夜のデートへ2
「なあ月読。今日は剣縛りで行かね?五月雨斬り!」
ギンッ!ギンッ!
「くふっ、賛成。オータム流は面白いな。こんな感じか?断罪流撃」
ギャリギャリ!ズシャッ!「ぐぁ!」
カナンの連撃を弾く流れる斬撃に身体が両断される
直ぐ様再生したカナンは、月読がもうオータム流のコツを掴みかけている事に驚き
「流石!そんな感じだよ!無明剣!」
ザシュッ!「くっ…」楽しくなったカナンは次々と技を繰り出す
「上手。この身体は痛みがある。秋も同じ痛みか?アビス・セイヴァー」
深淵の剣を左手に持つ月読。その表情は無邪気な子供の様に笑い、白と黒のコントラストが月読の美しさを引き立てる。
「ああ、痛いぞ。でもそれ以上に…」
「「楽しいな」」「水華絶凍撃!」「光闇乱舞…」
ガガガガ!一面に無数の氷柱が迫り来る
パリン!パリン!それを白と黒の剣が高速で斬り裂いていく
「壌華壊斬撃!」「拡張…」
ドドドド!返す斬撃で再び無数の石柱を
バリバリバリ!「まじすか!」月読の剣が伸び、一気に石柱を破壊
「あぁ!やばい!炎華焦焔撃!」
ボボボボ!包丁を上に掲げ、無数の火柱が立ち昇る
「回天…」ゴオオオ!回転しながら火柱を斬り刻み
「あー強え!風華荒嵐撃!」
ゴオオオ!竜巻が荒れ狂う
「聖冥一閃…」白と黒の斬撃が竜巻を両断
「これで決める!秘技!」「くふっ、奥義…」
「咲き乱れろ!四元の華!」
ボボボボ!色取り取りの華が咲き周囲を破壊していく
「奈落の輝閃」
白と黒の剣を合わせ、神聖なオーラを纏う黒い大剣に
「うげ…」ザンッ!一閃
巨大な斬撃
華が深淵に呑み込まれ、浄化されていく
「のおぉぉぉぉ!」カナンも呑み込まれ浄化されていく
「……」
ボトッ。ボロ雑巾の様に転がったカナンを、首を傾げてつんつんする月読。
「…参りました」「くふっ歓喜、我の勝ち」
仰向けになり大の字で、あー負けたーと晴れやかな笑いを浮かべるカナン。月読は剣を解除し、直ぐ近くに座った。
「じゃあ先に教えて貰おうかな」
「ああ、良いぞー。ちょっと待ってな、身体が痛くて動けん」
「待つ。…そういえば……グリーダちゃんが秋はチューされるのが好きだと聞いた」
「…アイツの言う事は聞くもんじゃないぞ。…ちょっと近いです。月読さん」
「確かあんな事やこんな事も好きって…秋、動かないで。ムーン・バインド」
「はうっ!ちょっ!やめっ!__あーー!(グリーダめ!エロい事教えやがって!グッジョブ!じゃなくてお仕置きだぁー!)」
『…ま…す…たー!だ…めー!』遠くからライバルに塩を送った者の絶望的な叫び声が聞こえて来る。しかしカナンにはそれを聞く余裕は無かった。
「秋、愛し合おう」
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「あっ、月読ごめん。あの仮面…魔力を封印するのに使っちゃった。まだ半分残っているけど加工しようか?」
「…任せる」「…はいよ(指輪って言われるかと思ったけど…)」
解放されたカナンは月読の仮面を取り出し加工する。材質は星魔銀らしい。星魔銀を半分残し、ネックレスと収納を付与したブレスレットを渡した。
「…お揃い」「ん?ああ、そうだな。お揃いだ」
眠そうな瞳を細めて頬笑む姿に、可愛いなーと思いながら魔法を教えて行く。流石銀皇というべきか、魔法の覚えが早い。
「これなら来週にはエターナル・リヴァイブ習得出来そうだな」
「努力する。次…秋にも教える」
月読からディヴァイン・セイヴァーを教えて貰う。ライトソードの最上位魔法なので、カナンに取ってコツさえ掴めば直ぐに出来る。
「ディヴァイン・セイヴァー!…一応出来たかな」
「称賛」
10センチ程の神剣。セイヴァーというよりナイフだが、威力はライトソードとは比べ物にならない。月読の様に自在に使うのはまだ先だが。
「長さはダイヤモンド神聖包丁で使えば、伸びるから良いか」
「…欲しい」「良いぞ。料理出来ないと使い辛いけど」
「料理出来るから問題無い」「え?作れるの?」
ダイヤモンド製の、神聖属性包丁、闇属性包丁、星属性包丁を渡す。月読は受け取ると大事そうに収納リングにしまった。
「あっ、こんな時間。聖女に会いに行かなきゃ。ちょっと行ってくるわ」
「……」
時刻は以前、天草楓が祈っていた時間。カナンは急いで入り口から出て魔方陣に乗り、魔力を通す。
「えーっと何するんだっけ?とりあえず聖女と接触すれば良いか…でも教皇と一緒に居そうなんだよなー」
「浮気?」
「何言ってんだよ。茜ちゃんがこの世界にい…る…って!?なんで居るの月読」
「出たから」
「そんな簡単に出れるもんなの?」
カナンが首を傾げ疑問に思っていると、月読がカナンの胸に指を当てて悪戯に頬笑む。
「ま、まさか…」
「くふっ、エンゲージした」
「そんな筈は…重婚の場合は、俺からしか掛けれない筈……解析……うわ…強制エンゲージってなんだよ…」
