秋の扉
「んあ?…ああ、倒れたのか_っ!痛…たぁ…」
カナンは眠りから覚め、酷い頭痛を覚えながら起き上がる。自分の身体を確かめる様に手をグーパーして顔をしかめる。
「1週間は闘えないな。それにストレージが元に戻ってる…完全な進化魔法じゃ無かったから仕方ないか。でも希望が見えた」
一時的でも前世の力が使える。それだけで不安が解消される様な気持ちになっていた。時間を確かめる為に自作の時計を見る。どうやら数時間しか経っていない様子。安堵の息が漏れた。
「よし、今は朝方だから大丈夫。最悪迷子を装えば良いし。とりあえず宝箱でも拝みますか」
部屋の中心にある宝箱の前に立つ。開けてみると銀色の珠と透明な珠が入っていた。
「銀色は銀水晶、透明な珠は、魔法玉か?何か入ってるのかな?」
魔法玉に魔力を流してみる。すると、中に入っていた魔法の理論が頭の中に入ってきた。
「_なっ!これは進化魔法の理論!…うわ…すげえ……魔法名、星に願いを。……あれ?これ…もしかして、女神が使う願いの魔法か?…想いや願いを星のエネルギーに乗せて行使する魔法。それしか考えられないな…」
しばらく思考の海に潜り、なんか凄い魔法知っちゃった…と少し怖い気持ちになる。茫然としながら宝箱を眺めていると、何やら文字が書いてあるのを発見した。
「ん?__秋、名をくれた礼だ。また愛し合おう。ツクヨミ__ははっ、律義だねぇ。ありがとな。ってか殺し合うの間違いじゃねえか?」
そっと宝箱を閉じ、お礼を言う様に撫でる。宝箱が少し柔らかい雰囲気になった気がした。少し落ち着いたカナンは、軋む身体を伸ばしながら立ち上がる。
「さて、どうしようかな…まだ俺の扉が残っている。…覗いたら帰ろう。うん、そうしよう」
好奇心には勝てず、銀の部屋を出る。再び階段が続き、下り始める。
「雑魚敵が出ないのは本当に助かるな。一応横幅は広いから不自由無く闘えるけど、変な敵多そうだし」
しばらく階段を下りていくと踊場があり、分岐に差し掛かった。真っ直ぐ下る道と、右にある通路。床には矢印があり、真っ直ぐの階段にはボス、右は寄り道と書いてある。
「やっと分岐か、でも床に矢印があるのはどうなの?…まあ先に寄り道だよな」
寄り道を選択し、右の通路に進む。少し進むと見た事ある様な扉が現れた。
「これは、教会の地下にあった扉だな…恐らく禁庫以外はここに押し込められたのかな?」
ガチャリと開け、中を覗く。そこには先日忍び込んだ地下がそのまま残っていた。奥にある禁庫の扉だけが無く、他はそのままの姿。
「ふーん、やっぱりそうか。じゃあここには用は無いな。ボスの所に行こう」
教会の歴史的価値に興味は無いので、通路を戻りボスの道へ続く階段を下りる。
「あー、身体が軋むなー。…おっ!あったあった」
しばらく下りると踊場があり、真っ黒い扉が見えてきた。大きさは同じで変な装飾。だが扉の数が違っていた。
「メガネが飾ってあるのはどうなの?数も3つあるし、コアの感覚から言うと、ゴールは繋がっているからどれかを倒せば奥に行けるって事かな?」
正面と左右に扉がある。ゴールは繋がっている様だが、それぞれの扉からは強者の雰囲気、存在感が凄まじい。
「あー、すげえ力…左の扉だけ良くて相討ち。後は勝てないな」
とりあえず左の扉を眺める。装飾は全て同じだが、扉に書いてある文字は違った。
「最恐…恐い奴でも居るのかな?覗くだけなら良いか…」
最恐と書いてある扉を開け、覗いてみる。中は広大なスペースで遥か向こうに扉が見えるのは銀皇の時と一緒。だが中央に椅子があり、何者かが座っている。
「ん?人?拡大するか…テレスコープ。…黒い服に大きな帽子…顔は帽子で隠れて見えないけど魔女か?」
名前を確認する為に、少し中に入る。少し経つと名前が頭に浮かび、同時に座っている人物も顔を上げてこちらを見た。
「__ええぇぇぇ!!なんだって!?」
「あっ!マスター!」
バタン。カナンは即座に出て扉を閉めた。
「_ふぅーふぅー。落ち着け落ち着け!あいつは俺が…いや違う。あれはコピーみたいなもんだ…あー心臓に悪い!」
バクバクする胸を抑え、必死に心を落ち着かせる。深呼吸を繰り返す。
「そういや何か叫んでたな…」ドンッ!ドンッ!ドンッ!「うひゃあ!」
「マスター!開けて下さーい!マスター!マースーター!」
「…嫌だ」
「どうしてですかー!私のオリジナルがした事は謝りますからー!何もしませんよー!ナニはするかもですけどー!」
ドンッ!ドンッ!ドンッ!
