寒くなってきました
「んぅ…あれ?暗い…ライト」
ベッドの上で目が覚めたキリエは起き上がり、灯りを付けて辺りを見渡す。地下深くで見つけたグラトニー・サンドワームの巣。その中には金銀財宝と言っても良い程に武器や防具、アクセサリー、金貨、調度品、等が積み上がっていた。
「そういえば寝てたんだっけ。1週間くらい寝てなかったから沢山寝ちゃった。…んー?少し黄色の魔力が馴染んだけど、芋虫ちゃんは魔法特化じゃないからあんまり適性上がらないなぁ。やっぱりディープイエローの核じゃないと駄目なのかなぁ?とりあえずもっと吸収してみよ」
直ぐ近くに落ちていた剣を拾いまじまじと眺める。所々酸で溶けた部分が見えた。
「芋虫ちゃんに食べられた冒険者の剣かな?溶けてるけどミスリルだから高く売れそう。でもこんなに持って帰れないしなぁ…_っあ!私、次元を越えてアキ様に会えたんだった。適性ある筈だから、空間魔法のストレージくらいなら私でも独学で出来そう…」
練習練習!とキリエは空間魔法の習得に向けて、3ヶ月程、地下で引きこもる事になる。
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「おー、寒い」
冬になろうかという季節。11月になり、王女と城を探検してから3ヶ月が経過。
ぶるりと身体を震わせ、カナンは家で朝食を作る。窓を見ると霜が降りて、ガラスが凍っているのが見えた。
「魔法で寒さを防ぐのは風情が無いからなぁ。霜が降りたから晴れるかな?」
「晴れても寒いわよ。外に出たくない…」
相変わらず石の住人達は溟海の所で修行をし、週末に会いに行く習慣が出来た。これって別居?と不安であったが、今では一人で過ごす事に慣れている。
朝食を作り終え、ボーッと食べる。目の前に座っているエレンはアイが作った赤いチェックのはんてんを着て縮こまりながら、モシャモシャとカナンが作ったサンドイッチを頬張っていた。
「そういえば、姉さん彼氏は?」
「……」
「(だめか)…来年入学する魔法学院で良い出会いがあると良いね」
「人事だと思って…嫁が3人居る人は違いますねぇ。その余裕…爆発しろ!」
「姉さんがグレた!」
エレンは彼氏を作ってはみるが、相手が詰まらないので直ぐに別れを告げてしまう。既に理想が高いので妥協はするが、やっぱり駄目と諦める。
「まぁまだ17歳だし、焦ることも無いんだけど…私だけ好きな人も居ないのが問題なのよ!」
「そ、そうですね」
「…30歳まで相手が居なかったら貰ってね」
「…了解しました。行ってきます」
これ以上エレンの地雷を踏まない様に、そそくさと家を出る。吐き出す息が白く、少し凍った落ち葉が風に流され、カラカラと音を立てている。雪は例年12月に降るので、まだ降っていない。
人が疎らな道を歩き、やがて学校へ到着。
「おはよう、カナン」
「おーおはようモリー。今日も寒いな」
「教室まがだ暖まって無いから、早く来て損したよ」
ははは、と笑うモリーの隣に座り、授業を受ける。学校は特に変わらない日常。夏に魔導具免許が取れたので授業は出なくても良いのだが、学費は両親が払ってくれているので中等部まではしっかり出ることにしている。
「そういえば、消えた銀色の聖女は見付からないらしいよ」
「あー。大教会の聖女だろ?結局盗んだ犯人捕まって無いし、大変だねえ」
「それで、なんか大教会で最近、神託が降りたらしいよ」
「神託?女神から?」
「じゃないかな?」
大教会の聖女が盗まれたというニュースはファー王国にも届く程の大ニュースとなり、消えた聖女を探す部隊が何隊も組まれたが、まだ見付かって居ないという。カナンはもしかしたらあの術式で生き返ったのかなぁ…くらいにしか思っていなかった。
「聖女が消えたのは魔王の仕業だってさ。だから勇者が現れるらしいよ」
「魔王に拐われた聖女を勇者が助ける系だな。遺体だけど(ユウトは国が勝手に決めた勇者だから、今回が本物って事かな?)……でも聖女が盗まれたくらいで神託なんて起きるのか?」
アイと紅羽が関わった以上間違いでは無いのだが、カナン達が去った後の話なので、聖女の事よりも勇者の方に興味が湧いた。
「詳しい事は分からないけど、一般人の僕には関係無いからねー」
「でも面白そうだなー。勇者(笑)が現れたら観に行こうかな」
「なんか勇者に含みがあるね。面白い話なら大歓迎だから行ってきなよ」
「いってみるか(予防はしてあるけど、感知系に優れた勇者ならアイと紅羽は連れて行けないか)…1人で」
学校が終わり、モリーと別れる。カナンは帰宅中、難しい顔をして考えていた。
「女神は魔王討伐に向けて動き出したか。今から勇者を鍛えて、数年後にぶつける気なら…極皇、魔皇、絶対種、究極エルフ相手じゃもう手遅れじゃねえかな?」
ふっと笑い、空を見上げる。吸い込まれる様な澄んだ寒空が気持ち良い。
「それに、俺も居る。何にせよ勇者を拝んでからだなー」




