海へ行こう2
朝日を受けながら少し寒気を感じたカナン。
ダンジョンコアに何か魔力が入った様な感覚だが、遠いし気のせいかな?と気にしないようにした。
一応ダンジョンコアのオーナーなので近くに行けば異変に気付いたのだが、1年後まで行く予定は無いのでカナン、アイ、紅羽、そしてキリエの魔力がダンジョンコアに入っている事になってしまった。
西へ進み、精霊の森を通り過ぎる。
カナンは遠くに見えるサティの実家がある街を眺め、挨拶に行かなきゃなーでも妹に会いたくねえなー、と考えていた。
『アキ、そういえば聖女キリエって、歴代最強聖女って言っていたけどそんなに強かったの?』
「そうだなー、龍王のおっさんと互角だよ。紅羽が封印された後かな…突如次元の扉が開いて、邪族が攻めてきた時に活躍したんだ。
神聖魔法と星魔法を駆使して、ほとんどの邪族を1人で葬り去った。死因は邪気を吸いすぎた為と言われているが、本当の所は分からない。因みに世界樹の到達者で、おっさんの喧嘩仲間だそうだ」
『そうなんだ。確かに綺麗な銀色の髪だったわね』
「星に愛された証拠だな。もしグリーダが移魂していたら厄介だったよ。神聖属性、星属性に邪属性が合わさるんだ。確実に進化して神種か超越種になっていたよ」
『ふーん、だからあんなに聖女の魔力が渦巻いていたのね』
「ん?魔力がなんて?_あっ牛だ!あの牛名前知らないけど美味しいんだよ!」
カナンはアイの言葉を深く考える前に、地上に見える黒毛の牛を見つけ、ウキウキと狩りに行く。
仕留めてから、素早くスパッと包丁で切り分け、ストレージにしまう。
「バーベキューが豪華になるなー。海鮮と牛串だな」
『アキ、あそこにも居るよ』
「おっナイス!」
その後2、3匹見つけ狩る。黒毛の牛は王族でも中々食べられない貴重な牛で、スーパービーフなんて名前が付いている程だ。カナンのストレージは遅延の効果もあるので長持ちする。加速空間で引きこもるのに、沢山保存するときは冷凍保存して過ごす。
『アキって良く食べるわよね』
『我より食べる時あるよな』
「なんか足りないんだよなー。成長期だからか?」
『美味しい牛乳の牛さんは居ないのー?』
「居るぞ、真っ白な牛だ。…ああ、プリンね」
『高級プリン!』
ははっ、と笑うカナンだが今世ではよく食べる。食べ過ぎる程に食べる様子に、最初両親は心配していたが今では慣れている。
西へ西へ。途中にあった町はスルーして進む。妖精霊の呪い、いや加護の影響か、人の街で泊まるよりキャンプを好む様になっていた。
「エルメスを過ぎると魔物が多い地帯の辺境が続いて、人間はほとんど住んで居ない。代わりに色々な種族が多いかな」
『へえー。どんな種族なんだ?』
「総称して魔族って言われている。総じて寿命が長くて、人間に角が生えた種族とか、身体が透けている霊族、小人や巨人とか細分すると沢山居るぞ」
『じゃあ魔力体の我らは住みやすいのか?』
「どうだろうな。魔族にとって、純粋な魔王は崇められる存在だから、バレたら大変だぞ。わっしょいわっしょいってな」
『んー、騒がしいのは嫌だな』
『でも働かなくても良いんじゃない。夢のニート生活よ』
『ニートか…それ良いかも』
「やめてくれ、それに人間の立場は低いから、俺と離れる事になるぞ」
『それは嫌ね』
『ニート諦める』
山脈を越えてエルメスの領土を過ぎる。広大な森が広がり、隙間から魔物の姿が多く見える。魔物の多い地帯に入った様だ。少し威圧を放ち、空を飛ぶ魔物を牽制する。
『広い森ね。ずっと向こうまで続いているわよ』
「昔から人間の手が入っていない自然だからな。でも魔物は弱いから踏破するのに、そんなに難易度は高くないよ」
『ふーん、そういえば魔の森はどうなの?難易度高い?』
「高いぞ。魔物の強さの平均は冒険者ランクA…ゴイームのおっちゃんくらいだし、深部、世界樹の近くは王種が多いからほんの一握りの存在しか行けない」
『でもその内行くんでしょ?』
「そうだな。その内な」
広大な森の上を飛び進む。
時折見える集落は、ゴブリンやオークの集落。
冒険者等は躍起になって潰す存在だが、カナンは潰したりせずにそのまま進む。潰し過ぎると生態系が崩れる為だ。
太陽が真上に昇る頃になって、ようやく森に終わりが見えた。やがて森を抜け、近くの高台に降り立ち、休憩を取る。
石の住人達も出てきて昼御飯を食べ、少しだらだらしていた。
「アキ、魔族の王様って魔王って言うの?」
「いや、普通に国王だよ。魔王なんて名乗ったら国民が許さないだろうし」
「じゃあ私達は国王より偉いのね」