「…キャラが全く違うぞ」
「そりゃそうですよ!私は私ですからー!お話したいだけですよー!本当ですよー!なんなら私の身体を好きにして良いですからー!」
「…話だけなら良いぞ…聞きたい事もあるし(うぜえ)」
「約束は守りますよ!開けて下さい!」
ガチャリと扉を開ける。そこには満面の笑顔で出迎える、黒い服に黒い帽子の魔女の格好をした人物が立っていた。どうやら扉を境にこちらには来れない様子。これ幸いと扉を開けた状態で対峙し、話す事にした。
「で?なんでお前がボスなんだ?グリーダ」
「ふふふー。それはマスターが私の事を考えていたからですよ!」
「…確かに考えてはいたな」
ダンジョンコアに魔力を通したのはグリーダを倒す前。得意気な顔をして、妖精の様な綺麗な笑顔を向けている。毒気の全く無いグリーダなので、カナンの心は混乱と困惑を行ったり来たりしていた。
「だ、か、ら。マスターの扉のボスになれたんですよ!」
「いちいちうぜえな。記憶はあるのか?」
「バッチリありますよ。マスターがオリジナルの記憶を取り込んだお陰です!ついでにマスターの記憶も貰いました!オリジナルの御詫びを兼ねて御奉仕しますよ!」
「いや、いらない」「なんでですかぁ!私も願い星ちゃんみたいに愛し合いたいんですよ!」
「え?観てたの?というかあれは殺し合いだし…」
「控え室でキャイキャイしてましたよ?名前貰った!って…私にも名前下さいよ!」
「やめろ、控え室とかダンジョンのイメージを壊すな。それにお前名前あるだろ。マジカ「言わないで下さい」…マジカル「駄目です!」……キュー「言ったら目の前でオ○ニーしますよ!」…そっちの方が恥ずかしいだろ」
カナンは目の前に居るグリーダを呆れた表情で眺める。憎しみ等負の感情が湧いてこない事に疑問を持つが、グリーダとは外見が同じなだけで、王女が成長してうざくなって強くなってうざくなった感じか?…と目の前の現実を受け止める努力をしてみる事にした。
「ところで他の扉はどんな奴が居るんだ?」
「マスターが良く知る方ですよ!とりあえず脱ぎましょうか?」
「なんでだよ。いや脱ぐなよ…疲れたから…気が向いたらまた来るわ」
「えー!行かないで下さいよー!私をイカせて下さいよー!」
「だから脱ぐなよ変態」
「マスターに言われたく無いですね。オリジナルに掛けた最期の魔法を掛けてくれたら引き下がりますよ!」
「はいよ、極・亀甲縛り」
ギュン!グリーダがエロく縛られ、色々な所が締め付けられていく。
「きゃうん!これが愛!マスターの愛ぃぃ!い!イ、イ!」
バタン。扉を閉める。うるさいので扉にサイレントを付与する。暫くして落ち着いたカナンは、こいつ恐い…と深い深いため息を付いた。
「なんかどっと疲れたな…一応他の扉を覗くか…最凶」
次は最凶と書かれた右の扉を開け、覗いてみる。物凄い邪気が溢れ、常人では1分と正気を保てない程。
「邪気がすげえな…さあどんな奴が居るのか………なぁ!?」
離れた場所にそびえ立つ異形の存在。全長は100メートルを超え全身が蠢いている。目の部分は閉じ、眠っているかの様。
パタン。名前が浮かんだ所で、直ぐに部屋を出て扉を閉めて深呼吸。
「………」
とりあえず見なかった事にして、最後に一番強い力を持った真ん中の扉を見る。書いてある文字を見てあれ?と首を傾げていた。
「あれ?一番強そうな扉なのに…最恐、最凶と来たら普通最強とかじゃないの?もうお腹一杯だから驚く事は無さそうだけど…」
疑問と違和感を持ちつつ、扉を開け少し中に入ってみる。少し薄暗い室内。広さは左右と同じ様だが、天井の部分には星空が広がっていた。
そして中央にあるソファの端に足を掛けて寝ている人影。それを見てカナンの全身が総毛立つ。
だらだらと汗が流れ、乱れる息を抑えながら、そっと退出した。
「……よし!帰るか!」
また見なかった事にしよう。そう言って階段を上ろうとすると、出口はこちらと書いた魔方陣を発見。
「帰りは楽なんだな。願い魔法を習得したらまた月読と闘いに来るか」
魔方陣の上に立ち、魔力を流す。転移の魔方陣が起動中、3つの黒い扉を眺めていた。
「このダンジョン誰が攻略出来るんだろうな……超越種、マジカルキュートウィッチ・グリーダちゃんリターンズ。神種、出落ちしました邪神ちゃん。そして…」
真ん中の扉。変態の文字が刻まれた扉。
「変態種、藤島秋。何故普通の名前なんだ…」
今度グリーダに聞いて見よう…そう呟いた所で転移が発動。扉の前が再び静けさを取り戻した。
ちょっと仕事が忙しくて疲れが出てるみたいですかね…つい勢い余ってしまいました。グリーダちゃんをこんなキャラにする予定じゃ無かったんですよ…
星に願いを~星属性、願い魔法。想いや願いを星のエネルギーに乗せて行使する魔法。因みに女神は星から搾取したエネルギーを使用しているので、世界樹ちゃんは栄養不足になりつつあります。




