歓迎会
昼過ぎに、溟海の家にある湖に到着し降り立つ。
「月読、着いたぞー起きろー」
≪ん…今裸だから服着る≫
「…今度一緒に寝ようか」「了解」
寝る時は裸。カナンはこの言葉を心に深く刻み付ける。
その時、外周をランニングしていたカタリナに遭遇した。
「リナ、ただいま」
「はぁ、はぁ、あれ?兄ちゃん。おかえりなさ…いぃ!!」
「ど、どうしたリナ」
「うぉ…おぅふ…ぬ…ぬ…ぬぁに!銀色の女医さんだとぉぉぉ!」
「…あっ、はい。良く分かりましたね」
いつもの通りカナンをふがふがしたカタリナは驚愕し、ワナワナしている。
「女医さんとか卑怯じゃねえか!大人の診察始めますってヤツか!?おぅ!?兄ちゃんの大好物じゃねえか!!おぅ!?襲われたのか!!おぅ!?……うぅ…また…また…兄ちゃんが女作ったー!いぃぃやぁぁぁぁ!アイざぁぁぁーん!」
カタリナは逃げ出した。
「………」
「お待たせ。妹?愉快」
女医さんスタイルで登場した月読に、妹が荒れる未来を想像する。もうエンゲージしちゃったものは仕方ない…そう言い聞かせて溟海の家まで向かう。
知らない魔力を感じたのか、アイ、紅羽、サティ、リーリア、矢印、溟海が家の前で出迎えた。アイの後ろにはカタリナがカナンを睨み付けながらうーうー唸っている。
「ただいまー紹介するよ。超越種、極智の銀皇。月読だ」
「宜しく先輩方」
「よろしくー。アイでーす」「紅羽だ。よろしく」「私はサティエル、サティって呼んで。秋ちゃんの性奴隷なの」『リーリアだよー!』「…カタリナ」「私は溟海。宜しくね月読さん」
それぞれ挨拶を済ませ、溟海の家で雑談しながら昼食を食べてゆっくりしていた。アイ、紅羽のエンゲージの変更は月読が家を作ってからにするという事に決まり、カナンのプライベートが消え去る瞬間でもあった。
月読とサティは眠そうな顔と無表情の顔を合わせ、ブツブツと喋っている。何かフィーリングでも合うのだろうか。
「月読が皆に馴染んで良かったよ」
「フフ、私は大歓迎よ。これから何年も一緒に居るんだから多い方が楽しいし」
「アキ、ダンジョンのグリーダはどうするんだ?アキの事大好きなんだろ?」
「ああ、まあ、うん…あのウザさ…会ったら分かるぞ」
一瞬琴美の顔が頭を過るが、頭を振り記憶の片隅に追いやる。
カナンはよしっと立ちあがり、パンパンッと手を叩いて皆を注目させた。
「じゃあ交流を兼ねて、闘いますかー!」
「くふっ、歓迎会」
「ちょっと移動しようか。リナは溟海さんと見学な」
「うん、頑張ってね」
山から離れた草原に移動。充分な広さを確認して魔方陣を展開。
「あ、溟海さん水の結界よろしくー」
「結界ね」
シャー。水がドーム状に広がり結界を形成。直径一キロにも及ぶ結界が出来上がり、その中に闘う面子が入る。
「俺は魔法の維持があるから審判な。月読対アイ、紅羽、サティちゃんでやろうか。絶界」
ブンッ!水の結界の内側に絶界を形成。更に銀色と白銀の魔方陣を展開させる。
「準備あるからちょっと待ってな………よし、出来た。魔法進化!エターナル・リヴァイブ・フィールド!」
白銀の魔力が絶界内に充満し、フッと空気中に浸透。これで絶界内では死なない様になった。
「魔力の関係で制限時間は一時間かな。この中ならどんな攻撃でも死なないから思う存分闘って良いぞ」
「流石ねー」「よしっ暴れよう」「秋ちゃん…終わったらエッチしよ?」
「称賛。楽しもう」
アイ、紅羽は力を解放。サティは魔装の準備、魔方陣を展開。
月読は星魔銀のアクセサリーを外し、魔力を解放。
ドオン!月読の隠蔽していた魔力が跳ね上がり、銀色の螺旋を描く。
強大な魔力にアイ、紅羽の顔が引きつった。
「アキ…本当に…月読ちゃんに勝てたの?」
「ああ…なんとか…」
「アキ…我は少しビビっているぞ」
「死なないから…大丈夫」
「秋ちゃん…やっと良い感じのバイブ魔法開発したの…」
「ブレないね…サティちゃん」
月読の眠そうな目が開き、真面目な顔になる。そして対峙する三人を見据えた。
「始めよう先輩方。殺し合いを」
_______
_______とある地下にて
「いっざすっすーめーやー地下ー!めーざすーはー深淵ー!」
ご機嫌で地下へ地下へ進むキリエ。進むスピードは遅く、かれこれ1週間も進み続けていた。
「…たー!_おっ?抜けた?」
直ぐ下に空洞がある感覚。頭を下にして空洞の中を覗く。暗かったので、暗視の魔法を発動。
「水脈でもないし、熔岩の通り道?にしては違うし……もしかして…巣?」
空洞は大きな筒状になっており、左右に分かれずっと先まで続いている。
「どっちに行けば会えるかな?……んー……んー?」
ズリズリ。ズリズリ。何か這うような音が響いて来た。
「これは、当たりかな?…まだかなー」
ゆっくり進んでいるのだろう。ズリズリと空洞を進む音。
「おっ来た来た。……うわ……やば」
やがてゆっくりとキリエの下を通る黒い物体。形は定まっておらず、闇がそのまま形になった様な不安を煽る黒。
(予想通り。お伽噺話に出て来た魔物だ…それにこの懐かしい気配)
神話の時代。女神と闘った、闇という概念が意思を持った魔物。人々にとって絶対悪な存在。
この世界の大人達はお伽噺話を読み聞かせながら、子供に言い聞かせる。夜遅くまで遊んでいると、絶望に魂を抜かれるよ…と。
(絶対種、イービル・デス・イーター)
ズリズリとキリエを無視して進む闇。暫くすると闇は見えなくなった。
「追いかけよう。安全に逃げられそうな場所に行ったら聞いてみよう…そして」
空洞の上を通り、静かに絶望を追いかける。
「混沌の神の魂を貰いに行こう」




