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訓練を眺める

こんにちは。予告通りタイトルは短くしておきました。

 王国へと戻ったカナンは何事も無かった様に平日を迎え、学校へ行く。教員室で留学証を出した時は心底驚かれたが、王国の教会で本物と確認が取れた為留学が許可された。


 家族には自由にしなさいと一人前として扱われているので、特に問題は無い。



「結局教会では何をするの?」


「なんだっけ?週一で皿洗いして、空き時間にダンジョン潜って、勇者の一人を鍛えるって感じ?」


「それって別に留学する必要なくない?」


「無いけど、無駄な授業受けなくて良いから留学した方が得だな」



 モリーが呆れた目で見てくるが、カナンは至って真面目に答える。修了証は教皇に書いてもらうので、極端な話、卒業式に出れば良い。合法的にサボれるのだ。利用しない手は無い。



「そうそう、親戚のエルフの叔父さんから聞いてね。カナンに伝えようって思ってて忘れてたんだけど」


「んあ?なんだ?エルフの叔父さんって魔国とエルメスの外交官だっけ?」


「うん。まぁまぁ偉いらしいよ。でね、魔国に魔王が現れたらしいよ」


「…へぇー、日常会話でする話じゃねえよな。で?どんな魔王?」


「そこまではわからないけど、そのお陰で魔国が沸いて好景気らしいよ」



 情報通のモリーが言う噂は信憑性が高い。一体どこから情報を仕入れるのか、友達が少ないカナンにはわからない。そして魔王が現れたという情報はとても興味深い物だった。



「魔国じゃ魔王は崇められる存在だもんなー…ありがとう。ちょっと週末になったら自由だから確認してくるわ」


「相変わらずフットワークは軽いね。人間は嫌われてるから気を付けて。確認出来たら教えてよ」


「はいよ(そういやモリーってエルフの血が入っているから俺と仲良く出来るのかな?)」



 妖精霊の呪いはカナンや嫁達が力を付ければ付ける程、リーリアと矢印の能力が上がり効果が強まる。半ば諦めているが、人間で仲良くなれる者は大事にしようと心に決めていた。



(妖精霊の呪いの効果が薄い人間は、例外を除いて転移者とおっさんだけとか…)



 週末までは日常を過ごす。留学に関しては魔導具科の授業で王女にグチグチ言われたが、今度デートをするという約束をして事なきを得る。



「…王女が外出したら騒ぎになるよな。穏便に済ますなら変身能力を持っている…琴…グリーダに頼んでみるかな…でも面倒な未来が待っていそうで怖い…」



 きっと琴美なら喜んで身代わりになってくれるが、あのウザ変態を世に解き放っても良いものかと頭を悩ませた。




 週末になり、溟海の家に居る面々に魔王の事を話したら、確認宜しくとの事。


 アイと紅羽は先日の闘いで力不足を痛感し、修行に励むと言われ。サティと月読は愛の授業がまだ終わっていないのでパスと言われた。


 残るは溟海と暇妖精リーリアと暇精霊矢印。溟海は魔国の上層部に顔バレしているので面倒事はごめんだと見送り、暇妖精と暇精霊は付いてくる事に。



『アキー!やっと私の出番が来たね!』


「女神が星のエネルギーを使ってアホみたいな勇者召喚をしたせいで、調子悪かったもんな。体調は大丈夫か?」


『だいじょうぶいだよー!月読が星の力で治してくれたんだ!流石女医さんだねー!』



 リーリアと矢印はそのまま付いていくと騒ぎになるので、別の精霊石の中に作った別荘があり、そこに入って行く事に。


 何も言わず魔国に行くのは勝手なので、まずは大教会へ行き、教皇と意見交換をした方が良いと思い大教会へと向かった。




「という訳で。旅行に行くので後は宜しくお願いします」


「わかったよ。任せて!カナン君のお陰で仕事が凄い楽だから、いくらでも旅行に行っておいで!」



 まず大教会の洗い場エリアの面々に旅行に行くと伝える。何週間も魔国に行く訳は無いのだが、一応念のために報告。


 しばらくは洗い場エリアに用は無いので、調理施設を出て勇者の訓練場を目指す。健次の様子を見る為だ。


 奥にある制限エリアに入り居住区を抜け、サッカーを3試合同時に出来そうな広さの訓練場に到着。隅っこの芝生に座り訓練を眺める。



「健次は居るかなー…居た居た。独りで寂しくランニングしてる。ってあれは影分身した2号の方かな?」


『あれが勇者達かー。なんか弱っちいね』


「まだ召喚されて3ヶ月?くらいの転移者だから弱いのは当たり前だな。訓練も生ぬるいしそんなもんだろ」



 勇者達は幾つかのグループに別れ、模擬戦等を行っている。聖弥は騎士と刃引きの剣を使い、打ち合いをしている。両者互角の闘いを繰り広げていた。


 特に面白い闘いでは無いので視線を移す。聖女の楓が魔法の訓練をしている。魔方陣を展開する程の物ではなく、詠唱を行い魔法を行使していた。まだ熟練していないので魔方陣を使える様になるには時間が掛かりそうだ。



