お仕事始めます2
「カナン君のお陰で昼過ぎまで楽だから、お昼休憩行ってきて良いよ」
「はーい」
昼休憩は食堂で食べる。カードを提示すればただになるので、カードを出して食堂へ。体育館程の大きさで、各料理のジャンルに分けられ、どこも三種類の日替わり定食がメニューにある。フードコートみたいだなー、とブラブラ歩きながらメニュー等を見ていく。
「近隣の家庭料理にしようかな。あっすみません。1の定食お願いします」
「はいよ」
カードを提示して並ぶ。位の高い者や勇者は、専用の出入口から入って別の場所で食べるらしい。
定食を受け取り、近くの席で食べる。イメージは山菜が乗った生姜焼き定食。
「味は、普通だな…ここら辺は山菜が多いのかな?まぁ山の麓が森だから当然か…」
後は特に感想も無く、食べ終わり返却コーナーに食器を置いてから、また席に戻り時間まで暇なので、紙タイプの古代の資料を読む事に。
「次は何作ろうか。一々部品が細かいから苦労するけど面白い物多いから…ん?」
すると少しのざわめきと共に、数名の黒髪の男グループが入ってきた。教会関係者は両手を胸の前に組んで黙礼し、他の従業員等は一礼して退出、もしくは食事等の行動を止め静観していた。
(なんだこれ。大手企業の重役が下請けの食堂に来た感じ?いや天皇が急に食堂にやって来た感じかな?)
迷惑なこったなー、とカナンはチラ見をして認識阻害眼鏡をしてから、資料を読んでいく。
「ちぃーす。…皆ノリ悪いなー。ねぇねぇジェシカちゃん今日も可愛いね。この定食宜しくね」「は、はい」
「おー和樹、お前ロリコンか?今週からずっと話し掛けているじゃねえか」
「うるせー、タイプなんだから仕方ないだろ。それに、新しく入った子には優しくしないといけないしな!」
どうやら細身の男子は気に入った女の子に会う為に来ている様だ。周りの状況を気にも留めずに食べ終わった後も、女の子に話し掛ける和樹と言われた男子の姿。
「お願い、今度デートしよ?」「え…い…いやあの…」
「おい、和樹止めとけ。周りを見てみろよ。勇者の品位って奴が損なわれるぞ」
「…ちっ、仕方ねえな。お堅いこって。ジェシカちゃんまたね」
大柄な男子に嗜まれ、口を尖らす細身の男子。へいへいと言いながら食堂を後にしていった。
そして周りの者達は、遅れを取り戻す様に慌ただしく動きだしていく。
「うわ…自分達がどういう存在か自覚が無いのか?皆の手を止めたのに一声掛けるとかしろよ…教会はどういう教育してるんかねぇ」
教会に疑問を感じつつ、昼過ぎになったのでカナンも洗い場へ向かう。
昼からはクリーンを駆使して夕方まで洗い場の面々と雑談しながら過ごした。
「エリアクリーン。っとこれで終わりですかね?」
「ありがとう!本当にありがとう!週一なのが本当に残念だが、来てくれたら奴らを見返せる!」
「ははは、まぁ出来る限りはしますよ…こういう仕事こそ評価されるべきですから」
ロブさん達の言う奴らとは、他の調理や配膳のエリアの人達だ。やはり食器洗いは下に見られがち。カナンは下積み時代を思い出し、週一で助けになるか…と苦笑した。
退勤は洗い場にある出退勤の魔導具にカードをかざし完了。着替えた後、制限エリア以外は出歩けるというのでブラブラ
途中の道で、黒猫がにゃんにゃん付いてきたが気にせず散策。
「制限エリアには勇者がいるって事で良いのかな。茜ちゃん見てると同じ世代とは思わないけど…」
先程の勇者を思い出すが、ただの高校生だなくらいにしか思わない。恵まれた環境だから仕方ないか…と付いてきていた黒猫を撫でた。
散策していると、何やら奥の方で同世代の男女が固まって訓練場の方を観ている。何だろうとカナンも近くに寄ってみた。
「きゃー!聖弥様よー!」「賢者様も素敵!」「今日も葵様は可愛いなー!」
あの場所から勇者の様子が見えるらしい。カナンも観てみると勇者達が訓練をしていた。どうやら同世代の従業員は16時に上がり、この場所で勇者の訓練を観るのが流行りになっている様だ。
「ふーん。あれが訓練か…あれ?あのスキンヘッドは、おっちゃんか?受かったのか。まぁその内会うからその時に聞こう」
「あれ?カナン?来てたんだ」
「おーヨシュア。今日から働いているよ」
ゴイームの姿を観ていると、試験で一緒に回ったヨシュアに出くわした。住み込みのヨシュアは、夕食まで勇者達の訓練を眺めているという。
「なんとか調理エリアで働けたよ。カナンは何処の配属?」
「俺は洗い場だな」
「うへえ…洗い場は一番大変らしいけど大丈夫?」
「ああ、驚くほど楽なエリアだぞ。和気あいあいと出来たし」
「えっ?そうなの?調理エリアとかで役に立たなかったら洗い場に回されて、皆辞めてくらしいんだけど…」
「じゃあいきなり洗い場に回された俺は、いらない子って事かな…」
せっかく頑張ったのに…落ち込むカナン。実際はバッカスが眠くて満点の点数を読み間違えたから洗い場に行ってしまった。しかしカナンにとっては楽な仕事なので、洗い場で良かったと思っているくらい。
現在試験でプリンを作り、満点を取ったカナンを料理長が待っているのだが、洗い場なぞに目を向ける事は無いので今も待っている状況。
「ヨシュアは誰が良いんだ?」
「僕?ジェ…あっ勇者様の事ね。僕は聖弥様かなー。真の勇者様って言われてるし、格好いいし。カナンは?」
「俺は今日来たばっかりだから分かんないなー。君は誰が好きなの?」
「えっ?わ、わたし?」
とりあえず近くに居た女の子にも聞いてみる。カナンは言ってから気付いたが、勇者に口説かれていたジェシカだった。ヨシュアをチラ見して、まぁ良いかと話に参加させる。
「そうそう、どの勇者?」
「暇潰しに観に来ているだけだから、誰が良いとか無いかな…よく分からないし…」
「俺もよくわからないんだよなー。なぁヨシュア、教えてやってよ。俺用事あるから」
「うぇっ!?僕?う、うん」
ジェシカの相手をヨシュアに任せ、ダンジョンに行く為にカナンは立ち去る。
「さて、行くか…そういえば月読って願い星で出てくるのか銀皇で出てくるのか?どっちだろ」
礼拝堂へ向かい、気配を消しながら地下への道へ。立入禁止の扉を開けて階段を下る。
少しするとダンジョンに入り、踊場に到着。すると魔方陣が増えていた。赤、青、銀、黒の魔方陣。そして貼り紙を発見。
「またグリーダかな?__マスター!それぞれの部屋の前に行ける魔方陣を設置しました!勿論到達者のみ行ける仕様ですよ!これで直ぐ私に会えますね!グリーダちゃんの部屋行きは黒色ですからね!直ぐに会いに来てくれたら良い事教えてあげますよ!良い事してくれても良いんですけどね!だから絶対来てくださいね!愛しのグリーダちゃんより__…良い事…まぁ良いや丁度聞きたい事あったし…」
今回はグリーダの言う事を聞いて黒色の魔方陣へ。魔力を通し、起動させた。
「よっしゃ、修行の時間だ」