「そうなるな。見た目は人間だから魔力関知に優れた魔族じゃないと分からないと思うけど、王都は通り道に無いから行かないぞ」
「あら残念」
「我は別にいいかな」
『リーリアと矢印はー?』
「リーリアと矢印も信仰されているぞ。あとサティちゃんも究極エルフだからエルメスの王族並みの対応をされるかな。
因みに俺は、人間が信仰対象を連れ回した罪で異端審問にかけられ投獄、後に処刑かな」
「アキ、可哀想に」
「こんな所でぼっちにならなくても…」
『ご飯は届けてあげるねー!』
「いや捕まって無いし……私は味方?矢印は優しいな」
雑談をしてから高台を飛び立ち、一同は更に西へ。途中大きな街を見つけたが、バレると面倒だからと寄らずに通り過ぎる。
「港町は貿易もしていて、人間に寛容な魔族も多いから降り立つのはそこかな」
『じゃあ明日は港町を散策ね』
『マグロ食べたい…』
「マグロっぽいのは居るから海で捕ろうか」
やがて日が傾く頃に、潮の香りが漂ってきた。海まであと少しという所で、街道で魔物に襲われている馬車を発見。見殺しは目覚めが悪いので助ける事に。
「ルイ!街まで後少しだ!なんとか蹴散らすぞ!」
「ライ、そんな事言っても数が多いよ!_きゃっ!」
「お前ら早く倒せよ!」
どうやら商人の馬車が10匹程の黒い狼型の魔物に襲われている様だ。二人の護衛がなんとか剣を振り牽制しているが、ジリジリと距離を詰められながら、少しずつ攻撃を受けている。
「おーい、助けいるかー?」
「なんだ!空から?_すまない!応援頼む!」
「はいよ、拡散メルトビーム」
バシュンバシュンと狼達を一瞬で貫き、一匹残らず殲滅する。逃がしたら更に人を襲う為だ。貫かれた狼はシュッと溶ける様に消えていった。
「は?……_あっありがとうございます!…人間?」
「じゃあなー」
「いや待って下さいよ!お礼させて下さい!」
おでこに一本の小さな角が生えた、赤い髪で15歳くらいの少年と少女がカナンを引き留める。
「人族がどうしてここに居るんだ?」
「ああ、海が見たくてな、観光だよ」
「強いんですね。びっくりしました」
ライという少年と、ルイという少女の兄妹。冒険者をしているという。
「なんだあ?_ちっ、人間か。一応礼はしてやる。ほら、これが欲しいんだろ?」
周りに魔物が居ない事を確認したあと、ズカズカと馬車から出てきて、商人と思わしき中年の男が話に割って入ってきた。
訝しげな視線を向けて、カナンに銀貨を投げ付ける。
その目は人間を嫌悪している目。カナンは商人と銀貨を無視し、申し訳なさそうにしている兄妹に向き合う。
「じゃあお邪魔みたいだから行くな」
「なんか悪いな」
「あの、お礼をしたいので港町の冒険者ギルドに来て下さい。お願いします!」
「考えておくよ」
商人が話を拗らす前に飛び立つ。人間嫌いは昔と変わらないなーと思いながら港町を目指した。
『若者はそんなに嫌ってないわね。なんで?』
「ああ、数十年前まで人間が魔族を誘拐して、奴隷にする商売が横行してた影響で…30代から上の魔族は人間嫌いが多いんだ」
『若い世代は知らない訳か』
「実際に見ていないからな。200年前も頻繁にあったから根は深いと思うぞ」
『戦争はしたの?』
「一応してるけど、広い森のお陰で大規模な戦争は無い。森が無かったら全面戦争だな」
そして夕陽が沈む頃に海に到着。街から遠く離れた、人気の無さそうな岩場の間にある砂浜に降り立った。
石の住人達が出てきて赤く染まった夕陽を眺める。
「綺麗ね」
「綺麗だな」
『沈んでるねー』
「そうだな。綺麗だな、本当に」
カナンは夕陽に照らされ微笑むアイと紅羽に、サンセットビーチって卑怯だよな…とついつい見惚れてしまう。
暫く眺めていると、気配がして誰かがやって来た。
「秋ちゃん。早速サンセットビーチセッ○スしよ?」
「サティちゃん。いきなり雰囲気ぶち壊さないで…」
急いで来たのだろう。サティは頬を上気させ、少し息切れしている。今日もエロいなーと思いつつ。ご飯まだだからと言って、なんとか逃げる。
「アイ、紅羽。頑張ろうね」
「ええ」
「ああ」
「_ひぃっ!」
三人の笑顔を見たカナンは縛られたトラウマが甦り、顔を引きつらせた。
とある場所にて
「あれ?」
目の前に広がる広大な砂漠。生物の気配が気薄な、生存競争の激しい場所で、首を傾げる銀色の髪の女性。
「ここ、どこ?」
桃色聖女と同じく、方向音痴の能力を持っている彼女は、泣きそうな顔で天を仰ぐ。
「うぅ…魔力を辿った筈なのに…」
彼女は無事、想いを寄せる彼に会えるのだろうか。