「んー…命のやり取りが無いから成長は遅いだろうな。健次1号は何処にいるんだろ?1号ー」


「アキ、1号はやめてよ。もう洗い場は終わったの?サボり?」


「俺ぐらいになると公式にサボれるんだよ。修行は順調かい?」


「ああ、影の中で修行してるから誰にも邪魔されないし集中出来るから、影の忍術は便利だよな」



 普段は2号に日常を任せ、1号は影潜りで影に潜って過ごしているそうだ。2号を戻せば記憶は手に入るので便利な影分身。今も2号がランニングをしているので影からカナンに話し掛けている。


 ボーッと訓練を眺めていたが、独りでランニングをしている2号が数人に囲まれていた。



「なあ健次。2号が足掛けられたりして虐められてるけど、いつもあんな感じ?」


「そうだなー。ランニングをしていたら足掛けられたりは日常だし、模擬戦なんてやったらボコボコにされるし、役立たずと言われながら魔法を撃ち込まれたり…あれ?かなり虐められてるな…」


「流石ぼっち勇者。それは立派な虐めだなー。誰も助けてくれないのか?」


「うーん…最初は止めてくれる人は居たけど、最近は見て見ぬ振りかな。調べた所に寄ると、騎士団の連中が落ちこぼれの勇者である俺を助けたら待遇を下げると吹き込んでいるらしいよ」


「ふーん。俺が健次の担当になったのも原因かな?騎士団に嫌われていると思うし」



 以前騎士団副団長を完敗させたカナンは、副団長派の騎士団に敵視されている。完全に逆恨みなのだが。因みに団長は長期の公務に出掛けている。強硬派の仕業だろう。


 健次と話していると急に健次が黙り出した。カナンの元に近付いてくる者がいるからだ。



「隣、良い?」


「どうぞー勇者さん。「刹那」…刹那さんね。俺はアキ」


「棚橋を鍛えているんじゃないの?囲まれてるけど」


「あー…まぁ良いんじゃないか?2号(健次)は弱いからな。刹那さんこそ助けないの?」


「棚橋が弱いのが悪い」



 小柄な眠たそうな目をした勇者。刹那は魔法系統の能力を持っている為、聖女達と訓練していたがカナンを見つけ抜け出して来ていた。



「まっそういう考えは嫌いじゃない。この世界は弱肉強食だからな。じゃあもし勇者の中で一番強かったら見直すか?」


「さあ?あの魔力じゃ有り得ないけどね。別にどうとも思わないかな。それより聞きたかったんだけど」


「なんだい?」


「ドラゴン討伐の際、棚橋と二人で上の階段から見ていたけど転移魔方陣で戻ったの?」


「そうだぞ。下に行けば各階層毎に転移魔方陣があるから、そこから帰れるんだよ」


「…どんなボスだったの?」


「最初は4匹の炎龍だよ。王種級の」


「…そう…私も連れていって」



 カナンは刹那と目を合わせジーッと見詰め合う。行きたいという強い意志が感じられるが、カナンと行動する事の意味を分かっているのか気になった。



「言っておくが、俺は騎士団の半数以上に嫌われてるぞ。健次みたいに嫌われて、はぶかれて虐められる事になるけど?」


「それでも構わない。多分アキに付いていくのが、強くなる一番の近道だと思ったから」


「ふーん。強くなってどうするんだ?」


「これからこの世界で、不自由無く生きていく為」


「…くくっ。魔王を倒したら元の世界に帰れるんだろ?」


「…帰れないかもしれないと思うのは当然の事」


「まっそうだな。何事も色々なパターンを想定するのは賢い。だが、刹那さんは俺に何をしてくれるんだ?」



 ただでは付いて行く事も、鍛える事もしない。そう言う様に目線で訴える。刹那はふぅっとため息をしてカナンを見つめる。



「分かった。嫁「却下」……それが駄目なら何も無い」


「色々あるだろ…まぁ良いや。とりあえず騎士団に睨まれるのを覚悟で体験学習でもするか?それからどうするか決めな」


「分かった。…ありがとう」


「ちゃんとお礼を言えるなら見込みがあるな。どこぞの聖女さんは挨拶もしないしお礼すら言わないからなー。…じゃあ行くか」



 影の中にいる健次に行くぞと言い、頭を下げていた刹那を連れてダンジョンへ向かう。カナンに気付き近づいて来ていた聖女の楓が、カナンの嫌味でフリーズしているのが見えたので、さっさと訓練場を出る。


 因みに聖弥も気付き近付いて来ようとしていたが、カナンが足をバインドで固定していたので顔面から転んでいた。



「終わったら教皇さんの所に行くけど来る?面白い話が聞けるかもよ?」


「…行く」



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