模擬戦
「月読、神聖と深淵魔法…後、ディヴァイン・セイヴァーとアビス・セイヴァーは使っちゃ駄目だからな」
「なんで?」
「光と闇の最高峰だからな。いくら星魔銀で力を隠しているとしても、万が一白皇と黒皇の力を持っている銀皇なんてバレたら、女神が我先に手に入れようとしちまう」
「心配?」「勿論」
くふふと嬉しそうに笑う月読を見て、カナンは前から思っていた。いくら極智の銀皇でも強過ぎると。
パーフェクション・ストレージが無ければ勝てるビジョンが浮かばないくらい。秋の扉に居てもおかしくない程の強さ。あの変態グリーダよりも強いと思わせる安定感。
そしてカナンが聞いてみたら、月読はあっさりと答えた。極智の白皇と極智の黒皇の力を持っていると…
「後、その服変えようか。女医さんスタイルとか勇者達が勘繰るし」
「嫉妬?独占?」「いや、まあ…そう捉えても良いよ」
時空魔法を付与した黒いローブ、時空の衣と汚れない清潔な服を一式渡す。そして目の前で着替える様子をスタイル良いなー、とボーッと眺めていた。
「秋、したくなった?」
「いや、キリエちゃんに似なくて良かったなって…あっそのポーズ良いね」
「元主は貧乳だから…そこは同じにならない様に、本気で願った」
「元?あぁ、エンゲージしたから今は俺か…早く服着なよ」
月読の胸はDカップ程。そしてキリエの胸は絶壁だ。龍王が料理中の一言。まな板取ってに反応してボコボコにしてしまう程気にしていた。
現在のキリエは進化して、胸は少し成長している。そのお陰で常にご機嫌だ。
「後は、ダイヤ包丁は危険だから精霊樹の木刀もいるか。着替えは複製して沢山あるし、後は…何か欲しい物ある?」
「…指輪」
「あ、はい。どうぞ」「指輪…くふふふふふ。グリーダちゃんに自慢しよ」
「…ほどほどにな(これでメガネしたら、サティちゃんと服装もろ被りだな…)…髪は纏める?」
「纏める。ポニテ?それにする」
腰まであった髪を纏め、後で留める。服装はバッチリ。顔は眠そうなので締まらないが準備は完了だ。
時刻は朝方。教皇の部屋で待ち合わせしていたので向かう。白仮面は着けずにいつものメガネを着用。白仮面は大犯罪者というのを払拭するのが難しい為。
別にカナンとバレても特に問題は無い。人間が太刀打ちできない程の力を持っている自覚があり、その時は堂々と生きれば良いと思っているからだ。
教皇の部屋に到着。中には2つの気配。誰だろうと思いながら中に入る。
「教皇さん来たぞー」
「おお、待っていたぞ。こちらが話していた者達だ」
「…教皇様、この者達が本当に魔王になったグリーダを討伐したというのですか?私には信じられません」
中には教皇と30代の神殿騎士の姿。豪華な鎧を装備しているので騎士団長か副団長と推測。訝しげな表情で此方を見据えている。
「どうも(まあ魔力をあまり感じない女子供って印象だよな)。信用出来ないなら帰るけど良い?別に勇者を鍛えたい訳でも無いし」
「いや、待ってくれ。非礼を詫びよう」
「_なっ!教皇様!頭を下げるべきではありません!無礼者はこの者達です!教皇様の御前で跪きもしない者等この場所には相応しくありません!」
「副団長!黙っててくれないか?」
「ぐっ…かしこまりました…」
こちらを睨み付ける様にしている騎士団長を見て、カナンのやる気がドンドン下がっていく。月読は話に興味が無いので、眠そうにボーッとしていた。
それを察した教会の社畜…いや教皇が話題を振っていく。
「本当に済まない…上にあがる程頭が固くなってな…いや、ちょっ、帰らないで!」
「帰るチャンスだったのに…教皇さんは大変だねぇ。じゃあ闘うかい?」
チラリと騎士を見ると、望む所だという様にカナンを見下しながら頷く。それを見た教皇がため息を付いているのを見て、今度酒でもあげるかな…と心の中で呟いた。
四人で修練場まで移動。制限エリア内に入り、一般的なグラウンド程の大きさの修練場に到着。
修練場には神殿騎士、指南役、朝練をしている勇者がチラホラ見える。朝方に教皇が訪れるのが珍しく、こちらをチラチラ見ていた。自然と教皇の周りに人が集まっていく。
「新しく指南役になる予定のルーナ殿と…名前…アキ?アキ殿だ。忙しい身なので毎日は無理だが、来れる日は来てくれるそうだ。これから神殿騎士副団長との模擬戦をしてもらい、実力を観てもらおうと思う」
『子供と若いねーちゃんか。本当に指南役なんて勤まるのか?』
『良い女だな。夜の指南役でもしようかな?ガハハハ』
『……』
神殿騎士は黙って聞いているが、冒険者の指南役はざわざわしている。騎士が睨んでいるので、あまり仲は良くない様だ。
副団長が刃引きの剣を持ち、1人中心へ歩く。
「二人纏めて掛かって来い。その性根を鍛えてやる」
「月…ルーナ、自信がおありみたいだけど…どうする?」
「おっさん嫌。秋宜しく」「はいよ」
カナンは1人歩き、中心へ向かう。その間月読は周りから話し掛けられている様子だが、喋るのが面倒なのか無視して威圧を放つ。すると月読の周囲から逃げる様に人が遠ざかった。
「なんだ、1人ずつ鍛えて欲しいのか。じゃあお望み通り鍛えてやるよ」
「面倒だなー。こういうの多いなら辞めよ」
『子供が副団長に勝てる訳無いよな。俺達でも勝てないのに』
『ああ、なんか怒らせたみたいだし、可哀想だが自業自得だな』
副団長は剣を構え、カナンはナイフを取り出しておく。別にいらないが形だけ。
「始め!」
「何処からでも掛かって来い。先制は譲ってやるよ」
「ん?良いの?じゃあ_」
「_なっ!」
『『えっ?』』『見えなかった…』
無拍子で近付き、副団長の首筋にナイフを当てる。
余りに呆気ない試合に周囲に沈黙が流れた。
「………」
「あれ?降参しないの?」
「ふ…ふざけるな!」
バッとカナンを振り払い、副団長は魔力を解放する。その顔はプライドを汚された様に怒りに満ちていた。
カナンはやれやれと肩をすくめ、見せ場が無いと可哀想かな?と終わるまで待つ事に。
副団長の鎧が緑色に染まって行く。
『あーアキって奴終わったな。魔装だぜありゃ』
『風の魔装だっけ?』
ゴオオ!やがて風を纏う鎧が完成し、準備は万端だと言わんばかりに自信満々の笑顔。
『あれが…副団長の本気か…凄い…』
『俺達もまだまだレベルが足りないな』
勇者達が副団長を尊敬の眼差しで見ている。
それを見たカナンは首を傾げる。グリーダの開発した魔装をサポートする魔装鎧で、魔装を展開するなんて誰でも出来るんじゃね?と。
実際は高レベルの魔装。カナンの基準が高過ぎるだけだ。
副団長が風を纏いカナンに駆ける
「行くぞ!ウィンドスラッシュ!」
「パリイ」キンッ!
