海へ行こう3
太陽に照らされキラキラと光る広大な海。穏やかな波を受ける白い砂浜。覗き込めば、透き通る海水の中に、色取り取りの魚が泳いでいる。
カナンは波打ち際に座り、いつになく真剣な表情で前方を眺めていた。海には青、赤、緑のビキニを着た崇高な方々、ついでに目を凝らさないと良く見えない妖精と精霊がキャイキャイと遊んでいる。
足の先から頭の先まで、全てが芸術品の様に美しい肢体。水滴が滴るキメ細やかな肌。美しさと強さを兼ね備えた女神達。カナンは、たわわに実る果実達の一挙一動を逃すまいとしている。
「アキは遊ばないのか?」
「ええ、見てよあの真剣な表情。きっと後で魔力玉に保存する気だわ。どうせタイトルは夏の思い出よ」
「秋ちゃんも立って来れば良いのに、ん?勃ってるから立てないのかな?とりあえず脱げば良い?」
「サティさん駄目よ。水着の映像を残したい筈だから、脱いだら見てくれないわよ?」
女性陣がキャッキャウフフしている様子を真剣に眺めていたが、昼ご飯の準備があるので立ちあがり、波打ち際から少し離れる。
『アキ、嬉しそうだねー!』
「ははっ、嬉しいぞ。俺は幸せ者なんだなって実感してな」
『私も幸せだよー!アキが居なかったら精霊の森に引き込もって寝ているだけだったし』
「いつも嬉しそうだもんな。そういえばリーリアって世界樹の意思は届くのか?」
『届くよー!たまにお母さんが話し掛けてくれるんだ!』
「へえーどんな事を話すんだ?」
『んー…栄養が足りないってよく言ってるよ。アキが初めて精霊の森に来た時も教えてくれたなー。あと最近何か言ってた気がするんだけど、丁度その時パフェ食べてたからあんまり聞いてなかったんだよ!』
世界樹の花から生まれる妖精は世界樹の意思を伝える存在として、英雄の物語でよく語られる。
食い意地張っているから、物語の様な主人公を献身的に支える妖精にはならないんだろうなぁ…と、てへっと笑うリーリアにカナンも笑いかける。
バーベキューセットを出して、準備を進める。途中で魚を捕っていない事に気付き、リーリアと一緒に沖へ向かう事になった。
「ちょっと魚捕ってくるよ」
「行ってらっしゃい」「マグロ…」「お腹空いてきた…秋ちゃん食べたい」
女性陣はまだ海を楽しむ様子。少し飛ぶと静かな沖に到着した。
「何が居るかねえ。アクアスコープ」
海の視野を広げる魔法を発動。海の中がよく見える様になった。水深は300メートル程。10メートル程の水深に魚が泳いでいるのが見える。サバや鰹の様な魚。底の方に大型の水棲魔物が泳いでいる。
「沢山居るなー。マジックネット」
バシュッ。海の中に魔法で作成した網が放たれる。丁度泳いでいた魚群を捕らえ、一気に引き揚げる。
「すげえな。大量だ」
色取り取りの魚が網に掛かった。網に魔力を通し、一気に魚を締めてストレージにしまう。
何回か繰り返し大量の魚をゲットした。次は大物狙うかー、とサーチを掛ける。
「大物は…居た。100メートル先に…大きさは5メートル。念願のマグロ、いや名前はコリエンテ・ビッグフィッシュかな?…ん?2キロ先に島?島なんてあったかな?まあ良いや」
『……』
大物の元に向かう。少し進んだ先でアクアスコープを使うと悠々と泳いでいるマグロを発見。マジックネットで引き揚げる。
「マグロゲット。ん?リーリア?どうした?後で?わかった」
急に黙りこんだリーリアを不思議に思いながらカナンは砂浜に戻る。食事の準備が終わり、海鮮と牛串のバーベキューを楽しむ一同。
先ほどから誰かと念話していたリーリアが食べ始め、アイと紅羽はニコニコと笑いながら、念願のマグロを肴に酒盛りをしている。サティは物欲しそうに指を咥えて、カナンをチラチラ見ていた。
『ねえアキ』
「どうした?食べ終わってからで良いぞ」
『後でゆっくり食べるよ。さっき島みたいの居なかった?』
「ああ、結構大きかったけど浮島か何かか?」
『会いたいんだって、アキに』
「ん?どういう事?島が?」
『うん、あれオリジンだよ。アグニの気配がしたから見に来たんだって』
カナンは先ほどの島の大きさを思い浮かべる。全長1キロ程あり、デカイなー、と素直な感想が洩れる。
「……あれオリジンなのかよ……アグニって、俺が戦ったオリジンか…」
『アグニの力を持ってる人間だから会ってみたいんだって。人間がオリジンを倒すなんて信じられないみたいでビックリしてたよ』
「意思の疎通が出来るんだな」
『泳ぎながら世界の知識を得ていたらしいよ。言葉もね』
暴走する熔岩のオリジンを思い浮かべる。闘いたくないなー、という感想が一同から洩れた。
「まあ穏やかな性格だって言うし、会ってみるかー」
『そういうと思ったよ。ありがとね。何時でも良いから、さっきの場所で待ってるって』
「さっきの場所ね、了解」
港町に行く予定を変更し、オリジンに会いに行く事にした。




