再び大教会へ
寝かせたゴイームを連れて南へ向かう。一泊二日の予定なのでゴイームに防御魔法を掛け、ぶっ飛ばして行く。
「南の方は暖かいのかな?とりあえず霊山は避けていこ」
高い位置から見下ろす景色はゆっくり進んでいるが、ジェットの理論を応用して魔法を組んでいるので以前よりも速いスピードで飛んでいる。
「真っ直ぐ行くと雨雲だしどうしよ…上に行くか」
前方に薄黒い雲が見えたので高度を上げて雲を見下ろす高さまで上昇。一旦停止して辺りを見渡す。一面に雲海が広がり、晴れ渡る空が広がっている絶景を拝むことが出来た。
「ここまで上がった事無かったけど、綺麗なもんだな。一応魔物もいるのか、雲の魔物?ガスかな?」
ゆらゆらと漂う生命体が見える。クラゲの様に上下しながら白い身体を揺らしている。
「不思議な魔物だな。害は無いみたいだから行くか」
一通り眺めた後、風に乗りながら雲海の上を飛び進む。時折見える魔物は見た事の無い者ばかり。少しワクワクしながらも進んでいった。
やがて太陽が傾いてくる頃になり、ダンジョンコアの場所が近くにある感覚を覚え、地上に向けて下降していく。
「とりあえず街でおっちゃん下ろして、散策するか」
雲を抜けると大教会と下に広がる街が見えてきた。霊山の方から視線を感じる。慈悲が見ている感覚。カナンは、秋だとバレなければどうという事は無い、と言い聞かせて気付かない振りをした。
街の路地裏に降り立ち、ゴイームを下ろす。掛けていた魔法を解除。起きる様子は無いので、ペシペシ起こす事に。
「おっちゃん、着いたぞ」
「んあ?着いた?……まだ夕方になっていない…着くの早くね?」
「頑張ったんだよ。じゃあここからは別行動だから、無事指南役になれる事を祈っておくよ」
「ああ、悪いな。知り合いが居る聖なる宿木っていう宿に泊まるから、暇な時に来てくれ。お礼くらいはするぜ」
「はいよ。情報聞きに行くかもしれないからよろしく。明日までは居るけど、来なかったら気にしなくて良いから」
ゴイームと別れ、カナンは聖女復活ショーが開催された広場まで歩く。メガネは掛けず、服装は巡礼者と同じく白いローブ。グリーダの件以降、学校以外で掛ける事は少なくなった。肩まで伸びていた髪の毛も短くしている。
「髪も切ったし、闘技大会の件はバレないと思うけど、バレたらバレたでまぁいいか…」
白を基調とした街並みが続き、路地裏は生活に溢れ、大通りは店が並んでいる。因みに夜の風俗店は無い。教会のイメージが損なわれるという事なのだが…
広場に到着。そこでは何やら行列が何列か出来ている。大教会へ続く階段の横に受付があり、武装した者達や、一般人が並んでいた。武装した者達の中にゴイームも発見。
「おっ、案内板がある。ここで受付して、簡単な書類審査、面接、実技、合格すれば勇者との面談か…就職セミナーみたいだな。あれ?指南役だけじゃないのか、メイド等の世話役、給仕や料理人も募集している…人が足りないのかそれとも勇者がわがままなのか?…んー…ん?」
一般人向けの案内板の隣は学生や子供向けの募集があり、ほうほうと読み進める。
「試験内容は一緒だけど週末のみ可能、応相談ってアルバイトみたいだな……週一日ならやっても良いか、面白そうだし。面倒なら辞めても大丈夫っぽいし」
軽い気持ちで料理人の列へ、見習いでも募集はしているので同じ年代も多い。その中に溶け込み順番を待つ。すると後ろに並んだ料理人見習いと思わしき少年が、カナンの肩をポンポンと叩き話し掛けてきた。
「ねぇねぇ、料理人希望なの?」
「ん?そうだぞ。学生だから週一希望だけどな」
「へえー学生なんだ。僕は家が料理屋でそこで働いているんだけど、料理人見習いでも募集しているって聞いて試しに受けにきたんだ。_あっ!僕ヨシュアって言うんだ!よろしく!」
「俺はカナン。ヨシュアって優しそうな良い名前だな」
「へへっ、ありがと。カナンは学生って言うけど、どうして受けるの?」
「あー、面白そうだからかなー。(なんかモリーみたいな雰囲気だな)ヨシュアの家ってどんな料理なんだ?」
「んとねー…」
モリーと似た雰囲気の可愛い感じの少年と仲良くなるのに時間はかからず、気さくに話しながら順番を待つ。
やがてカナンの順番になった。受付には白いローブを着た教会関係者らしき男性。
「こんにちは。料理関係の募集でしょうか?」
「はい。(学生って言うと通勤時間に矛盾が起きるよな…)料理人見習いで週一日、闇か光の日に希望です」