「連撃!」
「パリイ」キンッ!キンッ!キンッ!
『アキって奴もよく防御してるよな』
『……』
『どうした?難しい顔して』
『あいつ、まだ一歩も動いて無いんだよ』
『…防御で必死なだけじゃねえか?』
『……』
徐々に周りの声が減っていく。気付いてきたのだ。副団長の激しい攻撃を、小さいナイフ一本で弾いていく異常さに。
「風属性で相手したいけど、俺って緑色が一番適性低いからインパクト無さそうなんだよな…パリイ」
キンッ!
「はっはっはっ!最初の威勢はどうした!ゲイルスラッシュ!」
キンッ!
「中途半端だと舐められそうだし…インパクトかぁ…インパクト…やっぱりデカイは強いだよなー…でも重戦車はオーバースペックだし…腕だけで良いか」
カナンは剣を弾き後ろに飛ぶ。そして魔方陣を4つ展開した。
『_なっ!複数魔方陣!なんて才能だ!』
『でもアイツから魔力感じないぞ?どうなってんだ?』
『なぁ何やってんだ?』
『あっゴイームさん!今副団長が闘ってて…』
「なんだ…それは…だが魔力なぞ感じないそんな攻撃は効かないぞ!所詮は子供騙しか!」
「ちゃんと避けろよ副団長さん。重戦車の左腕!」
ガシャン!魔方陣が重なりカナンの左腕を包み、現れた魔装。肘から先が鉄色の巨大な腕に。
バランス悪いなー、と呟きながら左手をグーパーして確かめる。
『おい…あれは魔装か?部分的に展開するなんて知らないぞ…』
『腕の魔装か?でもただのデカイ鉄の手にしか見えないけど』
『うわ…アイツ何やってんだよ…』
『ゴイームさん。アイツの事知ってるんですか?』
『ああ、まあ、うん…』
「んー…真っ直ぐ撃ったら危険だよなー…」
「なんだそのダサい腕は、そんな物断ち切ってやる!風断!」
ガキンッ!カナンの左腕を攻撃するが弾かれ、副団長の驚いている。どんな密度の魔装なのかと。
「良かったな、ここにサティちゃん居なくて。聞いていたら腕斬り落とされていたぞっと、終わらせるか」
ガシャン。飛び上がり左手を砲身に変え、副団長の少し横に標準を合わせる。大して魔力を溜めずに撃つことにした。
「動くなよー。波動砲」
ドオオオ!幅1メートルのレーザーを射出。副団長横の地面を貫いた
『『『………』』』
「……」
魔力の奔流に、一歩も動けなかった副団長。少しの放心の後、恐る恐る横の地面を見る。
底の見えない綺麗な円になった穴が開いていた。
やがてへなへなと腰を抜かし、ペタッと座った。
『うわ…悪い顔してんな…アイツを敵に回すとか何したんだよ…』
『そんなに強いんですか?アキって奴は』
『アキ?ああ、ここではアキね。アキは剣聖より強いぞ』
『『…えっ?』』
「あれー?おかしいなー!外しちゃったなー!もう一回「…参った」…んー?話に割り込まれたから聞こえなかったなー!」
「参った!これで良いんだろ!」
「ほうほう負けても態度は変わらないんだな!流石は誇り高き大教会の神殿騎士副団長様!負けたのに!その態度!負けたのに!」
「ぐぐぐ…ぐぞ…」
ニヤニヤと笑うメガネに副団長は憎悪のこもった視線を向ける。プライドを汚され、皆の前で恥をかかされた負の感情が溢れている。
周りの面々は引いている。負けてもなお追い討ちを掛ける少年に。可哀想なので止めてやりたいが、怖くて前に進めない。
そこに月読がトコトコ歩いて近付いて来た。カナンの袖を引っ張り、お腹すいた…と一言。
「食堂行くかー」「行く」
副団長を無視して食堂へ。途中ゴイームを見掛け、朝ごはん食べるけど来る?と誘い3人で向かう。
取り残された面子は呆気に取られ去っていく3人を見詰めていた。
「くそ!許さないぞ…」
副団長は恥をかかされた復讐を誓う。自業自得なのだが。




