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聖女と話す

「おっちゃん、お勧めどれ?」

「あー、ここかな。女子にも人気だし」



 3人で食堂へ行き、ゴイームお勧めの定食を頼み3人で席に座る。見慣れない人物に周りはチラリと見るが、従業員や指南役は入れ替りが激しいので、また新しい人か位にしか思われない。



「カナン。何やらかしたんだ?副団長と闘うなんて」

「んー、暇な日は勇者達の相手でもしようかなって思ったら、周知の為に闘う事になったんだよ。因みに闇の日はここの洗い場で働いてるぞ」


「…くっくっく。あれは傑作だったな。でもやり過ぎるなよ。勇者達そんなに強く無いし。ところでその可愛いらしいお嬢さんは彼女?」

「ルーナ。嫁」



 月読は自慢する様にダイヤの指輪を見せる。「その歳で…結婚だと…」ゴイームの顔が引きつった。



「まぁ週末は居ると思うから……あっ、教皇に留学の推薦書書いて貰えば学校行かなくて済むな…たまに帰れば良いし…流石に学校を特定されたくないから、どこに出しても使える書類にして貰うか」


「一緒に居る時間増える?」

「ああ、そうだな。その前にアイ達に挨拶しに行くか」

「了解」


「ほんと12歳には見えねえよな…強すぎだし」

「才能なんて無かったから必死に努力したんだよ」



 努力でどうにかなるもんか?とゴイームは疑問に思うが、カナンが嘘を言っている様子は無いので自分も努力が足りない事に少しの嫉妬が芽生えた。


 朝ごはんを食べ終え、ゴイームと別れて教皇の部屋へ向かう。月読は寝ると言ってカナンの中に入って行った。



「アイも紅羽もサティちゃんも自由だから、月読と気が合いそうだな。…でも青、赤、白、黒、銀の皇が揃った訳か…後は緑と黄色……本当にどうなる事やら」



 考え事をしながら教皇の部屋に到着。ノックをしても返事は無かったので、勝手に入ってソファーに座り資料等を読みながら待つ事にした。




 コンコン。「ん?来客か?どうぞー」



「失礼します。…あれ?教皇様じゃない?誰?」


「俺はアキっていうただの一般人だ。俺は教皇のおっさんの事を待ってるんだけど、用事があるなら伝言でもするかい?」


「あ、いや大丈夫。知ってると思うけど、私は聖女って呼ばれている楓っていうの。私も待って良いかな?」


「…どうぞ」



 ノックと共に現れた聖女。天草楓がやって来た。カナンの向かいにあるソファーに座り、対面する。


 間近で見ると可愛らしい顔付き。肩まで伸びた黒髪の前髪をヘアピンで止めて、見た感じは普通の高校生に見えた。



「……」「……」



 少しの沈黙。



「…聖女さんは転移者?」

「えっ?あ、うん。地球っていう所から来たんだよ」

「どうやって来たの?」


「学校の教室に魔方陣が現れて、少し女神様と話して気付いたら大教会に転移していたんだ」


「話?どんな事を話したの?」


「魔王を倒して欲しいって言われたんだ。そしたら元の世界にも帰れるし、転移した時間に戻れるからって」

「ふーん。それだけ?」

「後は、この世界で得た能力を持ったまま地球に戻れるって言われたから、皆頑張ってるよ」



 にこやかに話してくれる。カナンが少年だから話しやすいのだろう。カナンは、地球に戻れるのが嘘だって分かったらどうなるかなー、と思っていた。間違いなく暴走する奴が出る事は間違いないと。