「了解しました。では、左手にあります記入台でこちらの紙の太枠の部分を記入し、15番受付に並んで下さい」
「はーい」
記入台へ行き、少しごわついた紙に必要事項を記入していく。名前、所属、受ける理由、自己アピール等、履歴書と似た様に記入していく。
ヨシュアが書き終わるのを待って15番受付に向かう。ここからは分散されている様で、列の並びは少ない。
「見習いの列かな?同じ年代が多い」
「そうだね。書類渡したら実技だって。根菜の皮剥きと、一品何か作るらしいよ」
「へえー。随分しっかりと試験をするんだな…待ち時間が長すぎて眠いんだけど」
「まぁ勇者様に料理を作れるって思えば、待つぐらい苦に思うなって事じゃない?」
「言うねぇー」
並んでいる若者は緊張した面持ちで、メイド等の他の列は貴族らしき者も並んでいる。奥のスペースで実技試験をしているのが見てとれた。
一応平等なんだなー、と教会の評価を上げるがトップが女神なので評価は直ぐに下がるだろう。
暫く待ち、順番がやってきた。書類を渡し、奥のスペースに案内される。
「ではこの包丁で芋の皮剥きをお願いします。速く綺麗に出来れば合格ですよ」
「お姉さん。頑張るから見ててね」
担当が綺麗なお姉さんなので張り切るカナン。ここで皮剥きが下手ならそこで終了。ここでふるいに掛けられる様だ。
鉄製の包丁と、芋を渡され、切れ味に不安のある包丁に少し魔力を流しておいた。
「では、始めて下さい「終わりました」……へ?」
開始の合図と共に瞬時に皮を剥く。担当のお姉さんに芋を渡すと、お姉さんが目を見開き、剥かれた芋を眺めた。
「…完璧です…君、名前は?」
「カナンですよ。綺麗なお姉さん」
「ふふっ、上手ね。合格よ。このまま終わらせてあげたいけど一品作ってもらうから奥に行ってね」
パチリとウインクされ、満足したカナンは奥へ行く。また少し待つ様だ。待っているとヨシュアがやってきた。
「カナン、見てたけど凄いね!あんなに速い皮剥き初めて見た!尊敬するよ!」
「ふっ、皮剥きは誰にも負けない自信があるんだ。ヨシュアもこのまま行けば一緒に働けるな」
「そうだねー!」
少し待つと順番がやってきた。調理する台が並び、少年少女が料理を作っている。15分以内に作って基準点以上なら合格。見習いなので勇者の面談は無く、そのまま採用という形だ。
この試験は後1ヶ月程募集しているそうで、その間は何度でもチャレンジできる。
「一般的な食材を使って一品作ってください。では始めて下さい」
「はーい。(こんな大量の食材、余らしたら勿体無いよな…教会はそんなに財力あるのか?それだけ勇者に期待しているのかな)何作ろうかな…」
何も考えていなかったカナンはボーッと考え、作り慣れた物で良いか…と卵を手に取る。
「プリンで良いや。3分あれば作れるし」
卵、牛乳らしきミルク、砂糖をよく混ぜ、濾してから容器に入れ蒸していく。蒸す時間は魔法で加速させているので直ぐに出来、料理名を卵を使ったデザートと記載して提出した。
「終わった終わった。結果は後程発表ね。見習いは20人が定員か…こんなに人を募集してどうするんだろ…」
「カナン。やっぱり速いねー何作ったの?」
「ああ、これだよ。食べる?」
ヨシュアに保存しておいたプリンを渡し、結果を近くで待つ。ヨシュアはお気に召した様子だ。待っていると資料を持った教会関係者がやってきた。
「あっ、結果出るかな?名前呼ばれたら良いみたい」
「…ジェシカ・バズさん!ヨシュア・オーレさん!」
「へえー。…ヨシュア呼ばれたぞ」
「やった!…カナンはまだ呼ばれないね」
「…シム・クレイさん!…おー満点…すげえな…カナン・ミラさん!以上の方は此方に来てください!」
「あっ、呼ばれた」「やったね!」
内心ヒヤヒヤしていたカナンは、ヨシュアと係員の所へ。
「こちらのカードを順番に渡しますので、魔力を流して下さい。準備等がございますので、来週大教会内部の受付にてカードを提示して案内を受けて下さい。お疲れ様でした!」
魔力カードを受け取り、合格者達は解散していく。
「お互い合格出来たな」
「へへっ、やったね。見習いじゃなかったら落ちてたけど、運が良かったよ」
「ちょっと回る所あるから、また来週な」
「あ、うん。またね!」
日が暮れる頃、ヨシュアを別れ、カナンは街をフラフラする事に。
「あー、受からなかったらどうしようってまじヒヤヒヤした…馬鹿にされずに済む」