月読が密かに掛けていた魔法。通常エンゲージは光属性と闇属性の複合。だがこの魔法は神聖属性と深淵属性の複合に星属性で強化してあるので最上位エンゲージとなっている。その為、融合も可能だ。
「…はぁ…まぁ良いか…」
問題を先送りにしてバシュンと転移し、礼拝堂で気配を消して階段を昇る。そしてふと気付くと月読の姿が無い。カナンはキョロキョロと辺りを見渡して首を傾げた。
「月読ー」≪何?≫「うおっ!何処に居るの?」
≪秋の中≫「……ちょっ…」
なんかもうどうでも良くなってきたカナンはそのまま教皇の部屋があるエリアへ。
「居るかなー。盗聴には何も聞こえないけど…そういえば、月読。俺の中ってどうなってるの?」
≪秋の中なら時空魔法や他の属性が使える。だから今一緒に部屋作ってる≫
「…そうすか…その内住人増えると思うから、大きめに作っといて…」
≪了解。先輩達が歓喜する程豪華な家作る≫
「がんばれー……ん?一緒に?」
月読に聞いてみたが返答は無い。集中している様だ。聞き間違いかと疑問を心の隅に追いやり、一度上に上がり祈りの間へ。
「誰も居ない…か。一足遅かったな」
祈りの間を後にして、階段を降りる。すると教皇の部屋に1人の気配があった。
「おっ、この魔力は教皇か。ちょっと話でもするか」
カナンは以前グリーダを討った時に着ていた、白いローブに白い仮面を着けてそろりそろりと部屋の中へ。
中では少し疲れた様子の五十代の男性の姿。一度見た時の威厳は無く、ただのおっさんにしか見えない。
「やあ教皇さん。お疲れかい?」
「誰だ!_お前はあの時の!」
「初めましてかな。警戒しなくて良いぞー。むしろ感謝して欲しいくらいなんだけどな」
「…どういう事だ?」
「グリーダは進化の秘術を使っていた…意味は分かるよな?」
「…グリーダは魔王だったと言うのか」
「そういう事。一応証拠として俺の記憶が入った魔法玉だ。ほれっ」
教皇に魔法玉を投げ渡す。教皇はカナンに促され、それを恐る恐る見ていく。最初の方、邪属性を使い魔王だと宣言するまでのグリーダの映像を見せた。
「…なんて事だ…我々は魔王に味方していたのか…」
「危なかったな。もしグリーダがキリエちゃんの身体を乗っ取っていたら、今頃沢山の人が死んでいたぞ」
「じゃあ…グリーダはもう死んだのか?」
「そうだな。この星には居ないぞ」
「感謝する…貴方は何者なんだ?我々の味方なのか?」
「味方かどうかは勇者達次第。俺は、そうだな…星の味方かな。後、何者かって言われてもただの魔法使いって答えるしかないんだけど……」
どう答えたら良いかよく分からず仮面の中で苦笑するが、教皇には伝わらず警戒はされたままだ。
教皇はどっと疲れた様に、少し老けた雰囲気で居る。
「とりあえずお疲れみたいだからこれ飲みなよ」
精霊水ベースの栄養ドリンクを渡し、飲ませる。するとみるみる生気を取り戻す教皇。
「おお!力がみなぎる!」
「まだあるからあげるよ。お近づきの印って奴」
栄養ドリンクを20本渡し、近くにあった椅子に座る。すると姿勢を正した教皇が此方を見据える。やけに真剣な表情。
「無理を承知でお願いしたい。勇者達を鍛えて欲しい!」
「うーん…ちょっと難しいんだよな。俺忙しいし…」
「そうか…あのグリーダを倒せる程の実力があるなら是非にと思ったんだが…」
≪我がやろうか?平日は暇。それに鍛えて強くなったら楽しめそう≫
(んあ?相変わらず戦闘狂ですね。まぁ殺さないなら良いけど)
≪努力する。名前はルーナにして≫
(ルーナ?なんで?)
≪月読は大事な名前。身内にだけ呼んで欲しいから≫
「(デレたな)教皇さん。教えるのをやるっていう人が居るけど?実力は…俺より強いよ」
「紹介してもらえるか?正直指南役のレベルが低くてな…」
剣聖には断られるし…苦労してそうに苦笑するおじさん。カナンには、このやつれたおじさんは社畜にしか見えなかった。
「ルーナ。おいで」
「宜しく」
「_っえ?キリエ様?」
「否」
「いや、でも」
「似てるけど違うぞー。キリエちゃんは行方不明だし」
銀髪でキリエと雰囲気が似ているが、顔は同じでは無い。姉妹というより、親戚と言えばしっくり来る程には違う。
「キリエ様が消えたのは女神様の神託で、魔王の仕業と断定されている」
「いや、魔王は関係無いな。復活してどっか行ったぞ。今頃ふらふら旅でもしてるんじゃねえか?」
「…どういう事だ?」
「さあ?女神の考える事はわかんねえよ」
「秋、戻る」「ん?おう」
少し混乱している教皇を待ち、明日月読の魔力カードを貰える様に手配する。一応明日は認知の為に模擬戦をする様だ。
「じゃあまた来るな」
「…分かった」
部屋を出て再びダンジョンへ向かう。踊場に行くと大きな箱が置いてあった。
「なんだこれ?__プレゼントです!開けたら貰って下さい!必ず!貰って下さい!__……行くか」
グリーダが入っていそうな箱を無視して銀色の魔方陣に乗る。何か叫び声が聴こえてきた気がするが気のせいだと流し、月読との修行を再開した。




