夏休みの終わり
浜辺に戻ったカナンとサティ。
石の住人達は外に出て雑談している。
カナンはこの日の為に作っておいた釜を取り出し、魔法で綺麗に精米し、洗った米を入れて炊いていた。
「おかず、おかず、いや…最初は白米を堪能しなきゃな…その後は黒毛の牛のステーキ丼、マグロのかま焼きと、後は後は」
「アキ嬉しそうね」
「念願って奴か?」
「米に夢中…私のおかずは秋ちゃんかな」
『美味しいかなー?』
米を蒸らしている間にステーキとマグロのかまを焼いていく。市場で買った醤油もどきの中にニンニクを入れて魔法で時間を進める。
「後は、スープとサラダかな…あっ溟海さん呼ばなきゃ。アイ、溟海さん呼んで来てー」
「はーい」
鶏ガラベースの中華スープを作り、サラダを盛り付ける。野菜は地球で売られている野菜の原種に近い。ロメインレタスや黄緑のブロッコリーといった具合だ。
「やあ皆。おっ、良い匂いだねぇ!」
「やあ溟海さん。沢山あるからお代わり自由だよ」
「嬉しいねえ。じゃあお言葉に甘えるかな」
「我はこの脂身が欲しい」
『紅羽太るよー』
米が炊けたので配膳し、皆で食べ始め。好評な様子で、顔が綻んでいる。
「ああ…米うまい…」
「懐かしい感じね」
『お肉に合うねー!』
「焦げに染み込んだニンニク醤油が良いな」
日本の米とは少し違うが、懐かしい味…カナンの頬に一筋の涙が流れた。
一同は食べ終え、片付けを終えた後、ファー王国を目指し飛び立った。
「溟海さん、そういえば天空はどこに居るんだ?」
「天空は名前の通り空に居るよ。たぶん今見てるんじゃないかな?でも恥ずかしがりやだから中々出てこないと思うけど…」
溟海に言われ、上空を見てみるが晴れ渡った空。何かが居る様には見えなかった。
「はははっ、離れた所から見てるんだよ。千里眼っていう能力を持っているからね」
「へぇー。じゃあ空の何処かから見てるんだな」
「千里眼欲しい…秋ちゃんをずっと見ていられる…」
「天空とサティちゃんを会わせてはいけない気がする…」
「確か昔、浮遊島に引っ越したって言ってたから、そこに居るんじゃないかな?」
「引っ越しなんてするんだな…浮遊島か…住みたいな」
泊まらずに帰る予定なので、スピードを上げて広い森の上空を飛んで行く。
「溟海さん、とりあえず王都に泊まる?それとも近くの川に家建てる?」
「そうだねえ、人気の無い方が良いかな。湖とかある?」
「あるぞ、10キロくらい離れた山に湖があるから、そこに向かおうか」
更にスピードを上げて、数刻程で王都の北西にある山に到着。500メートルの山で川に囲まれた地形、人気は無く、回りに村は無いので誰かが訪れる事も少ない場所。
「そいじゃあ作るかー。モデル・ハウス」
じっくりと時間をかける。イメージを形にしながら木材と石材を使って溟海の家を作成。古き良き日本家屋にしてみたら大いに喜ばれた。家具は後程搬入する。
瓦風の屋根がある屋敷。玄関をガラリと開けると廊下があり、次の間を進むと客間、囲炉裏を囲める座敷、茶の間へと続く。北と南に縁があり、各部屋へ繋がっている。客間、応接間、中庭、書斎、台所、手洗い、湯殿等も完備。
二階に上がれば寝間と、湖を一望出来るリラックススペースを設置。
「秋、凄いね。完璧だよ。ありがとう!」
「気に入ったならここにずっと住んでも良いからね。改装の希望も受けるし、入居者が増えたら増築もするし」
「気に入ったよ。今頃天空は羨ましがっているだろうなぁ。来たら自慢しよう」
嬉しそうな溟海は湖の魔物達に挨拶した後、少しゆっくりする様なので、ここで別れる。
王都は直ぐそこなので、数分も経たずに到着し、帰宅。
しれっとサティも入って来ているが、断る理由って無いかー、と自由にさせている。
「ただいまー。…誰も居ない、店かな?」
『皆は店に居るみたいよ。アキ以外の兄妹はそこに居るわね』
「夏休みが終わる頃だし忙しいよな。にしても濃い夏休みだった」
『一応一区切りはついたんじゃない?たまにはゆっくり過ごしたら?』
「そうだなー。とりあえず依頼を受けつつ状況を整理して、やる事を纏めないと…」
『時間はあるからね。平日は別行動が多くなりそうだけど、寂しくなったら言ってね』
「ははっ、直ぐに言うかもな」
「秋ちゃん、寂しさは埋めてあげるね。…ナニで埋めてもらうの方が…」
「……」
忙しい夏休みが終わり、学校が始まる。