「あっ、凄く強い男の子が指南役になるって聞いたけどアキ君の事だよね!副団長をやっつけたなんて凄いね!」


「あーそうだなー。よろしく。もう1人俺の嫁さんも指南役になるからよろしくなー」


「…嫁さん?結婚してるの?」「してるぞ」


「うわ、流石異世界…凄いね」



 楓は目をまん丸にして驚いている。まだ日本の常識が根強いので無理もない。色々とカルチャーショックがあるのも知っているので、カナンは心の中で頑張れとエールを送る。



「ねえ、聖女さん。この世界には偶然転移して来る人も居るんだよ。日本人も多いんだって。聖女さんの周りには行方不明の人とか居たらこの世界に居るかもね?」


「行方不明…うん。居るけど…何か事件に巻き込まれたとかだと思うよ。この世界に居たら…そうだね。何がなんでも会いに行くかな…」



 はははっ、と乾いた笑いを浮かべる楓。カナンはこりゃ当たりかなー、どうしよっかなー、と考えていた。



「その人は恋人?」

「ふふっ、違うよ。親友なんだ。3年くらい前に急に居なくなっちゃってね…どーこ行ったんだか…」


「へー、親友。茜ちゃんが聞いたら喜びそうだな」


「喜んでくれるかな?茜とはいつまでも親友でいようねって……あれ?私、茜の名前言って無いよね?」


「ああ、言って無いな」

「なん…で、知っているの?」


「そんなの茜ちゃんに聖女さんの事を聞いたからだけど?」

「えっ?嘘!?居るの?この世界に!」



 身を乗りだしカナンの肩を掴む楓。その目は期待と不安が入り交じり、混乱を必死に抑える様に涙が溢れて来ていた。



「ああ、居るぞ。でもこの近くには居ないけどな。とりあえず落ち着きな。逃げやしないから」


「あっ、ごめん…どこに、居るの?」


「こことは違う国だよ。会わせても良いけど条件があるかな」


「…条件?何?」


「身構えなくても大丈夫。簡単だから。この事は他の勇者達に言わない事、それが条件だよ」


「でも…聖弥が…あの、御堂聖弥って人には言っても良い?ずっと茜の事探していたの…」


「駄目だね_(御堂聖弥に言うのは、まだ後だな。そいつが原因で色々あったみたいだし)_もしかしたら茜ちゃんが会いたく無い人とか居ると思うし、聖女さんは一番仲が良かったと聞いたから伝えただけ。飲めないなら俺からの情報はこれで終わり」


「…分かった」



 渋々了承する楓。その顔は納得出来ない不満が見える。高校1年なので、何故駄目なのかは分からないだろう。この世界の常識は浸透しておらず、勇者という立場を持っている事は頭には無い様子。



「約束だよー(この様子じゃ絶対言うな)…破ったら俺からは何も言わないし動かない。自分で探してね」


「…冷たいと思わないの?」


「全く思わない。この世界で、見返りも無しに探している人に会わせるんだ。感謝して欲しいくらいだね」



 敢えて言わない。取引の材料になる案件を見返りも無しに無償でやる事は、余程のお人好しでない限りこの世界では有り得ない。


 薄く笑うカナンを睨む楓。睨まれる道理は無いのだが、そこら辺はまだまだ子供だな、と観察していた。



「……」「……」



 再び沈黙が支配する。



(そういや中学に入って御堂聖弥が原因で、一部の女子グループに虐められていたんだっけ?こいつ知ってんのかな?)



「あの…」ガチャ。


「おお、ここに居たのか。探したぞ。っと聖女様も一緒でしたか」

「やあ教皇さん。待ってたよ」

「…こちらで待たせて頂きました」



 沈黙を破る様に教皇が入ってきた。手には色々資料を持っている。秘書ぐらい付けれよ…と社畜を呆れた目で見た。



「教皇さん、俺学生なんだけど留学の推薦書を書いて欲しいんだ。そしたら平日もたまに来れるぞ」


「学生だったのか…たまにって…まぁいいか。推薦書だな。学校名は…汎用型の書類良い?…分かった」


「後、この部屋鍵くらい付けたら?誰でも入れるぞ」


「鍵を直ぐ無くすから付けていない」「あっ、そう」



 じゃっ宜しく、とカナンは退出する。楓が何か話したそうにしていたが、そのまま出ていく。



「さてさて、聖女様は約束を破らずに我慢出来るかな?」



 今日はもう教会に用事は無いので、物陰から飛び立ち溟海の家に向かった。

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