凶悪ダンジョンの下見
赤い大きな扉。高さ4メートル、幅3メートルの両開き。所々黒い装飾のある刺々しいデザイン。
「なんか紅羽っぽい扉だな…一応オーナーの意識も少しは読み込んでいるから、紅羽っぽいボスなのかな?」
しげしげと扉を眺めた後、少し扉を開けて中を覗いてみる。
「…えっ?…これが最初のボス?」
そっと扉を閉めて深呼吸。あり得ない光景に、少し混乱した様に頭を振り、再び中を覗いてみる。
「赤い龍、白い龍、蒼い龍、そして黒い龍…」
それは紅羽と始めて会った時に、紅羽が召喚した4色の炎の龍を模した魔物。一体の大きさは20メートルを超えている。カナンが混乱するのも無理は無い。最初の扉はいわば初心者講習の様なモノだからだ。
「赤、白、蒼は上位種級、黒は王種級…強すぎでしょ…こりゃ勇者達瞬殺じゃね?」
改めて最高位ダンジョンだと思わせる難易度に、何度目かのため息が漏れた。
「まぁでも全部炎ベースだから俺に取っては楽なんだけどな」
少し混乱はしたが、余裕の表情で中に入る。中は広く、天井も高い。前方に次のエリアに繋がる扉が見えるが、横を見ると先が見えない程に広がっている。
入って来た侵入者に龍達は反応。グルルルル!と唸って威嚇している。
「_あっ!中に入ったら魔物の名前が浮かんできた!……スーパーウルトラ4色炎龍……うわ…だせぇ」
戦慄した表情で複数の魔方陣を展開。
カナンの言葉を聞いたかの様に4色龍が接近し息を吸い込む。
「いきなりブレスかよ…溟海さん直伝!アクア・フィールド!」
青色の魔方陣を重ねて魔法を発動。
ゴオオオ!4色のブレスがカナンを襲う。ドオオオ!直撃するが炎の奥の人影が動く様子は無い。
炎が晴れるが水の壁を作るカナンにダメージは無かった。部屋の中の空気に青色が混ざる様に、青色の輝きが舞う。
「水壁。超位級のダメージじゃ通らないぜ。水断!」
ザシュッ!「ギャッ」水の薄い壁が赤い龍の中心に墜ち、赤い龍を両断。
溶ける様に龍が消滅した。
「確か魔石だけ残るんだっけ?1日経ったらこの部屋に復活するから便利だよなー」
素早く白い龍の下に潜り込み、腹の部分に手を当てる。
「水爆」
ドンッ!手から伝わる衝撃。白い龍が爆発し四散した。
「ガアァァァァ!」蒼い龍は怒りを露にし、黒い龍はカナンの強さに吃驚する様に身動ぎをしている。
「まだまだ行くぞー。噴水!」
ゴオオ!「グギァアア!」蒼い龍の下から水を噴射し天井に叩き付け、貼り付ける。
「ゴアアァァ!」ジュッ!黒い炎のブレスが迫るが水の壁に阻まれた。
「時間無いからサクッと行こう!濁流!」
ゴゴゴゴ!「ギャァァァアアア!」大量の水に流される黒い龍。部屋の何処かに流されて行った。
「…終わったかな?」
テクテクと前方の扉に向かう。押してもびくともしない。
「あれ?…あー引くのか」
扉を引くとギィ!と開き、部屋を後にする。出るとまた部屋があり、中央に赤い宝箱が存在していた。
「おっ、宝箱だ。にしても良い修行場になりそうだなー。オード兄さんと茜ちゃん放り込んだら強くなって帰って来るかな?」
中央の宝箱の前に立つ。1メートル程の大きさで鍵は無く、少しワクワクしながら開いてみる。
「若いダンジョンだから、そんなに良いのは無いと思うけど……おー!赤水晶か!すげえ良いな!」
宝箱の中身は赤い珠。この魔力を取り込むと赤色適性が上昇する特殊な魔石。
「能力アップアイテムが貰えるダンジョンってRPGだと裏ダンジョン並みだよな…」
ははっと笑い、宝箱に他に何もない事を確認。前方にある扉を開けると、踊場があり、再び降りる階段が続いていた。
「ずっと続く階段か…奈落への階段みたいだな」
少しの寒気を感じながら階段を降りていく。まだ時間はあるので行ける所まで行くつもりでいた。
「ボスがあんな感じだと雑魚敵はどんな奴なんだろ?来週潜入したら勇者辺りに聞いてみるか…でもこのダンジョンの名前、少し恥ずかしいな…」
頭に浮かんだこのダンジョンの名前に恥ずかしさを感じながら降りていく。やがて扉が見えて来た。
「やっぱり次は青の扉か。アイの意識を参考にしてる様だけど想像付かないなー」
大きさは前回の紅羽っぽい扉と同じ、色が青色で濡れた雰囲気。とりあえず見るか…と少し扉を開けて覗いてみた。
「……うん、アイっぽいボスだな…」
部屋の中は湖の様になっており、中心に咲く青色の巨大な華が見える。とりあえず中に入ってみた。
「こいつも王種級だな…名前が…くっ…超ゴージャス綺麗な水華…このネーミングセンス…やべえダンジョンだな」
