オリジンに会いに行こう
快晴の海原を眺めながらの昼休みが終わり、バーベキューセットを片付け、七輪を出す。
酒盛り組のアイと紅羽が、まだ飲んでいる為だ。
「一緒に行くひとー!」
「「「………」」」
「一緒に_『アキ、諦めなよ』…」
酒盛り組にサティが加わり、七輪でイカを焼いている。
3人で女子会を開くから行ってらっしゃいと言われたカナンは、リーリア、矢印と共に砂浜を飛び立つ。
「相変わらず自由だねえ」
『みんなアキの生き方を尊重しているからねー。アキも自由でしょ?』
「まあ自由に生きるようにはしているけど、やる事や確認する事が多くて忙しいからなぁ。気長に行くさー」
沖にある先程のポイントから更に2キロ程進む。やがて大きな島が、いやオリジンが見えてきた。
「デカイなー。アグニよりデカイ。古代の記録にもあったし、いつ生まれたんだろうなー」
『鯨かなー?』
海原を悠々と泳いでいる大きな存在。前方は丸みを帯びる魚のフォルム。
全長1キロに及ぶ、紺色の巨大な鯨の姿。
その皮膚は硬い鱗に覆われ、魚の形をした龍と言っても不思議では無い程の存在感。
近付くと、オリジンは出迎えるように何百メートルにも及ぶ潮を噴き、存在を知らしめる。
「グレイシアカタストロフ・ジ・オリジン。名前は物騒だけど穏やかな雰囲気だなー。リーリア。どうすれば良い?」
『ちょっと待ってねー』
大災害の名を持つオリジンに圧倒される。
だがカナンの頭の中は、会って何があるのだろうという疑問の方が占めている。
『頭に乗ってくれれば良いよ。その方が話しやすいし』
「この声はオリジンか?頭ね、ここか?……すげえな」
オリジンの声を聞き、スタッと頭の部分に降り立った。
紺色の鱗に覆われているので乗っても沈む事なく、まるで湿ったコンクリートの上に立っている感覚。
『悪いね、来てもらって。ただ会話したかっただけだから安心して。私の名前は溟海だ』
『こんにちは溟海さん!リーリアと矢印だよー!』
「こんにちは溟海さん。光栄だねえ。俺は、秋。会ってみてどうだい?」
『確かに焦熱…アグニの力を持っている。君は面白いな。それにもう2つ…まあそれは良いか』
身体全体に響く様な、それでいてとても透き通った声で言葉を紡ぐ溟海に、圧倒されつつもまともに会話が出来る事に感動していた。
「そりゃどうも。アグニとは交流あったの?」
『昔はあったというか…あいつは寝てばかりだったから自我が弱くてな。近くを通った時によく攻撃されたんだよ』
『乱暴者だって精霊達も言っていたねー!』
はっはっは。笑う溟海に、喧嘩仲間だったのかな?と勝手に想像してみるが、アグニって泳げるのか?等意味の無い想像に逸れていく。
「溟海さんって意外と喋れるんだな。他の種族とも交流あるの?」
『あるぞ、最近は姿を変えて街に行くんだ。でもこの姿だと水神として扱われるからまともに話してくれなくてな。この姿で秋みたいに話してくれるのは久しぶりだ』
「ははっ、そりゃ良かった。溟海さんはジャッジメントと話すよりは楽だからなー」
『ジャッジメント?…ああ、慈悲とも会って生きているのか…はっはっは!面白いな!』
心底楽しそうに笑う溟海に、カナンも顔を綻ばせる。変身が気になって仕方ないが、先ずは聞きたい事だと自分を制する。
「オリジンっていつから存在しているんだ?」
『私も含めて絶対種は、この星が鼓動を始めた時から存在しているぞ。最初からって言えば分かりやすいかな』
「絶対種って、進化をする必要の無い程の強さを持った原始生命体だもんなー。なるほど、ありがとう。他の絶対種は分かる?」
『そうだな…私が交流を持っていたのは……オリジンの天空はお茶仲間だから1年置きに会うよ。慈悲はまだあの霊山?そうか。絶望って言うのが星の地下深くに居るのと、後は龍王と世界樹か。他にも居るが、交流の無い絶対種の事は言えなくてな。自分で見つけてくれ』
(いや、お茶仲間って何だよ…しかもおっさん絶対種だったのかよ…)
『突っ込みどころ満載だねー!矢印もそう思う?』
暗黙のルールだよと、朗らかな声色で話している。だが突っ込み所の多い溟海に、はははと乾いた笑いを洩らした。
「溟海さん。変身見せて貰って良い?」
『ああ、良いよ』
カナンは溟海から飛び立ち気になっていた変身を待つ。
溟海から魔力が溢れ、青く輝く。
『綺麗だねー』
「……そうだな」
次第に青い光が収縮していった。カナンはその様子を、魔力すげえなーと呟きながら数分待つ。
やがて光が人型を作り出し、光が収まった。
「へえ、人化の理論は龍王のおっさんと一緒か」
「はははっ、龍王にも会っていたんだ。私は100年前に龍王に会ってね。弟子達の修行が終わって家に帰るだけって言うから、天空と一緒に教えてもらったんだよ」
人化した溟海。紺色のローブを纏い。少しはだけた部分からは、白く引き締まった体躯が覗き、腕には魚の刺青の様な紋様が見える。
肩まで伸びた紺色の髪を後で束ね、紺色の双眼を向けるナイスミドル。
『ダンディーだねー!』
「ははっ、溟海さん格好良いねぇ。おっさんは元気そうだったかい?(紺色だからアイのお父さんって感じだな…)」
「ありがとう。龍王は元気だったけど、異界の神と闘った時の呪いが酷くて…腰の辺りを痛そうにしていたんだ。
天空と治療してみたんだけど…完治はしなかった。慈悲に頼れば完全に治ると思うんだけどね」
「溟海さんありがとう。それは俺が原因だから、おっさん連れて慈悲に頼んでみるよ」
天空にもお礼を言わなきゃ。とカナンは溟海に転生した事、混沌の神との闘いを説明しながら話していく。
「へえー秋はやっぱり面白いね!あっ、龍王が呪いの内容を詳しく教えてくれなかったんだけど知ってる?」
「ああ、おっさんの呪い…混沌の神を倒したと思って油断したおっさんが、後ろを向いた時…ケツに攻撃を受けたんだ。
そして、混沌の神が死んだ時刻になると…何故か鼻毛が伸びて、いぼ痔、又は切れ痔になるという恐ろしい呪いなんだ…俺のせいで弟子達に馬鹿にされて…ざまぁ…じゃなかった。少しだけ責任を感じているんだ」
「なんだって…それは恐ろしい呪いだ……龍王が痔の呪い…くっ…治してあげなきゃね」
「そうだな…(今笑ったな)…ところで暇ならバーベキューしていかない?」
カナンは人差し指と親指を口に持っていき、クイッと飲む仕草をする。溟海はそれを見て良いねえ、と満面の笑顔。
リーリアはおじさん同士だから仲良くなるの早いの?と呆れた表情だが、みんなオリジンがバーベキューに参加するとは夢にも思っていないだろうなー、とビビって来なかったアイ、紅羽、サティの事を思う。