教皇と飲もう
「「「「乾杯!」」」」
キンッ、とロックグラスを当て乾杯を祝う。カナン、教皇、健次、ゴイームの面子が教皇の部屋に集っていた。
「なぁ、アキ…飲みに行こうって言うから付いてきたけど…教皇様が居るって聞いてねえぞ…」
「おっちゃん固いこと言うなよ。教皇さんだってストレス溜まってんだ。話し相手になってやれよ」
「ゴイーム君噂はかねがね聞いているよ。あの鉄拳のゴイームと杯を交わすなんて嬉しいよ」
「俺場違いじゃね?しかもこれウイスキー…」
ドラゴン討伐成功を祝してという名目でウイスキーを飲んでいく。全員祝う気持ちなど全く無いが名目は必要だ。
「気になってたんだけど、教皇さんって女神教っぽく無いよね。雇われ店長みたいな感じ?」
「あぁ教皇なんてやりたく無かったんだよ。のんびり司教でもやってようとしてたら前教皇の名指しで指名されちゃってさ…」
「だからお飾り教皇なんて呼ばれてんのかー。あっ失礼しました」
「いや良いんだよ。実際そうだし…面談で余計な事言うんじゃ無かったー!あー旅行行きたい!」
「親戚のおじさんみたい…うわ…このウイスキー度がきつい」
酔いが回って素で喋りだす教皇。威厳は無い。強硬派との兼ね合いで日々ストレスを抱えている様だ。
「そういや南に温泉あったな…(温泉をストレージに入れて複製していけば源泉かけながし?違うか?)…あっそうだ。魔族の国攻めるってほんと?」
「……ん?魔国なんて攻める訳無いだろ。そんなのただの戦争だぞ?え?勇者から聞いた?……もしかして強硬派の連中の仕業か?……えー…もうやだー…」
「俺は騎士達にも役立たずとしか言われて無いから、そんなの知らなかったな」
「魔国を攻める様なら俺は指南役を抜けて帝国に行くぞ。魔族は殺したくねえ。強硬派のトップって副団長の親父だろ?」
頭を抱え駄々をこねる教皇。酔いが回って頭が痛いのか、悩んでいるのかわからないくらいフラフラとしているが、とりあえず飲むのは続けている。
「とりあえず健次に、強硬派に毒されている勇者の調査してもらったら?そういうの忍者っぽいし」
「でも大丈夫なのか?健次は確かレベル4だった筈。何かあったらやられるぞ?」
「あっ大丈夫大丈夫。健次のレベル今50だから」
「「…は?1日で?」」
「俺に掛かればこんなもんさ。聖弥は?45かー…やっぱり裏技は偉大だな」
「凄いな…他の勇者は?駄目?…仕方ない…じゃあ健次君に調査を依頼する。報酬はちゃんと払う」
「…わかりました。頑張ります」
忍者の隠密を生かして勇者の調査をする事になった健次。風呂場に潜入する時は呼んでくれというカナンをスルーして、依頼の詳細を聞いていく。
「これが強硬派のリストだ。で、これが勇者に付いている指南役達のリスト」
「了解しました。じゃあ明日から調査します…」
「あっ教皇さん。勇者達にした契約ってどんな契約?」
「それは教徒になり、女神様の加護を強める契約だぞ……え?違うの?多分逃げられない様にする契約?なにそれ」
「教皇さん…ほんとお飾りだな…」
「否定はしない…最近雑用が多くて勇者様達を中々見れないのは強硬派の仕業だったのか?やたら儀式があるのも?」
辞めたい辞めたいと呟く教皇が負のオーラを纏っている。浄化を掛けてみたが効果は無い。
「いっその事、強硬派のトップに教皇になってもらえば良いんじゃね?」
「ナゴル大司教が教皇に?波乱しか起きないぞ?」
「教皇辞めて隠居しようかな…良い場所無い?帝国?顔広まってるから駄目だな…もう少し遠い国が良いな…」
「なんだよ。チラチラ見ても俺の国は教えないぞ。教皇辞めたならそこに隠居しても良いけど……んー…強硬派の目的とか丸わかりになりそうだから辞めたら?真っ正面から叩き潰すと気持ち良いし」
ボーッと考え出した教皇。ため息が時折漏れているが、他の者は気にせず飲んでいた。
早くに健次が潰れ、ゴイームはドラゴン討伐の疲れからか眠りに入り、カナンと教皇が残る。
「そろそろ帰ろうかな。気晴らしになったかい?」
「ふふ、ありがとう。良い夜だった。…アキ、君は何者なんだい?」
「俺はただの魔法使いさ。って言っても納得しないか…そうだな…真の勇者アランが魔王を倒した後、何が起きたか知ってる?」
「…聖女イリアスが残した書物では…魔王を媒介に邪神が顕現…勇者アランでは全く歯が立たない程の…」
「その邪神を倒した奴は書いてあったか?」
「…藤島…_っ!まさか!」
「さっ、眠いから帰るわ。またな、教皇さん」
返答はせず、にやっと笑い教皇の部屋を後にする。バタンと扉が閉まり、扉を見据える教皇。イビキをかいて寝るゴイーム。酔い潰れた健次が残された。
「…知る人ぞ知る、神殺しの大英雄……くっくっく。君は物凄い大物じゃないか。酒を交わせるなんて光栄だ。だが彼は悲しみを背負った世界を憎む存在…だからグリーダを…しかし何故ここに…」
教皇は教会の行いが全て正義とは限らないと宣言した、聖女イリアスのファンだ。異端とされながらも自らの意思を曲げず、わが道を突き進んだ彼女はこの世界の女性の憧れる存在。それは200年経った今も変わらない。
現存する書物は全て読んだと自負する彼が知っている、禁書庫の奥にあったイリアスの手記。
「聖女の役目は果たした。愛する人を探しに行く…か…」
勿論教皇は聖女イリアス同様、大英雄である藤島秋のファン。彼に関する書物を探しに、視察と言いながらファー王国に出向いた大ファンだ。
「飲み直そう。本当に、良い夜だ」
年甲斐もなく少年の様に心が踊り、真夜中を照らす月を眺めながらグラスを傾けた。
カナンは少しほろ酔いでダンジョンへ向かう。ふと見えた中庭に勇者の男女が密会しているのを見つけ、若いねぇーと言いながらダンジョンに入る。
「んー…コンドーさんでも開発するか?ゴムだし難しそうだな。保留保留」
踊り場の魔方陣に乗り、最下層へ。バシュンとたどり着いた3つの黒い扉がある踊り場。
「喧嘩は終わったのかな?」
ギィ。扉を開け、グリーダの部屋を少し覗いてみる。
「……」
中央でテーブルに向かい合い、椅子に座り談笑している二人が見えた。仲直りしたのかな?とよくよく観察する。
「……」
白い下着姿の琴美が、黒い首輪を付けて優雅に紅茶を飲んでいる。その首輪から伸びるリードを持つ銀髪の女性。
月読は左手にリードを持ち、優雅に紅茶を飲みながら微笑んでいる。月読の身体には黒い縄が張られており…
「…でね!でね!…ん?あっ!マス__バタンッ!
「さっ、国に帰ろう」
愛の授業の成果が出ている事にさぞかし師匠は喜んでいるんだろうと感じながら、ファー王国を目指した。