超ゴージャス綺麗な水華。その名前の通りキラキラと輝く気品ある華。大きさは30メートルを超え、見上げる高さにダリアの様な大きな華が咲いている。湖の中心に咲く様子は幻想的で、静けさが支配していた。
「綺麗だからなんか倒すの勿体無いな…超ゴージャス綺麗な水華…」
湖の端から眺めていると、ゴオオ!超ゴージャス綺麗な水華から青色の魔力が噴出。
「おー!もっと綺麗になった!青色特化だから問題無しかな」
水の針が無数に出現。ドドドド!カナンに衝突していく。
カナンは気にせず魔方陣を複数展開
「様子見って奴かな?潰してみるか…ガトリング・メテオ!」
魔方陣が黄色に染まり、無数の隕石が出現
ドドドド!超ゴージャス綺麗な水華を貫いていく
バシュン!バシュン!バシュン!水の中に岩石が落ちる様な音が響いた。
「水で出来ているのか。ダメージ無しだな」
ガトリング・メテオが収まるとギュンッ!と水の形状記憶の様に華が元通りになる。
「蒸発させるか、ブレイジング・サン!」
魔方陣が赤色に輝き、蒼い小太陽が出現。ゴオオ!超ゴージャス綺麗な水華に衝突。
ボコボコと蒸発していく華。やがて10メートル程の大きさまで縮んだ。
「あー、やべえ。水蒸気が花弁に変化してる」
蒸気が次々と変化。ヒラヒラと舞い落ちる青い花弁になり、周囲を舞う花吹雪へと変貌していく。
「いちいちゴージャス綺麗だな。これに触れたら斬り刻まれるのか…」
花弁が落ちると地面にサクッと突き刺さる。鋭利な刃物が満遍なく敷き詰められた空間が出来上がってきた。
「歩いても刻まれ、泳いでも刻まれるし空気中にも花弁があるな…しかも1枚で上位魔法並みの攻撃力とかチートだろ…」
綺麗だなー、と青い花吹雪を眺めていたが、時間が無いのに気付き攻撃を再開する。
「これで決めるか…」
黄色と緑色の魔方陣を複数重ね合わせる。徐々に形を変えて立体魔方陣へと変化させた。
「ウィルダネス・サンドストーム!」
立体魔方陣が黄色と緑色に輝き魔法が発動。
ゴオオオ!特殊な砂嵐を出現させ、超ゴージャス綺麗な水華を包み込んだ。
ギシッギシッギシッ!砂嵐に触れると途端に花弁が枯れていく
花弁で攻撃を仕掛けようとするが、全て砂嵐に阻まれ枯れていく。
「……」
やがて砂嵐が晴れた先には、超ゴージャス綺麗な水華の姿は無く、荒れ果てた湖の跡地が広がっていた。
ひび割れた地面を見詰め、少し切なくなるが意識を振り払って前方の扉へ向かう。扉を引き中に入ると、先程と同じように部屋になっており、中心に青い宝箱が存在していた。
「ボスが終われば宝箱は統一かな?……やっぱり青水晶か…これ通ったらかなり強くなれるぞ」
青水晶をストレージにしまい、部屋を出る。やはり先程と同じように踊場があり、降りる階段が続いていた。
「まだ脇道とかは無いのかな?数ヶ月したら迷路とかもありそうだけど…」
少し駆け足で進む。次は何かなーと期待を込めながら進んで行くと、銀色の扉が見えて来た。
「…星属性に特化した魔力…やっぱり聖女キリエは復活していたか…」
銀色の扉を眺めながら魔力を調べていく。白、黒、銀色の魔力が渦巻き、今までのボスとは違う強さを感じた。
「あー、どうしよ…これ以上は一人じゃキツイか?ちょっと覗いてみよ」
例の通り扉を少し開き、中を覗いてみる。じーっと覗いていたカナンはそっと扉を閉めた。
「うん、強いわ。星属性特化の魔物とか王種超えてるぞ」
直径5メートルの宙に浮く銀色の球体。その周囲を直径50センチ、白と黒の2つの球体が衛星の様にぐるぐる回っていた。
「なんとかなるかな?なるよね?駄目なら逃げるか…幸い閉じ込められる事は無さそうだし…」
意を決して扉を開けて中に入る。中は先が見えない程に広く、遥か前方に扉らしき物が見えた。ふぅーっと深呼吸をして目の前の魔物を見据える。
「よし!…ん?名前が浮かんで来た……あれ?普通の名前…_じゃない!?」
勿論迷宮オリジナルの魔物なので、カナンの知らない名前の魔物。
「願い星~私は願う。彼と再び愛し合えるその日まで!~……は?……サブタイトル付きの魔物だと!」
そんなの知らない…顔を引きつらせながら、これがキリエの意識を読み込んだ魔物かと思うと、サブタイトルを付ける様なキリエの性格が少し分かった気がした。
「う…うぜえ」
アクア・フィールド~青色禁術、環境魔法、青色属性に有利な領域を作り出す。青色属性なら思い描いた魔法を繰り出せる。
ウィルダネス・サンドストーム~黄、緑色複合禁術。特殊な砂嵐を発生させて荒れ果てた大地を作り出す環境破壊魔法。