃん。弱点教えて下さい」
≪……≫
弱点を1つ植え付ける呪い。だがそれは何が弱点になるか分からない。しかも1度しか掛けれない呪い。
「後は、無属性?マジック・キャノン」
バシュン!魔力の塊を撃つ。
パシン。だが邪神の手に払われる。
「…なんで払うんですか。邪神らしく受け止めて下さいよ…後は…重力と時空はルーレットに無いし…」
ぶつぶつと呟き考えるグリーダ。その隙に邪神が魔方陣を展開していた。
≪我の番だナ。ブラッディ・ディザスター≫
ドドドド!どす黒い濁流が辺り一面に流れ出る。
「_っ!隙を突くなんて卑怯ですよー!」
濁流から逃げるグリーダ。「テレポート!」上空に転移。
「卑怯な邪神ちゃんはお仕置きですよー!デスサイズ!」
杖が大きな鎌に変化。透明に輝く刃がキラリと光を放つ。
「無双滅殺斬!」ザシュ!邪神の肩を斬り裂く≪グオオ!≫「あれ?」
斬り裂いた肩を見る。神聖属性の攻撃よりも、邪神の再生が遅い事に気付いた。
「…弱点は物理攻撃でしたか…そうですか…」
ちゃんと呪いが効いていた事に安堵したが、問題がある。
「私、インドアなんで物理攻撃が苦手なんですよ」
魔女っ子なので、魔法が使いたいグリーダちゃんの闘いは続く。




